経営悪化はJR四国の責任にあらず「人口が少ないからサービス削減は言い訳」 関西大・宇都宮浄人教授、国策転換を求める
47NEWS / 2024年9月9日 10時30分
JR四国が人手不足を理由に9月29日から普通列車の減便に踏み切る。対象は朝夕の通勤通学の時間帯が中心で、利用者への影響は大きい。1987年の会社発足以降、鉄道事業は黒字になったことがなく、構造的な赤字体質を改善するため、駅の無人化や駅舎の簡素化を進めている。
社員の給与まで低く抑えた結果、若手の離職が相次ぎ、採用数は計画に届かない状況に追い込まれた。人口減少を背景に赤字ローカル線の議論が本格化する中、経営の根幹が揺らいでいる。交通政策やヨーロッパの地域公共交通に詳しい関西大の宇都宮浄人教授は「経営悪化はJR四国の責任ではない」と指摘し、事業者任せだった鉄道インフラ維持に国や自治体が積極関与するよう転換を求めている。(共同通信=広川隆秀)
関西大学の宇都宮浄人教授
▽オーストリアの人口密度は島根と同程度
―鉄道の先進地とされるヨーロッパで鉄道はどのような位置付けなのでしょうか。
「JR四国のような地域の鉄道は、社会インフラであり、そこで提供されるサービスは、事業者の収支のためではなく、地域の公共サービスという位置付けです」
「とりわけ、この20年余りは、持続可能な社会の実現という観点から、鉄道は二酸化炭素(CO2)の排出が少なく、エネルギー面でも効率性の高い交通手段として注目されています。欧州連合(EU)は、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指しています。そのため、物流や移動のためのインフラ投資を加速させ、鉄道への転換をさらに進めています。大都市圏だけでなく、地方都市圏においてもです」
オーストリアの列車。年間乗り放題の格安チケット「クリマチケット(気候チケット)」のラッピングが施されている=2024年6月
―四国など人口が減少する日本の地方は鉄道の利用者が少なく、存廃の議論にまで発展しています。
「人口が少ないからサービスを減らすというのは言い訳に聞こえます。オーストリアの人口密度は島根県と同程度。首都ウィーンに次ぐ、第二の都市グラーツは人口約29万人です。松山市(約50万人)や高松市(約41万人)よりも圧倒的に少ないですが、街はにぎわっています。人口減少を理由にしていたら、ヨーロッパの公共交通はどこも成り立たなくなってしまいます」
「四国には潜在能力があります。しかし、今の制度では前向きな投資が思うようにできず、交通事業者は潜在需要を開拓できていません。郊外の商業施設もコンビニも、人口減少を理由にビジネスを縮小させることはしていませんよね」
JR四国の主な費用削減策
▽自由に移動するため多様な選択肢を
―鉄道インフラの維持・管理には多額のコストが必要です。鉄道会社が本来行うべきサービス向上のためにも公共インフラを社会で支える在り方が重要ですね。
「その通りです。収支のためにサービスを悪化させるという考えは、はっきり言って間違っています」
「人々が自由に移動するために、多様な選択肢を持てるのが望ましい社会です。ヨーロッパの人も自家用車を使いますし、車の利用はゼロにはなりません。しかし、酒を飲んだり、街を歩いて買い物をしたりしたい時、公共交通を使って外出できる。自動車が通らない広場のカフェで一息つくことができる。それが豊かな暮らしであり、魅力的な街づくりにつながるのです」
オーストリアの都市インスブルックのカフェ。窓の外には街中を走る列車が見える=2018年3月
▽経営の悪循環で利用者減少
―JR四国は今回、はじめて広報報資料に「人手不足」と明示した減便を決めました。経営の苦しさをうかがわせます。
「民間企業が四国でインフラ設備を持って鉄道事業を行うというのは、国際的な標準から見てもあり得ないことです。そのため、国鉄から民営化する際、国は経営安定基金を手当てして、その運用益で会社の赤字を穴埋めする仕組みを作りました」
「しかし、その運用益は低金利によって破綻しました。それにもかかわらず、民営化した会社だから収支を良くしようという方向だけになると、サービスを削減したり、人件費を抑えたりすることにつながります。35年以上も続けてきた対症療法的な経営は悪循環を生み出し、さらなる利用者減を招きます。しかしこれは、JR四国単独の責任ではありません」
コスト削減のため簡易的な駅舎に建て替えられたJR四国の讃岐財田駅=2024年8月
▽交通への投資を鉄道に切り替えたヨーロッパ
―会社の成り立ちや構造上、経営努力だけで収支改善するのは不可能ということですね。どのような仕組みが望ましいのでしょうか。
「(鉄道設備の所有と列車の運行を別々にする)上下分離みたいな形で、インフラ部分を社会が公的に支える仕組みが必要です。道路の場合、市道や県道があり、高速道路も国が整備してきました。一方で、鉄道に関しては事業者が全てを担うのでは、未来に向けた投資もできず、社会インフラとして正しい姿とはいえません。上下分離というと、公的な関与が再び強まるという印象をもつかもれませんが、むしろインフラ(下)を支えることで、サービス(上)を提供する民間事業者が力を発揮するしくみです。ヨーロッパの場合は、国鉄改革の過程で上下分離が採用され、民間活力を取り入れた経緯があります」
「JR四国は日本の交通ネットワークの一端も担っています。四国4県の自治体だけでなく、国の予算の使い方として鉄道にどの程度の予算を割り当てるのかという議論も地域として声を上げるべきです。ヨーロッパの主要国は、この20年余りの間、交通投資の予算を自動車道路から鉄道に切り替えてきました」
▽JR四国は先駆者に
―6月にJR四国の社長に就任した四之宮和幸氏は四国の街づくりという観点から、利便性向上の施策に重点を置く方針を示しています。
「JR四国は、他社に先駆け、2017年から国や自治体、専門家を交えた鉄道の在り方を議論する懇談会を開いてきました。先駆的な動きでしたが、具体的な解決策には至りませんでした。経営スキームが行き詰まっている以上、赤字をどうするのかという議論ではなく、人々の生活を豊かにするために未来に向けて投資ができる鉄道事業のしくみを新たに検討する時期にきています」
「JR四国の四之宮新社長は、列車を定間隔で運行するパターンダイヤ化など鉄道の利便性を向上させるという前向きな発想で臨まれています。先駆者の役を担ってほしいです」
6月にJR四国の社長に就任した四之宮和幸氏=2024年7月
× ×
宇都宮 浄人教授(うつのみや・きよひと)1960年生まれ。兵庫県西宮市。京都大博士(経済学)。日銀などを経て現職。交通経済学が専門で、ヨーロッパの地域公共交通やまちづくりに詳しい。
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