アングル:英国の「刑務所パンク」危機、ネット環境改善も解決策に
ロイター / 2024年8月25日 8時17分
8月20日、 英国では移民排斥の暴動で数百人が逮捕されたことをきっかけに刑務所の過密状態が危機的水準に達し、スターマー新政権は、容疑者を警察署で留置する期間を延ばす緊急計画「夜明け作戦」を発動させた。レスター刑務所で2018年9月撮影(2024年 ロイター/Darren Staples)
Adam Smith
[ロンドン 20日 トムソン・ロイター財団] - 英国は今月、移民排斥の暴動で数百人が逮捕されたことをきっかけに刑務所の過密状態が危機的水準に達し、スターマー新政権は、容疑者を警察署で留置する期間を延ばす緊急計画「夜明け作戦」を発動させた。ただ、刑務所のパンク状態を抜本的に解決するには、インターネット環境を改善して社会復帰のための教育環境を整える道が必要との指摘も出ている。
スターマー新首相は就任前から、英国の刑務所制度を「記念碑的な失敗」と評していた。
英国は欧州西部で最も収監率が高い。7月5日現在、イングランドとウェールズの受刑者数は8万7453人と、前年の8万6035人から増加し、最大収容人数とされる8万8864人に迫っている。全国の受刑者数は1990年以来倍増しているが、刑務所への支出は年率6%近く減少している。
慈善団体や専門家によれば、刑務所の目的を変え、刑罰よりも更正に重点を置くことが、解決策の1つになり得る。
2021年の調査によると、イングランドとウェールズにある117の刑務所のうち、ブロードバンド通信用のケーブルやハードウェアを備えているのは18カ所にとどまり、他の国々に比べて見劣りする。
フィンランドやオーストラリアでは、デジタルアクセスによって収容者の刑務所内外での人間関係が改善し、自主性が高まり、全体的な幸福度が向上したという調査結果が出ている。英政府も、こうしたことが再犯率の大幅低下につながり得ると指摘している。
収容者の学習を支援する慈善団体シャノン・トラストは、政府が教育目的のブロードバンド環境整備を優先事項に据えるべきだと主張。幹部のエイミー・ロングスタッフ氏は「刑務所内で(読み書き計算の)プログラムをデジタル提供できるようになれば、より多くの人々に教育が行き届き、コストと資源の節約につながる。また、収容者がデジタルツールを使いやすくもなる」と述べた。
<刑務所のデジタルアクセス>
受刑者に教育へのアクセスを提供するデジタル学習会社コラクルの代表、ジェームス・ツイード氏によると、英国の刑務所の多くはビクトリア朝時代に建てられて老朽化している上、予算の制約もあり、デジタル時代に取り残されている。
シンクタンク「センター・フォー・ソーシャル・ジャスティス」によれば、国内の刑務所にブロードバンドインフラを設置するには約1億ポンド(190億円)を要する。
しかし再犯がもたらす社会的・経済的コストは約180億ポンドだ。刑務所の慈善団体「ザ・クリンク」の調査によれば、通信教育で教育課程を履修した受刑者は、そうでない受刑者よりも再犯の可能性も頻度も低い。
英政府によると、高等教育コースを受講した受刑者は受講しなかった受刑者に比べ、出所後1年以内に再犯が確認された人数が100人当たり4―5人少ない。
ケント州に住む元受刑者デビッド・ブレイクスピアさん(54)は、刑務所でデジタル教育にアクセスできれば状況は大きく違っていたはずだと話す。「正直言って、(刑務所に)ノートパソコンがあったら独房から出られなかったと思う。学習で忙しく、他のことをする時間がなかっただろう」
ブレイクスピアさんは40年以上にわたって15カ所の刑務所を出たり入ったりしていた。学校を退学させられていたため、刑務所で勉強を終えなければならなかった。
「デジタル技術にアクセスできないため、刑務所で遠隔学習するのは非常に困難だった」という。
英国は、いわゆるスマート刑務所(主な目的として出所後に備え、教育と訓練、仕事のプログラムが設けられている刑務所)を実験的に導入しているが、管理の失敗により結果は芳しくない。教育目的で受刑者にタブレット端末を提供しても、職員が受刑者にオンライン受講に定期的にアクセスさせなかったり、タブレットが求職のために利用できなかったりした例が報告されている。
<諸外国の事例>
フィンランドは2021年、初のスマート刑務所の運営を南部の都市ハメーンリンナで開始した。受刑者はデジタル掲示板や電子書籍、教材を利用できる。また、インターネットを使って刑務所の職員のほか、家族と連絡を取ったり、法的支援を受けたりすることも可能だ。
フィンランドのスマート刑務所プログラムに携わる心理学者のピア・プオラッカ氏は「(受刑者は)自主的に勉強したり、更生したりすることができる。これは大きな利点だ。(ネットは)社会との架け橋となり、市民生活の様子やデジタル技術を学ぶことができる」と語った。
オーストラリアのニューサウスウェールズ州でも同様のプロジェクトが進行中で、ほぼすべての刑務所に独房内テクノロジーが導入され、受刑者はタブレット端末を持っている。テレビ電話で家族と面会したり、グループ用プログラムにオンラインで参加したりといったことが可能だ。
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