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焦点:日鉄、買収不成功なら戦略に狂い 米国で次の機会模索か

ロイター / 2024年12月24日 16時14分

 12月24日、1年がかりで取り組んできた米鉄鋼大手USスチール買収が不成功に終わった場合、海外に成長を求める日本製鉄は戦略の練り直しを迫られる。写真は米ミシガン州リバールージュにあるUSスチールの工場で9月撮影(2024年 ロイター/Rebecca Cook)

Ritsuko Shimizu

[東京 24日 ロイター] - 1年がかりで取り組んできた米鉄鋼大手USスチール買収が不成功に終わった場合、海外に成長を求める日本製鉄は戦略の練り直しを迫られる。世界で最も鉄を消費する米国で事業を一気に拡大するチャンスを失うのは痛手で、川上の権益確保による原料事業、伸びるインドへの追加投資などを進めつつ、再び米国での成長機会を慎重にうかがう可能性がある。

<USスチール買収のメリット>

日鉄がUSスチールの買収を発表したのは昨年12月。インド、東南アジアに加え、先進国の米国に鉄源一貫製鉄所を持つはずだった。日鉄が掲げるグローバル粗鋼生産1億トンに近付き、連結事業利益1兆円の目標をクリアできると目論んでいた。

米国は先進国で唯一鋼材需要が伸びている一方で、生産能力は内需よりも小さく、鋼材の純輸入国だ。需要が強いだけに、市況も高く、中国からの安価な鋼材からも守られている。日鉄の世界戦略に欠くことのできないピースであることは明白だった。

2兆円超という大規模買収で財務基盤は一時的に悪化し、増資も不可避とみられているが、そうしたマイナス面を上回るメリットがある案件だと鉄鋼業界に詳しい証券アナリストらは指摘する。大和証券アナリストの尾崎慎一郎氏は「中長期成長に向けた非常に重要な一歩」、SBI証券アナリストの柴田竜之介氏は「千載一遇のチャンス」と話す。

しかし、安全保障の観点から買収を審査してきた対米外国投資委員会(CFIUS)が23日、かねてから計画に反対する構えをみせていたバイデン大統領に最終決定を一任した。大統領は15日以内に判断を下す。

仮に不成立となった場合、日鉄にはUSスチールに5億6500万ドル(約800億円強)の違約金を支払う義務が発生する。企業の合併・買収(M&A)のアドバイザー業務などを手掛けるフロンティア・マネジメントの原田一裕シニアアナリストは、「現状からは800億円の支払いだけで大きなマイナスはないが、プラスになる大きなチャンスを逃したという意味で大きい」と話す。グローバル粗鋼1億トン・連結事業利益1兆円という目標達成の時間軸が伸びると指摘する。

<インドも有望>

米国とともに成長市場として有望なのは、日鉄が欧州鉄鋼大手アルセロール・ミタルと合弁事業を手掛けているインドだ。世界鉄鋼協会によると、2024年の世界鋼材需要は前年比0.9%減少する一方で、インドは過去最高を更新する見通しにある。

フロンティア・マネジメントの原田氏は「これまで以上にインドなどに力を入れてやっていくことになる」とみる。インドも他のアジア諸国と同様、中国から供給過剰になった鋼材が流入しているが、最大25%の関税を一定期間かけて「セーフガード」措置を講じていく計画を持つ。

SBI証券の柴田氏は、インドもミタルとの合弁事業が順調なので、引き続きそこを軸に資金を投入するだろうと予想する。インドでは25年から順次、新しい高炉が立ち上がる。

日鉄はUSスチールの買収と平行し、原料ビジネスの拡大も進めてきた。原料の安定調達やコスト抑制に向け、原料炭や鉄鉱石の自社比率を4割程度まで拡大させるべく、積極的に動いている。直近では12月19日、カナダの鉱山に3割出資することを発表した。高炉よりも二酸化炭素の排出量が少ない電炉で使う、純度の高い鉄鉱石を確保する。

<「米国なしはあり得ない」>

それでも、鉄鋼メーカーが成長するには米国市場が欠かせない。米国第一主義を掲げるトランプ氏が来年1月に大統領に就任すると、海外からの鋼材輸入は難しくなり、米国内に製鉄所を持つことがより重要性を増す。

USスチール買収のために日米間を何往復もしてきた日鉄の森高弘副会長は「伸びているマーケットにインサイダーで入る。米国なしでのグローバル戦略はあり得ない」と話していた。

ただ、USスチールの買収が不成立に終わると、仮に米国で売り出し案件が出たとしても、買収できるかどうかは不透明感が増すことになる。原田氏は「米国に対するアプローチは別の角度からやっていくことになる」と指摘する。すべてを一気に買収するのではなく「マイナー出資からスタートし、少しずつ信頼を得ていく形なども考えられる」と話す。

USスチールの買収が完了すれば売却することになっているアルセロール・ミタルとの合弁、AM/NSカルバート(アラバマ州)は業績が好調だ。今後は同事業を拡大しつつ、他の機会を狙っていくことになりそうだ。

(清水律子 取材協力:大林優香 編集:久保信博)

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