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76年ぶりにハワイで悲願の鉄道復活も「空気を運んでいる」!? 膨らむ事業費、空港や商業施設を結ぶ日は来るのか 連載『鉄道なにコレ!?』【第66回】

47NEWS / 2024年8月29日 10時0分

アメリカ・ハワイ州のオアフ島を走る鉄道「スカイライン」=2024年6月27日(共同)

 「常夏の楽園」と言われるアメリカ・ハワイ州のホノルル都市圏で鉄道「スカイライン」が2023年6月に開業し、悲願だったオアフ島の本格的な旅客鉄道が約76年ぶりに復活した。マイカー利用者が移行して深刻な道路渋滞が緩和する〝切り札〟になると期待されたものの、地元の日本人から「空気を運んだ電車が行き来している」と聞かされた。巨額の建設費の調達も難航し、国際空港や商業施設を結んで「全線開通」できるかどうかは視界不良とも。現地で乗り込んで実態を探った。(共同通信=大塚圭一郎)

※記者が音声でも解説しています。「共同通信Podcast」でお聴きください。

 
 ▽高架橋の輪郭から命名

 スカイラインはホノルル高速鉄道輸送機構(HART)が事業主体となり、手始めに真珠湾を囲むように東西に延びるアロハスタジアム―イーストカポレイ間の17・7キロ、計9駅が開業した。線路を敷いた高架橋が描く輪郭から「スカイライン(SKYLINE)」と名付けられた。

 日立製作所のグループ会社が造った電車は、運転士が不要の完全自動運転だ。最高時速約88キロで走り、片道約22分で結ぶ。

 線路幅は日本の新幹線などと同じ標準軌と呼ばれる1435ミリで、線路脇にあるレールの第三軌条から電気を取り込んで走る。

 オアフ島ではサトウキビやパイナップルをホノルル港へ運ぶことを主な目的とする鉄道が1889年に開業。旅客列車も走らせるようになり、沿線にできたリゾートホテルを訪れる観光客らを運んだ。第2次世界大戦中には、軍人輸送の主要手段の一つとなった。しかし、戦後に採算が悪化した旅客列車は1947年に運行を終えた。以来、スカイラインが登場するまでの約76年間は、オアフ島の本格的な旅客鉄道が不在だった。


スカイラインの電車内に貼られた路線図(実線)。点線は延伸予定の区間=2024年6月27日、ハワイ州(共同)

 ▽路線バスと同じIC乗車券で

 スカイラインに乗るため、現行区間のホノルル寄りにあるアロハスタジアム駅へ向かった。それぞれの駅にはハワイ語の駅名も付けられており、アロハスタジアムの場合は「ハラワ」だ。

 駅ではオアフ島を走っている路線バス「ザ・バス」と接続しており、ホノルル中心部などと結んでいる。

 スカイラインは、ザ・バスでも使えるIC乗車券「HOLO(ホロ)カード」で乗車できる。ザ・バスとスカイラインに乗車するため、物販店で1日乗車券を組み込んだカードを9・50ドル(1ドル=150円で約1430円、うち2ドルはカード代)で購入した。ホロカードはスカイラインの駅にある自動券売機でも売られている。

 建て替えを控えた競技場「アロハスタジアム」が完成後に利用者が増えることを見込み、駅の自動改札機は12台も並んでいる。ホロカードを改札機に読み取り部分に触れると、前方にある透明な扉が開いた。


スカイラインの自動改札機=2024年6月27日、ハワイ州のイーストカポレイ駅(共同)

