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伝統軽視の風潮にイギリス政府も介入 膨れあがるマネーゲーム、正解なき道【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑫完】

47NEWS / 2024年8月25日 10時0分

新シーズンの開幕節でエバートン―ブライトンの試合前にスタジアムに集まるファン=2024年8月、リバプール

 かつてフーリガン問題がピークだった1985年、高級紙サンデータイムズは「英国サッカー界は危機にひんしている。スラムの人々が、スラムのスタジアムで見る、スラムの競技になった」と痛烈に切り捨てた。それから約40年。イングランドには各国からスター選手が集まり、世界中のファンを魅了する最高峰のリーグに生まれ変わったが、ピッチ外には問題も山積している。(共同通信=田丸英生)

 ▽放映権分配による均衡化に揺らぎ


旗を振るマンチェスター・シティーのファン=2022年4月

 プレミアリーグは放映権収入の半分を全20クラブに均等分配し、なるべくクラブ間の収入格差をなくして戦力の均衡化を図る。このため下位クラブが上位の強豪を倒す波乱も珍しくない。その競争力の高さを維持するためにリーグは収支均衡などさまざまな財務規則を設けるが、不確定要素の多いリスキーなビジネスにおいて多くのクラブはあらゆる手段で強化を図る。


 2008年にアラブ首長国連邦(UAE)アブダビの投資グループが買収して急成長したマンチェスター・シティーは、2011~12年からの13シーズンで8度リーグ優勝を果たすなど、オイルマネーがタイトルに直結した。その一方で2009年から2023年にかけて合計115件もの財務規定違反の疑いをかけられており、昨季達成したイングランド史上初のリーグ4連覇という偉業に影を落とした。

 昨季の途中には過去に多額の損失があったエバートンが勝ち点8、ノッティンガム・フォレストが勝ち点4を剥奪された。リーグ下位で残留を争っている最中の処分は物議を醸したが、結果的に両チームとも降格は免れた。
 裁定の根拠に不透明な部分もあり、16年前に勝ち点30剥奪という異例の厳罰を科された経験があるルートンのギャリー・スウィート最高経営責任者(CEO)は、エバートンとノッティンガム・フォレストへの処分について「犯した罪に対してふさわしい罰とは思えない。これだとルールを破ることを助長することになるので、そうではなくて抑止力にならなければいけない」と苦言を呈す。

 長くチェルシーで活躍した元イングランド代表のグレアム・ルソー氏は、2003年に退団すると入れ替わりでロシアの大富豪ロマン・アブラモビッチがオーナーに就いた。
 古巣が圧倒的な資金力を武器に進化していった様子に「新しい練習場やアカデミーに投資して、トップチームも成功を収めたのは素晴らしい。でもどうやって?収入以上の資金を注入していた点には疑問符もつきまとう」と眉をひそめる。現在はスペイン1部リーグのマジョルカの経営陣に名を連ね、クラブ運営の難しさを肌で知るだけに「アスリートのドーピングと同じくらい、財政的なドーピングは競技のインテグリティー(高潔性)を傷つける」と強調した。

 ▽伝統や文化を軽視した肥大化


サッカーの欧州スーパーリーグ構想に反対するチェルシーのファン=2021年4月、ロンドン(ロイター=共同)

 ビジネスとしての規模が急拡大してグローバル化が進む中で、これまで頓挫した計画もあった。2008年にリーグが全38節に追加して公式戦を海外で開催する通称「39試合目」というプランを発表したが、国際サッカー連盟(FIFA)をはじめ多くの反対により撤回した。2021年にはプレミアの6クラブを含む欧州の強豪12クラブによるスーパーリーグ構想が、サポーターを中心とした猛反発を受けて発表からわずか数日で立ち消えとなった。いずれもサッカーの伝統や文化を軽視したことに対する拒絶反応が決め手となったが、世界的にはワールドカップ(W杯)や欧州チャンピオンズリーグ(CL)など大会の改編や拡大により競技の肥大化が止まらない。

