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未婚女性がPR役になるのはなぜ?性別不問にした山形の「ミス花笠」、でも結局男性は選ばれず

47NEWS / 2024年8月19日 10時0分

「山形花笠まつり」で紅花をあしらった花笠を手に舞を披露する踊り手=5日夕、山形市

 

 8月5~7日に開かれた、東北を代表する夏祭りの一つ「山形花笠まつり」は今年、PR役の「ミス花笠」に男性も応募できるようにした。60年続いた祭りの歴史で大きな転換だ。しかし、名称は「ミス」のままで、未婚という条件は変えず、用意している衣装も女性用だけ。結局、26人が応募したうち男性はわずか2人で、ミス花笠に選ばれたのは例年通り女性4人だった。
 そもそも、伝統あるイベントの〝顔〟に未婚女性が選ばれてきたのはなぜだろう。各地の自治体では今も、観光大使や農産物の販売促進で多くの「ミス」が活動している。男性にも門戸が開かれつつあるが、祭りの歴史や各地のケースを探ると、「性別不問」にすれば解決するわけではない実情が浮かび上がってきた。(共同通信=中村茉莉)

※記者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。

 ▽「議論に時間かからなかった」


山形市内の様子

 山形花笠まつりの主催団体は、山形商工会議所や、山形市、市観光協会、地元新聞社が中心となっている。ミス花笠の応募資格については、2024年1月、各担当者が集まった運営協議の会合で議題になり、それまでの要件だった「県内に住む18歳以上の健康で明朗な未婚の女性」を変えるかどうかが諮られた。
 東北では「ミス」を男女不問にする事例が相次いでいた。山形県内から「祭りに貢献したい」という男性の要望が寄せられてきたこともあり、事務局サイドは、まずは性別規定を変えようと判断。秋田市の「あきた観光レディー」や福島県の「ミスピーチキャンペーンクルー」といった先行事例を参考にして、商工会を中心に関係団体へ説明を進めた。
 こうした事前調整があったためか、会合では「ミス」の呼称を変更する必要性や、実際に男性が応募してきた場合の衣装の問題、未婚規定の変更については意見が出なかった。出席者の1人は「かんかんがくがくの議論はなかった。他にも話し合うことがあり、時間はそんなにかからなかった」と振り返る。具体的な中身は詰められることなく、その場にいた十数人のメンバーが了承して、性別要件をなくすことだけが事実上決まった。

 ▽相次ぐ問い合わせ


2024年度のミス花笠募集のチラシ。性別についての記載がなくなった

 2月上旬、主催団体が公表した募集要項とチラシには、いずれも男性が応募できるとは明示されていなかった。募集要項は応募資格の一つが前年の「未婚女性」から「未婚の方」に書き換わっただけ。チラシはピンク色の紙に印刷され、写真はいずれも女性である前年のミス4人が並んでいた。
 実際に混乱もあった。性別要件が撤廃されたことが報道されると、主催団体には「ミスター花笠を新たにつくるのか」「トランスジェンダーの応募を想定しているのか」といった県民の問い合わせが相次いだ。担当者はこう振り返る。「単純に性別の垣根をなくすのは考えが甘かった。ミスの呼称を残したことで混乱を招いた側面はある」
 3~4月の応募期間の後、書類や面接での審査を経て、21~25歳(5月26日時点)の女性4人がミス花笠に選ばれた。

 ▽女踊り


1969(昭和44)年の山形花笠まつりの様子

 性別要件が長年変わらなかったのは、祭りの内容や歴史も関係している。「山形花笠まつり」は企業や学校ごとに数十人規模の踊り手グループをつくり、赤い花飾りの付いたかさを持って、山形市内の目抜き通りを練り歩くパレードが有名だ。1963年、地元新聞社などが中心となり、山形市の観光をPRするイベントの一部として、尾花沢市に伝わっていた踊りを活用した「花笠音頭大パレード」を始めた。2年後に単独の祭りとなり、現在の形になる。
 イベント開催に合わせ、複数あった振り付けは誰でも踊れるように一本化された。これが通称「女踊り」と呼ばれる振り付けだ。当初は女性の踊り手が多く、鮮やかな衣装で華麗に舞うのが祭りの目玉だった。後に通称「男踊り」とされる振り付けも誕生し、現在はどの振り付けで踊るかグループごとに自由になっている。


「男踊り」を踊る女性ら(山形県花笠協議会提供)

 ただ祭りの公式ホームページや各種媒体に使われる画像は女性が多いこともあり、女性がメインだとのイメージは小さくない。主催団体の1人も「人前で踊るには(女性の方が)華やかで当たり前だと考えてきた。ミス花笠が60年間も続いているのは需要があるからだ」と説明する。

 ▽男性は一度も選ばれず

 他県に目を転じると、観光大使などの性別や婚姻歴に関する扱いはさまざまだ。男女に関係なく募集する団体は増えているものの、実際に男性が活動している例ばかりとは限らない。
 秋田県のJA全農あきたなどがつくる団体は、農産物PRのため1988年から未婚女性を対象に「ミス・フレッシュ秋田」を募集してきたが、本年度から「あきたフレッシュ大使」と改称し、「性別および、未婚・既婚は問いません」と明記した。実際に女性2人、男性1人の計3人が選ばれ、活動を始めた。担当者は狙いをこう説明する。「男女に関係なく家事をするなど、消費者の生活様式は変わってきている。時代背景を踏まえて決めた」
 一方、水戸市で毎年2月に開催される「水戸の梅まつり」の「水戸の梅大使」は、一度も男性が選ばれていない。ミス花笠と同様に60年以上の歴史を持ち、2001年に「水戸の梅むすめ」から名称を変えて男女不問にした。それから20年以上たつが、水戸観光コンベンション協会によると、例年70~80人の応募があるうち男性は1~3人ほど。女性はそろいの振り袖を仕立てて活動するが、男性が選ばれた場合に衣装をどうするかも決まっていないという。

 ▽地域の伝統と誇り


「山形花笠まつり」で紅花をあしらった花笠を手に舞を披露する踊り手=5日夕、山形市

 ジェンダー論に詳しい石巻専修大の高橋幸准教授は「販促が主な活動の場合なら、男性に切り替えやすく、衣装もスーツ型の制服を用意するだけで済む。しかし、ミス花笠や水戸の梅大使のように地域の伝統と誇りを背負ったものは、変わるのに時間がかかるのではないか」と指摘する。
 高橋氏によると、1950年代にミスコンテストが国内で流行し、1970年代に自治体などによる「ミス」の募集が全国へ広がった。女性があまり外で仕事をしていなかった時代背景の中で、ミスコンテストは男性が理想の花嫁を探す場所として始まったという。こうした歴史が、各地の「ミス」で未婚女性との条件が残ってきた要因の一つだ。高橋氏は今後の在り方について「地域の顔にはどういう人がいいか、市民は自分の事として考えてほしい。若い人が衣装や婚姻の規定をどう思うかという視点も重要だ」と強調した。


「山形花笠まつり」で紅花をあしらった花笠を手に舞を披露する踊り手=5日夕、山形市

 来年以降の対応が問われることになったミス花笠。主催団体側は「寄せられた意見を踏まえて改めて考えたい」としている。

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