 ▽速足で前面展望の〝特等席〟へ…でも乗客は2人だけ

 自動改札機を抜けた後は速い足取りで、脇目も振らずに上りエスカレーターでプラットホームを目指した。というのも、日立製作所のグループ会社が製造した4両編成の電車の両端にそれぞれ1席だけある〝特等席〟をゲットしたいと考えていたからだ。
 スカイラインは原則として無人運転だが、このいすは運転士が手動で電車を動かす必要が出た場合のために置いている。乗務員がいない場合には乗客が腰かけることができ、運転士気分で前面展望を味わえるのだ。
 沿線にはスカイラインが安全に走っていることを確認する運行管理センターがある。ここで係員が電車の走行位置や、電車内や駅のリアルタイム映像などを監視している。
 だが、ホームにたどり着くと、速足で向かってきたのが取り越し苦労だったと気づいた。利用者が線路に転落するのを防ぐ可動式のホーム柵が整備された立派なホームで待っていたのは他に1人だけで、別の位置にいたのだ。
 いす取りゲームを演じることもなく、到着した電車の〝特等席〟に腰かけた。定員が800人に達する電車は、わずか2人の乗客で出発した。
 前面展望を眺めていると、利用者が少ない理由は一目瞭然だった。開業した区間はホノルル中心部から離れており、高層マンションやビルが建っているのは駅周辺だけなのだ。
 代わりに目立つのは畑や空き地で、沿線開発の余地は伸びしろしかないという印象だ。


スカイラインの電車内=2024年6月27日、ハワイ州(共同)

 ▽日本ならば赤字ローカル線並み

 電車は平日ならば午前5時ごろから、土・日曜日と祝日には午前8時ごろ運行している。10分おきに来るので、ほとんど待たずに乗れる。ただし、終電の出発は毎日午後7時ごろと早い。
 HARTによると、今年5月の1日利用者数は1920~3619人となっており、日本ならば赤字のローカル線並みの低水準だ。
 途中で数人が乗り降りしたが、終点のイーストカポレイで下車したのは私だけだった。
 アロハスタジアムへ折り返す帰路の電車も、乗り込んだのは計10人に満たなかった。車内には自転車を立てかけることができるラックも備えているが、私が乗った電車では使われていなかった。
 「空気を運んでいる」という現地情報が正しかったことを確認し、宝の持ち腐れになっているのを残念に思った。
 オアフ島の足となっているザ・バスは「道路渋滞が深刻なため遅れることも多い」(利用者の女性)という課題を抱えている。
 これに対し、スカイラインは安全安定輸送が強みだ。一度に大勢の利用者を運ぶのが可能で、完全自動運転のため人手不足に陥る心配は少ない。専用の高架軌道を走り、ホーム柵も備えているため安全性も万全だ。
 ホノルルのホテル勤務の女性は「スカイラインが中心部に延伸すれば通勤客や観光客が自動車利用からシフトし、道路渋滞も改善されるのではないか」と予想する。


スカイラインの電車の先頭部から見た車窓。沿線には空き地や畑が目立つ=2024年6月27日、ハワイ州(共同)

 ▽破壊された?空港脇を通るスカイライン

 実は2014年に公開されたハリウッド版の映画「GODZILLA ゴジラ」には、当時は未開通だったスカイラインがすでに登場していた。
 ゴジラの宿敵となる怪獣「MUTO」(未確認巨大陸生生命体)がオアフ島に上陸。ホノルル国際空港脇にある鉄道の高架橋を破壊し、電車の一部車両が転落しそうになる場面が描かれているのだ。
 開業前だったため車両の外観や車内レイアウトは実際と異なるものの、ハワイ州の住民には「路線が国際空港を通ることが決まっていたので、前祝いで登場させたのではないか」とみる人もいる。
 ハワイ州の外国からの国別旅行者数で、日本は不動の首位だ。映画のように、スカイラインが国際空港へ延伸すれば、日本人旅行者の利用拡大も期待されるだろう。


スカイラインのアロハスタジアム駅。路線バス「ザ・バス」と乗り継げる=2024年6月27日、ハワイ州(共同)

