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アングル:ペルー鉱山の公害訴訟、環境公平性巡る「巨大な一歩」に

ロイター / 2024年4月22日 13時3分

 公害に見舞われている南米ペルーの鉱山周辺地域の住民には、健全な環境で暮らす権利がある──。裁判所が下したこの判決は、いまだ環境汚染に苦しむ中南米の他のコミュニティーにとって重要な前例となるかもしれない。写真は2009年8月、オロヤの製錬施設付近で撮影(2024年 ロイター/Pilar Olivares)

Anastasia Moloney

[ボゴタ 16日 トムソン・ロイター財団] - 公害に見舞われている南米ペルーの鉱山周辺地域の住民には、健全な環境で暮らす権利がある──。裁判所が下したこの判決は、いまだ環境汚染に苦しむ中南米の他のコミュニティーにとって重要な前例となるかもしれない。

米国やカナダ、中南米諸国が加盟する米州機構(OAS)の独立司法機関である米州人権裁判所(IACHR)は3月、100年にわたって製錬業が受け継がれてきたアンデス高地の町オロヤを巡り、ペルー政府が規制や数十年に及ぶ大気・水質・土壌汚染への対応を怠り、地元住民の健康を脅かしたとの判決を下した。

「これは、健全な環境と人間のコミュニティーの健康の関連性を法廷が実際に認めた、初めての事例だ」と環境団体アースジャスティスの上級弁護士、ジェイコブ・コパス氏は言う。同氏は10年以上、オロヤの環境問題に取り組んできた。

この判決は法的拘束力を持ち、国が控訴することはできない。汚染の影響を受けるペルーや中南米の他のコミュニティーでも公正を求める道が開かれ、将来的な域内の環境関連訴訟をも左右し得るとコパス氏は説明する。

「いまや、この前例がある。これを引用して汚染は人権侵害であると認識されていることを示せば、正当な対応を受ける権利がある、と主張できる」

IACHRはペルー政府に、有毒な環境汚染で被害を受けた住民に対して賠償を支払うよう命じた。被害を受けた人々は、状況に応じてそれぞれ3万ー5万ドル(約460万ー770万円)を受け取るべきだとした。

同時に、現在のオロヤにおける公害被害状況の調査、大気汚染の監視体制や警告システムの整備、被害を受けた住民への医療の無償提供のほか、公の場で過失を認めるよう国に命じた。

製錬施設は現在、株主に元従業員が含まれるメタルジカ・ビジネス・ペルーSACが運営している。同社は今後も操業を続けることが可能だ。

非営利組織「米州環境防衛協会(AIDA)」の弁護士リリアナ・アビラ氏はこの事例について、「中南米で環境公平性を推進する上で巨大な一歩となる出来事だ」と述べた。同氏は、コスタリカの裁判所でオロヤの原告代理人を務めた。

原告80人のうちの1人で環境活動家のヨランダ・スリタさん(65)は、判決が出た今、被害を受けた人々が確実に賠償をもらえるようにすることが次の闘いだと話す。

「次にすべきは、判決に従うよう国に求めることだ。困難だが不可能ではない」とスリタさんは言う。

「私たちの闘い、私たちの抵抗は、将来の世代がより良い生活を送れるようにすることが目的だ」

ペルーのフアン・カルロス・カストロ環境相は地元メディアに対し、政府は何年にもわたってオロヤでの汚染を止めようと試みていたが、同地の雇用機会は主に製錬所が担っていたために困難を極めていたと述べた。

「ペルーはIACHRの加盟国だ。国の機関(法務省)が方針を決定する限り、その主張を尊重する」

<布石となる判決>

およそ3万人が暮らすオロヤでは、金や銀、鉛、亜鉛、銅などの金属を製錬する工場が1922年に設立されて以降、100年にわたって操業が続けられてきた。

訴訟ではオロヤの住民らが、皮膚・心臓・腹部の異常や、慢性的な頭痛、呼吸器疾患などの証拠を提出。町の中心部にある製錬所から排出される灰色の煙霧が鉛中毒を引き起こしたとも主張した。

裁判所は、地元住民らが鉛やカドミウム、ヒ素、二酸化硫黄ガスにさらされて重大なリスクに直面したことが確認されたとし、住民が体調不良を訴えた際にも政府からの十分な医療手当てを受けられなかったと指摘。「国が、人々の健康を深刻な危機にさらす水準の汚染が発生していることを容認していたと示す証拠が十分にある」とした。

アースジャスティスによると、訴訟に関わった子どものほぼ全員の血中鉛濃度は、世界保健機関(WHO)の基準値を何倍も上回っていたという。

<「警鐘」>

今回の判決は、ペルー国内外において、より多くのコミュニティーが政府に対する公害訴訟を起こす契機となる可能性がある。

環境活動家のスリタさんの元には既に、鉱業によって引き起こされた産業・水質汚染で苦しむペルー各地のコミュニティーリーダーから、どのように訴訟を起こして裁判に持ち込むべきか、助言を求める連絡が集まっているという。

「人々が抗議するための『種』がまかれた」とスリタさんは語る。

オロヤの判例を皮切りに、中南米では、人権法に依拠し市民が国を相手取る環境関連訴訟が増加している。

弁護士のコパス氏は、同地域が健全な環境を保証する「先駆者」になっており、そうした権利が憲法に明記されている国もあると話す。

今回の判例は、今後の裁判でも繰り返し引用され、環境問題に関する憲法の制定にも影響を与え得る、とコパス氏は続けた。

同氏は、これから取り組む中南米の訴訟問題ほぼ全てで、オロヤのケースを取り上げる予定だと述べ、IACHRが命じれば、政府は基本的にこうした問題を無視することはできないと指摘。「今回の事例が多くの国に対して、公害による人体への影響は無視できないと呼びかける警鐘になるよう期待している」と語った。

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