1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. スポーツ
  4. スポーツ総合

繁栄支える巨額の放映権料、スタジアム転用や新ビジネスで収益源を多角化【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑨】

47NEWS / 2024年8月17日 10時0分

スタジアム経営で成功したトットナムの本拠地=2024年2月、ロンドン(共同)

 プレミアリーグにはノルウェー代表のアーリン・ハーランド(マンチェスター・シティー)やエジプト代表モハメド・サラ-(リバプール)ら高給の世界的スターが集い、リーグの魅力を高めている。国際サッカー連盟(FIFA)によると、選手の「国際移籍」に伴い2023年にイングランドのクラブが相手側に支払った移籍金は29億5660万ドル(当時のレートで約3900億円)と首位だった。9億9180万ドルで2位だったフランスの約3倍、スペインの約6倍におよび突出している。力の源泉となるのが「欧州一」を誇る集金システムだ。(共同通信=宮毛篤史)

 ▽チーム戦力の均衡化で魅力アップ

 サッカークラブの収入源は大きく分けて、①放映権料、②本拠地スタジアムでのチケット収入など③スポンサー契約など―の3分野に分けられる。プレミアリーグはいずれも他の欧州主要リーグを圧倒するが、商業的成功を特に支えるのが海外で人気の高い放映権料だ。

 欧州サッカー連盟(UEFA)によると、プレミアリーグの2022年の放映権収入は30億ユーロ(当時のレートで約4200億円)で首位だった。世界屈指の人気を誇るレアル・マドリードやバルセロナを擁するスペインの1部リーグが14億ユーロで続き、ドイツとイタリアは約10億ユーロだった。


 プレミアではリーグが放映権を一元管理し、収入の50%が各クラブに均等に割り振られる。25%はチームの順位に基づき配分され、残る25%はテレビで放送された試合数に応じて支払われる。この結果、他のリーグよりもクラブ間の収入格差が広がりにくく、戦力の均衡に貢献してきた。

 下位クラブが上位の強豪を倒す波乱も珍しくない。2015~16年シーズンには、日本代表の岡崎慎司が所属し、2部リーグから昇格1年目だった前シーズンにぎりぎりでプレミア残留を果たしたレスターが優勝する「ミラクル(奇跡)」を演じ、「スポーツ史で最大の番狂わせの一つ」と呼ばれた。


プレミアリーグの優勝トロフィーをかかげるレスターの岡崎慎司選手=2016年5月(共同)

 スポーツビジネスを専門とするロンドン大バークベック校のショーン・ハミル教授は「リーグのバランスが良ければ良いほど、結果が不確実であればあるほど、(コンテンツとして)魅力的になるというコンセンサスがスポーツ経済学には多かれ少なかれある。逆に結果がより予測可能になると価値は低下する」と述べ、放映権料の分配システムがリーグ全体の価値を高めていると指摘する。


ロンドン市内で取材に応じるハミル教授=2024年3月(共同)

 ▽スタジアムの大型化と多機能化で収益

 ただ、右肩上がりで伸びてきた放映権料も国内向けではかつてほどの勢いはなく、財政規律を求めるリーグや欧州サッカー連盟の監視の目は強まっている。実績のある選手や有望な若手を獲得して戦力を向上させるためには、これまで以上に収益源を広げる必要性が高まっている。こうした中で、各クラブが目を付けたのがスタジアムの大型化と多機能化だった。

 スタジアム経営で成功したクラブの代表的存在が、北ロンドンを拠点とするトットナムだ。10億ポンド(当時のレートで約1400億円)を投じ、旧スタジアムのホワイト・ハート・レーンを2019年に一新。敷地面積を2倍に拡大し、収容人数を約3万6000人から約6万3000人へと大幅に増やした。西ロンドンを拠点とするチェルシーの本拠地の収容力は約4万人で、1試合当たり数億円のチケット収入差が生まれる計算になる。

 ゴールラインと同じ65メートルと「欧州最長」の長さをうたう飲食店「ゴールライン・バー」が設けられ、バンドの生演奏が場を盛り上げる。内部を快適なスペースに変えたことでファンは長時間滞在するようになり、イギリスメディアによると、スタジアムでファンが支出する金額は2ポンド未満だったが、16ポンドに増えたという。ロンドンに住むトットナム一筋というファンのジェームス・バーキルさん(35)は「たくさんの食事メニューがあり、スタジアムで醸造された『地ビール』も楽しめる。雰囲気は試合前から最高だ」と語る。


トットナムのスタジアムに併設されるショップは欧州で最大級の売り場面積を誇る=2023年11月、ロンドン(共同)

 ▽シーズンオフにはサッカー場がライブ会場に

 プレミアリーグは例年8月に開幕し、翌年5月にシーズンを終える。3カ月にわたるオフの期間にどれだけスタジアムを活用できるかでクラブ間の収入に差が出る。トットナムが新スタジアムの建設に当たり、収益力を高めるために力を入れたのが多機能化だった。シーズン終了後、リーグ戦の舞台となったピッチは三つに分割され、南側のスタンド下部にスライドして収納される。代わりに登場するのが音楽ライブの会場だ。

 2023年6月、スタジアムではプレミアリーグの試合ではあまり見かけない華やかな服装に着飾った若い女性らが合唱していた。お目当ては音楽界のスーパースターのビヨンセ。出産を経て久々に敢行した世界ツアーで、数ある選択肢の中からロンドンのライブ会場にトットナムのスタジアムを選んだ。「クレイジー・イン・ラブ」などの人気曲を歌い上げ、最終盤で光輝く馬にまたがりながら宙を飛ぶ姿を見せると、観客のボルテージは最高潮を迎えた。