 FIFAが主催するクラブW杯は新方式に刷新され、出場枠を現行の7から32チームに拡大して来年6~7月に開催。欧州のシーズン終了後に約1カ月の大規模な大会を実施することが過密日程を招くとして反発の声が多い。


プレミアリーグのリチャード・マスターズCEO=2024年5月

 各国・地域のリーグが加盟する世界リーグ協会(WLA)の会長を務めるプレミアリーグのリチャード・マスターズCEOはFIFAに対し、「聞く耳を持たないなら、最終手段を考えざるを得ない」と非難する。だが、皮肉にもプレミアリーグこそイングランドでは同じように権限と影響力が大きすぎると指摘される。
 イングランド協会(FA)カップは引き分けの場合に再試合を行う伝統が昔からある。特に下部リーグのクラブにとって貴重な収入源となる風物詩だったが、2024~25年シーズンから撤廃されることが4月に発表された。プレミアリーグ勢の日程緩和が主な理由だったため、2~4部を管轄するフットボール・リーグ(EFL)や多くのクラブがプレミア中心の決定を非難した。

 今季3部に降格したロザラムのポール・ダグラス最高執行責任者(COO)は「私はFAカップ委員会のメンバーでありながら、この件は一切議論されず報道で初めて知った。残念ながらこれがイングランドのサッカー界のパワーバランスを示している。多くの人々が流れ込んできたが、伝統よりもビジネスのことしか考えていない」と嘆く。

 ▽英政府も介入し、持続可能な道探る


各地の試合速報を伝えるスカイスポーツの中継画面=2024年5月、ブライトン

 「プロリーグ」と位置付けられるプレミアから4部までの92クラブの格差は、かつてないほどいびつに広がっている。3年前にサウジアラビアの政府系ファンドを中心とした共同事業体が推定3億ポンド(当時のレートで約450億円)でニューカッスルを買収したように、ピラミッドの頂点に巨額の資金が流れ込む一方で、下部リーグでは破産に追い込まれるクラブもある。
 こうした背景から英政府はサッカー界のガバナンスを強化する法案を公表。可決されれば導入される「レギュレーター(規制者)」の主目的には各クラブの財政面を取り締まることに加え、「ファンや地域社会にとって最も重要なイングランド・サッカーの伝統を保護する」という、外国人オーナーをけん制するような文言を明記している。

 この動きをサポーターやイングランド協会、フットボール・リーグが歓迎するのに対し、長年にわたり業界の主導権を握ってきたプレミアリーグは「この法案がイングランド・サッカーの競争力と魅力を弱める可能性があることを懸念している」との声明を出して立場の違いを鮮明に表した。


 新型コロナウイルス禍で一時はサッカー界のビジネスモデルも変わるかと思われたが、クラブが高騰する選手の年俸や移籍金を捻出するため、ファンの払うチケット代や視聴料などあらゆる価格が引き上げられている。監査法人デロイトによると全クラブの年俸総額はプレミア創設前の1991~92年シーズンと比べ、50倍以上に膨れ上がって40億ポンドを超えた。


新シーズンの開幕節でエバートン―ブライトンの試合前にスタジアムに集まるファン=2024年8月、リバプール

 歯止めのきかないマネーゲームと化したプレミアリーグは、果たして持続可能なモデルと言えるだろうか。かつてFAのコンサルタントとしてリーグ誕生の礎を築いたアレックス・フィン氏は「需要がある限りは可能だろう。クラブ側が真のサポーターと同じ価値観を持っていないのは残念だが、今のイングランドではお金こそがものを言う」。
 8月16日にプレミアリーグの新シーズンが開幕した。創始者たちの想像を遥かに超える規模の巨大産業に成長したリーグは、今後も正解なき道を歩み続ける。(完)


新シーズン初戦でマンチェスター・シティーに敗れ、帰路に就くチェルシーのファン=2024年8月、ロンドン

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