核廃絶を訴えて70年、ノーベル平和賞候補にも名前が挙がる団体が立つ岐路 今後の活動どうなる、取材で見えてきたそれぞれの判断
47NEWS / 2024年8月22日 10時30分
何度もノーベル平和賞候補となってきた日本の団体が岐路に立っている。広島、長崎の被爆者らでつくる被爆者の全国組織「日本原水爆被害者団体協議会(被団協)」だ。かつては47都道府県全てに参加団体があったが、高齢化による担い手不足などで現在36団体まで減少した。
被団協は1956年の結成以来、「二度と被爆者はつくらせない」と約70年間核廃絶を訴えてきた組織だ。長崎以降、3度目の原爆投下阻止にも貢献してきたとされ平和賞候補に名前が挙がってきたが、今後の活動はどうなるのか。惨禍から79年目の夏、各団体を取材すると、それぞれの考えが見えた。(共同通信=大阪社会部原爆平和取材班)
▽「どこかで新しい段階へ」6年前から考えてきた将来
北海道被爆者協会の北明邦雄事務局次長(左)と広田凱則会長=2024年7月、札幌市
「『いずれ活動を終息させざるを得ない』として2018年から組織の将来を考えてきた」と語るのは、北海道被爆者協会の北明(きため)邦雄事務局次長(76)だ。北明さんは被爆者や被爆2世ではなく、支援者の立場で会に参加している。北海道は来年3月末での解散を決めた。
北海道には、軍に召集中に被爆した道内出身者や、戦後に結婚や就職などでやって来た被爆者がいた。戦後開拓による入植や、本州で差別を受けていた被爆者が、過去のことを気にしないおおらかな道民性を求めて渡ってきた例もあったといい、周辺県よりも人数は多かった。
広島、長崎に次ぐ全国3番目の原爆資料館が併設されている北海道被爆者協会の会館=2024年7月、札幌市
協会にはピーク時の1990年代、約220人の会員がいた。全国的な寄付活動を展開して1991年に札幌市内に3階建ての会館を建設。広島、長崎に次ぐ、全国3番目の原爆に関する資料館を開設し、被爆の実相を伝える活動に注力した。
しかし今年6月時点で会員は49人。被爆者だけに限ると30人だという。6年かけて協会内で議論。札幌市内の学校法人が会館や所蔵資料を引き受けることで合意したことを受け、解散を決めた。会員の多くが状況を理解し、目立った反対論はなかったという。
北海道被爆者協会が運営する原爆資料館=2024年7月、札幌市
北明さんは「被爆者はこれまで70年間核廃絶のためによくやってこられた。年齢を重ねる中、どこかで新しい段階へ移行するというのは自然なこと」と話す。
▽受け継ぐ2世。精力的な活動で県の支援は手厚くなった
静岡市で開かれた「静岡県原水爆被害者の会」の総会=2024年7月
一方で被爆2世への引き継ぎに注力する団体もある。静岡県原水爆被害者の会の鈴木聖子(まさこ)会長(80)は、「会が1世だけで終わることのないよう、2世に頑張ってもらいたい」と期待する。
「静岡県原水爆被害者の会」の総会で発言する高野佳実さん=2024年7月、静岡市
被爆地の広島県や長崎県から離れた静岡県で、被爆者手帳を持つのは、342人(2024年3月末時点)。平均年齢は84・64歳で、85歳を超える全国平均同様に高齢化が進む。被爆者の子どもである2世も若くはなく、担い手不足はどこも共通する課題だ。
そんな中で静岡県では、会長以外の全役員を2世が占める。元副会長で現在は事務局補佐の高野佳実さん(69)は、積極的に反核運動を進める1人。父は広島県で被爆し、1982年から亡くなるまでの16年もの間、副会長を務めた。精力的な運動により、県に2世への医療費支援を手厚くさせることにも成功。父らが残してくれた功績を守り広げるべく、高野さんは今も会の運営に携わる。
被爆者らが残した証言を理解し、勉強し、分かりやすく核兵器や戦争の恐ろしさを伝えたいと考える。「本当の怖さを若い世代に話して伝え、『核兵器廃絶』という文字だけでなく、心を打って行動につなげたい」と未来を描く。
▽いつまで活動を続けられるのか、アンケート結果は
共同通信は今夏、全国の36団体に「会の運営に2世や被爆者以外が関わっているか」を尋ねるアンケートを行った。その結果、29団体が「関わっている」と回答。かつては被爆者主体だった組織運営が変化していることが明らかになった。
一方で、今後の活動継続の見通しについては「10年以上活動できる」としたのは6団体にとどまった。
16団体が今後の活動について「5年はできる」や「3年はできる」を選択。うち13団体は運営に2世らが関わっているとしたが、団体を引き継いだ2世自身の高齢化に加え会員数の伸び悩みなどにより活動の担い手が先細る恐れがあるとした。継続的な組織運営には依然悩みがあるようだ。
▽「誇りを持って組織をたたむ」「国の覚悟が問われる」専門家の見方
京都大の直野章子教授
京都大の直野章子(あきこ)教授は「組織ではなく、運動を継承するべきだ」と語る。
直野教授は、被爆者団体という組織を「同じ境遇の被爆者がともに支え合う場であり、再び被爆者を作らないよう活動する場だった」と表現する。その当事者がいなくなった時は「ヒロシマ・ナガサキを繰り返さなかったことを誇りに組織をたたみ」、そして「被爆者の思いを市民や他の団体が引き継いでいく」ことが重要だ、という主張だ。
取材に応じる広島大平和センター長の川野徳幸教授=2024年7月、広島市
自らの年齢を鑑みて、原爆投下から80年となる来年を最後の節目と捉える被爆者も少なくない。広島大の川野徳幸教授は「団体は当事者の使命感の強さがあってこそ存続できていた」と考え、だからこそ、団体の今後は「核なき未来」の担い手だった被爆者がいなくなることと同義だと話す。
川野教授によると、国の支援がなくても市民社会が成熟していれば活動に人材も資金も集まるが、日本はそうではない。そのため「被爆者がいなくなった時、国全体で『核なき世界をいかに本気で目指すか』という覚悟が問われる」と語る。
最も若い被爆者でも今年で78歳。被爆者の組織はぽつりぽつりと消えていき、被爆者なき時代がすぐそこまで迫っている。
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