トットナムのスター選手だったハリー・ケインの壁画の前を通り、ビヨンセのライブに向かう客=2023年6月、ロンドン(共同)

 トットナムのスタジアムは最新の音響機器を備え、アーティストの歌声や観客の声援がこだまするように設計されている。ビヨンセのほか、レディー・ガガやガンズ・アンド・ローゼズ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズといった世界的なミュージシャンの招致に成功した。欧州でファン拡大を狙うアメリカンフットボール(NFL)とも連携し、NFL用のピッチやロッカールームも備える。

 ▽草サッカーやスタジアムツアー

 トットナムの2022~23年シーズンの収入は前期比24%増の5億4960万ポンドと、初めて5億ポンドの大台を超えた。10年前と比べると4倍近い規模に膨らみ、放映権が中心の「テレビ・メディア事業」が収入の中で占める割合は3割を切った。プレミアリーグに所属する全20クラブの全体では約5割で、トットナムの収益源の多角化がいかに進んでいるかを示す結果となった。

 スタジアムを活用して収益源を広げようと知恵を絞るのは他のクラブも同様だ。日本代表の三笘薫が所属するブライトンは、シーズンオフに本拠地で草サッカーを楽しめるサービスを提供する。多くのクラブは連日スタジアムツアーを企画し、往年の名選手と交流できる催しも行う。マンチェスター・シティーはソニーグループと連携し、仮想空間でファンが交流できるサービスを開発中だ。

 監査法人のデロイトは、欧州のサッカークラブの財務状況を分析したリポートで「収入源を多様化することで、(経営環境の)急速な変化や進化に耐えうる高い財務的安定性を得られる」と指摘。ビジネスの多角化に成功すれば、各クラブに財政健全化を促すリーグの規則への耐性が強まり、外部からの投資などを受けやすくなると言及した。

 ▽レプリカ販売という新ビジネス

 3本目の柱となるのが、ユニホームの胸元にロゴを飾るスポンサー企業との契約料だ。ユニホームを模したシャツは「レプリカ」と呼ばれ、この販売も収入を支えている。レプリカの語源はイタリア語の「繰り返し」という意味で、美術作品や工業品などの複製を指す。ファンはレプリカが流行する以前、「ブッチャーズコート」にクラブのロゴなどのワッペンを縫い付けて応援服を自作していたが、今では多くのサポーターがレプリカを着てスタジアムに向かう。

 この分野でいち早く商機を見いだしたのがイギリスのアパレルメーカー、アンブロだった。1959年、まず幼児向けの「アンブロセット」を売り出した。さらにレプリカが普及する流れを決定づけたのが同業のアドミラルだった。アドミラルは「提督」を意味する。第1次世界大戦が始まった1914年にイギリス海軍に納入するスポーツウエアの製造を始め、サッカーやラグビーといったスポーツの分野に進出していった。

 1973年には当時全盛だったリーズ・ユナイテッドと契約し、レプリカを売り出して成功を収めた。マンチェスター・ユナイテッド、トットナムなどの人気チームのユニホームも手がけ、レプリカが広がる流れを生んだ。イギリスでは1970年代初頭にはカラーテレビが広く普及し、色鮮やかなユニホームがテレビに映し出された。アドミラルの取り組みは時流に乗ったもので「新たなビジネスモデルを生み出した」と自賛した。


アンブロの創業95周年を記念した特別展に飾られた過去のイングランド代表ユニホーム=2019年4月、マンチェスター(共同)

 ▽1枚のシャツ販売でクラブに入るお金は?

 プレミアリーグの商業的成功は各クラブがスポーツメーカーと結ぶ契約料の高騰を招き、レプリカの価格に転嫁された。スポーツビジネスを専門とするPRマーケティング社によると、2013~14年シーズンに43・8ポンドだった大人用の販売価格は67・47ポンドへと5割引き上げられた。アディダスと契約するアーセナルの場合、2024~25年シーズンの半袖レプリカの価格は80ポンド(約1万6000円)だ。

 では、レプリカを売って得られる収益はどう配分されるのだろうか?この問いに対し、PRマーケティングのピーター・ロールマン博士(75)は、2023~24年シーズンに80ポンドで売られた「典型的な」レプリカの原材料費や輸送費は全体の10分の1に当たる8ポンドだと試算した。1枚売れるとクラブに4・8ポンドが、販売店には26・4ポンドが入り、製造するメーカーは23・47ポンドを手にするという。ある大手スポーツメーカーの担当者は「レプリカを直販する場合、クラブの利幅はさらに高まる」と解説する。


 価格の高騰にかかわらず、レプリカの販売は伸びている。プレミアリーグは欧州にとどまらずアジアなどでも人気が高く、スタジアムを訪れた観光客らが高額であろうと記念のグッズを買い求めることが一因だ。ロールマン氏は「成功し、名の知られたクラブは常に新しいターゲットに目を向けている。クラブはそれぞれのクラブのシャツの独占販売者であり、需要の高まりを考えれば値上げしない手はない」と話す。

 ただ、クラブが収益源として観光客を重視する施策を強化するようになればなるほど従来のファンからは不満の声が高まる。トットナムがチケット代の値上げと高齢者に対する優遇措置の縮小を決めると、サポーター団体から怒りの声が上がった。「30年、40年、50年と応援してきたファンにこのようなことをするのは、恥ずべきことだ」。


人気のユニホーム専門店「クラシック・フットボール・シャツ」で入店待ちの行列ができることも=2023年4月、マンチェスター(共同)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください