情報BOX:FRB「新戦略」のポイント
ロイター / 2020年8月28日 10時26分
8月27日、米連邦準備理事会(FRB)が雇用最大化と物価安定のために打ち出した新たな金融政策の戦略について、5つの重要なポイントを以下に示した。ワシントンのFRB本部で2017年5月撮影(2020年 ロイター/Kevin Lamarque)
[27日 ロイター] - 米連邦準備理事会(FRB)が雇用最大化と物価安定のために27日打ち出した新たな金融政策の戦略について、5つの重要なポイントを以下に示した。
(1)新戦略はどのようなものか
物価が上がり過ぎることを心配するよりも、労働市場の強化に重点を置いている。完全雇用を「広範かつ包括的な目標」として達成することを約束し、FRBの政策判断は現状の雇用規模が完全雇用にどれだけ「不足」しているかに依拠する形になる。
今後FRBは引き続き高過ぎる失業率の引き下げに取り組むが、逆に失業率が低過ぎたり、低下スピードが急速過ぎたりしても、これまでのように警戒姿勢は取らない。
物価上昇に関しては、長期平均で2%を目指すというより緩い目標を導入。物価上昇率が2%を下回る局面があれば、その後一定期間2%超に上振れするのを容認して埋め合わせる。
(2)経済への影響は
従来の政策運営の枠組みでは、失業の行き過ぎた減少は、望まないインフレの警戒信号と受け止められてきた。
ところが実際にそうしたインフレは起きなかった。新型コロナウイルスのパンデミック前に、米国の失業率は約50年ぶりの低水準を記録したのに、物価高騰の兆候は皆無だった。新たな枠組みはこの教訓を生かし、雇用が増加していてもFRBが緩和姿勢を維持する余地を設定している。
新戦略は食品やその他生活必需品の値上がりをもたらす恐れがあるが、パウエル議長は、物価が低くなり過ぎるのを防ぎ、より頑強な労働市場を構築できる以上、こうした値上がりを甘受する価値があるとの見方を示した。
(3)実際に新戦略はどんな効果があるのか
物価上昇率が何年にもわたって2%を下回っている以上、FRBの政策担当者は今後一定期間、2%超で推移する局面が出てくるまでは、利上げを実行するどころか、考えさえしなくなる。
新戦略の背景には、家計や企業が将来の物価上昇を確信すれば、いち早く借り入れや消費、投資に動くだろうという想定がある。
景気下降時の早い段階で消費が活発化すれば、雇用創出や需要押し上げに役立ち、経済をより迅速に改善させてくれるはずだ。
一方でFRBが失業率押し下げに改めて注力すれば、幅広い層の労働者が仕事に復帰できる。
(4)うまくいかない可能性
新戦略が有効に機能するためには、FRBはインフレファイターとしての姿勢を捨て去り、強力な労働市場を維持するという新しい役割に全力投球すると、家計と企業に信じてもらわなければならない。また多少のインフレは、それが雇用増加につながるならば良いことなのだという考え方も受け入れてもらう必要がある。
低金利を長期間続けると株価が上昇し、経済的に恵まれない人よりも富裕層が恩恵を享受するという問題も出てくる。本来、新戦略は前者の状況を改善するのが狙いであるにもかかわらずだ。
別の問題として、単にFRBが物価の上振れを歓迎すると宣言しただけで、現実化できると限らない点が挙げられる。FRBはあらゆる手段を行使すると約束しているものの、具体的な達成へのメカニズムは示されていない
(5)なぜ今導入されたのか
FRBが心配していたのは、物価上昇率と金利水準が過去に比べて低く抑え込まれている世界では、景気悪化の際に利下げという伝統的な対応策を行使する余地が乏しくなり、手持ちの効果的な政策がなくなってしまう状況だ。
2012年にFRBが採用した従来の政策の枠組みで中心的な存在となったのは、2%の物価目標の正式な設定だった。これは絶対的には低いが、景気悪化時にデフレに陥るのを避けられる水準とみなされた。
だがその後数年間の経済は、FRBの政策担当者が想定していなかった展開を見せ、事実上のゼロ金利と大規模な債券買い入れを駆使したのに、物価はひたすら目標を下回り続けた。
そして低インフレによって、FRBは利下げだけで上向かせられなかった経済を支える手段が乏しくなってしまった。今に至るこの危機に対処するため、企業への直接融資など政治的に反発もある措置を講じなければならなくなっている。
新戦略は、パンデミックがもたらした深刻な景気後退に対するFRBの取り組みを後押しするために特別に打ち出されたわけではない。ただその有効性が試されるケースになる可能性がある。
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