 ▽空港駅の開業は2025年後半

 日本からハワイ州への2023年の訪問者数は約57万3千人と、新型コロナウイルス禍で低迷していた前年の約3倍に膨らんだ。
 日本路線が多く発着している国際空港の正式名称は2017年、連邦上院議員を約50年間務めた日系アメリカ人を顕彰してダニエル・K・イノウエ国際空港と改称された。
 スカイラインで最寄り駅となるダニエル・K・イノウエ国際空港駅は2025年後半に開業する予定だ。アロハスタジアムの2駅先となる。
 ただ、その時点で延伸される区間はアロハスタジアムの4駅先のミドル・ストリート・トランジットセンターまでと短い。その先にあるホノルル中心部へ向かうにはザ・バスに乗り換える必要がある。
 スカイラインが中心部への乗り入れを果たすのは、ホノルル市役所に近いシビックセンター駅への延伸時だ。ミドル・ストリートから6駅延びるようになる。
 開業予定は2031年で、2012年時点の計画と比べて11年遅れる。それでも、観光業関係者は「現在の情勢では、2031年には絶対に間に合わない」と断言する。


スカイラインの2025年後半に延伸予定の区間に設けられる駅では、建設工事が進められていた=2024年6月27日、ハワイ州(共同)

 ▽「アラモアナセンター」までの全線開業に黄信号

 しかも、計画通り全線を開業できるかどうかにも黄信号がともっている。シビックセンターから2駅延ばし、ホノルルの名所となっている大型商業施設「アラモアナセンター」の近くに駅を設けることがスカイラインの最終形だと位置付けられてきた。
 しかしながら、シビックセンターから延伸する開業目標時期を設定できていないのだ。
 背景には建設費が膨れあがり、十分な予算を確保できるかどうかを見通せない事情がある。全体の総事業費は2021年時点の見通しで124億5千万ドル(約1兆8700億円)規模となり、2012年時点の計画(51億6400万ドル)の約2・4倍に膨らんだ。
 ホノルル市のリック・ブランジャルディ市長は「シビックセンター駅までの開業はスカイラインの初期段階だ」と位置付け、アラモアナセンターへ延伸する意欲をにおわせる。
 計約350の物販店や飲食店が集まったアラモアナセンターは、日本人旅行者の人気買い物スポットだ。
 日系メーカーが車両を製造し、日本人旅行者の利用拡大も見込まれるスカイラインが首尾よく「全線開通」することを期待したい。


全日本空輸が成田―ホノルル線で運航しているエアバスA380=2024年6月28日、ハワイ州のホノルル空港(共同)

 【ハワイと日本を結ぶ航空路線】全日本空輸(ANA)は、日本の航空会社で唯一導入しているエアバスの総2階建て旅客機A380が成田空港(千葉県)と1日2往復している。エコノミークラスでも就寝しやすいように、追加料金を支払えば3席または4席を一組としてベッドのように使えるユニークなサービスを実施している。
 日本航空(JAL)は、グループ内で高付加価値型と価格重視型の〝二刀流〟で対抗する。同じボーイングの中型機787を使って日航が羽田空港(東京)と結んでいる一方、格安航空会社(LCC)子会社のジップエアトーキョーは成田とつないでいる。
 アメリカ勢では、アラスカ航空グループが2023年12月に買収することを発表したハワイアン航空が羽田、関西、福岡各空港と結ぶ。20年3月まで成田線を運航していたデルタ航空は、代わりに羽田とつなぐ路線を23年10月に開設した。


アラモアナセンターの舞台で披露していたフラダンス=2024年6月27日、ハワイ州(共同)

 ※『鉄道なにコレ!?』とは:鉄道に乗ることや旅行が好きで「鉄旅オブザイヤー」の審査員も務める筆者が、鉄道に関して「なにコレ!?」と驚いた体験や、意外に思われそうな話題をご紹介する連載。2019年8月に始まり、ほぼ月に1回お届けしています。鉄道以外の乗り物の話題を取り上げた「番外編」も。ぜひご愛読ください!

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