アングル:欧州エネルギー高騰、消費者への影響和らげる策に苦慮
ロイター / 2022年3月24日 19時6分
3月21日、南欧諸国が提示したエネルギー市場への介入案は、今週開催される欧州連合(EU)首脳会議が抱える難題を浮き彫りにした。写真はポルトガル・リスボンの発電所。2018年5月撮影(2022年 ロイター/Rafael Marchante)
Kate Abnett Susanna Twidale
[ブリュッセル/ロンドン 21日 ロイター] - 南欧諸国が提示したエネルギー市場への介入案は、今週開催される欧州連合(EU)首脳会議が抱える難題を浮き彫りにした。背景には、ロシアのウクライナ侵攻により深刻化した過去最悪レベルのエネルギー価格高騰への対応を探らなければならない事情がある。
EU加盟27カ国は、それぞれ独自の責任のもとで自国のエネルギー政策を進めている。このことが、欧州委員会による計画立案という作業を複雑なものにしている。その過程で、ロシア産天然ガスへの依存抑制、経済的な痛みの緩和、そして二酸化炭素排出の削減という壮大な計画も維持する、という複数の目標のバランスを取らなければならない。
エネルギー価格がすでに急騰を見せていた昨年10月に提出された一連の提案は、各国の補助金や減税を軸とするものだったが、EU執行部は、3月24─25日にブリュッセルで行われる首脳会談で、各国指導者に対してさらなるオプションを提示しようと準備を進めている。
協調介入への賛否が分かれる中で、新たなオプションには、各国が単独で実施可能な措置が含まれるものと予想される。
天然ガス価格に上限を設けるというEU規模での介入に抵抗する反対派は、こうした介入策は実質的に公的資金による化石燃料発電への助成になると指摘する。そんな資金があるなら、クリーンエネルギーへの移行に使うべきだ、というのが彼らの主張だ。
賛成派は、こうした措置なしにエネルギー価格が高止まりした場合、貧困家庭の保護に向けた国内措置の資金確保が難しくなる加盟国も出てくると主張する。EU諸国の政府はすでに、消費者保護のための減税・補助金に何十億ユーロも注ぎ込んできた。
ポルトガルとスペインは先週、欧州電力スポット卸売市場で、メガワット時(MWh)あたりの価格を最高180ユーロに制限する案を作成しており、EUの支持が得られなくてもその計画を進めていくと語った。
しかし、スペインのエネルギー省当局者が21日に語ったところでは、上限価格設定は同国の提案の柱ではなく、広くEUの支持が得られる対策の方が好ましいという。
「現時点では、上限価格の設定はメインのオプションではない」とこの関係者は語った。「柱になるのは、ガス価格と電力価格のデカップリング(切り離し)だ」
すでに上限価格を設定した国もある。フランスは昨年、スポット市場の価格よりも低い価格で販売したガス会社に補償を行うことで国内のガス価格の上昇を食い止めた。
これとは別にギリシャも、電気料金の高さの主因である欧州の天然ガス価格への上限設定を提案している。
エネルギー市場への介入と上限価格設定に反対している国としては、ドイツやオランダなどがある。
オランダのロブ・イェッテン気候問題担当相は17日、「市場介入というのは非常に気が進まない。持続可能なエネルギーへの投資を妨げかねないため、短期的な理由で市場を混乱させることは避けたい」と語った。
ドイツ最大のエネルギー企業エーオン のレオンハルト・ビルンバウム最高経営責任者(CEO)も先週、人為的な上限価格の設定は、需要増大に合わせてエネルギー生産を増やすよう生産者を促す「希少性のシグナル」を覆い隠してしまうリスクが存在すると語った。
<コストにはばらつきも>
欧州諸国には、電力価格を設定する共通のシステムが存在するが、卸売コストについては、各国のエネルギー・ミックスや送電網、気候といった地域的要因により、加盟国の間でばらつきがある。
21日、スペインの翌日物市場におけるベースロード電力契約は約175ユーロ/MWhで取引されていたが、ドイツでは同様の契約で約237ユーロ/MWhだった。
全体の電力価格は、需要を満たすのに必要な最後の電力単位を市場に供給するコストにより決定される。こうした慣行ゆえに、天然ガス発電所が価格を左右する場合が多くなり、スペインに言わせれば、電力価格が再生可能エネルギーのシェア拡大を正当に反映していない点である。
EU執行部は、スペインが昨年末以来求めているガス価格と電力価格のデカップリングに難色を示しており、EU電力市場改革の可能性について各国エネルギー規制当局から今月提出される予定の報告書を待ちたいとしている。
オーストリアのレオノーレ・ゲウェスラー気候問題担当相は、報告書の結果が分かる前に動くのは賢明ではないだろうと語った。
ゲウェスラー氏は、「エネルギー市場でどのような変更を行うにせよ、慎重に検討する必要がある」と語った。
エネルギーコストの高騰は、2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻により悪化している。EUは今回の侵攻により、EUが輸入する天然ガスの約40%を供給しているロシアへの依存を削減するための速やかな計画立案を迫られている。
EUは今月、年内にロシア産ガスへの依存を3分の1に削減する計画を立案したが、アナリストらは、この計画は乏しい液化天然ガスの供給源を取り合うこととなり、達成は難しいだろうと話している。計画では同時に、再生可能エネルギープロジェクトと、省エネに向けた改修の拡大を加速することを要求している。
欧州委員会は今週、供給急減の事態に対応できる余裕を持つため、冬になる前に各国が天然ガスの備蓄を満たすように義務づけるEU全体での規則を提案するとみられている。ロイターが確認したEUサミットの共同声明案では、この提案を「前進させる」ことに合意している。
(翻訳:エァクレーレン)
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