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映画「Team その子」から学ぶ解離性同一性障害。困難への理解、深めて

47NEWS / 2024年9月16日 10時30分

映画の一場面(友塚結仁監督提供)

 子ども時代に虐待や性暴力などの苦しみを経験すると、トラウマによって1人の人間の中に複数の人格が生まれることがある。かつて多重人格障害とも呼ばれた「解離性同一性障害(DID)」をテーマにした映画「Team その子」が全国各地で上映されている。
 DIDを抱える主人公「その子」を描いたフィクションだ。監督の友塚結仁さんは、全国各地で上映会を開いている。「映画を通じて、この障害のある人の困難に理解を深めてほしい」と話している。
 DIDや解離について深く知るため、識者にも話を聞いた。(共同通信=小川美沙)

 ▽「人格たち」に追い詰められる


映画の一場面(友塚結仁監督提供)

 優しい彼と暮らし始めた主人公・その子。「こんな幸せ長く続くわけないし」の声が頭に響く。身に覚えのない買い物をしたり、記憶が途切れたり―。その子の中に存在する「人格たち」はそれぞれバラバラに行動し、周囲との人間関係に摩擦を生んでいた。映画は、人格たちに翻弄され、追い詰められるその子の葛藤と、再び歩み出すまでの姿を映し出している。


映画の一場面(友塚結仁監督提供)

 これまで、DIDを抱える複数の人との出会いがあったという友塚さん。約20年前から、ドメスティックバイオレンスや性暴力などによる心の傷つきからの回復を支援するNPO法人「レジリエンス」のスタッフとして活動している。活動の傍ら、好きな映画を作りたいと映画学校に通い、卒業制作として選んだテーマがDIDだった。
 DIDはかつて、ドラマや本などで「裏の顔は殺人鬼」などとセンセーショナルに描かれることもあった。しかし、レジリエンスでの学びの中で、当事者はそうした誤解や偏見に苦しみ、周囲との人間関係がうまくいかないなど生きづらさを抱えていること、幼少期の性暴力被害といった、過酷な経験をしたことなどが影響していることも分かってきたという。


友塚結仁監督

 2023年春に完成したこの作品で、その子や「人格」などを演じた役者は、映画学校の学生や、知人らだ。性暴力被害を経験し、DIDを抱える当事者でもある「レジリエンス」の中島幸子代表も、監修と「カウンセラー」役を担った。これまで全国で30回以上、上映会を開催。友塚監督や中島さんらによるトークも各地で実施されている。
 友塚監督は「当事者がどうやって生き抜くか、間近で見ているととても力強い。こういう問題がある、で終わらせるのではなく、その力強さ、希望を描きたかった」と話している。


映画の一場面(友塚結仁監督提供)

 今後の上映会+トークは9月16日に新潟県長岡市、23日に仙台市、11月4日には新潟市で予定されている。詳細は映画『Teamその子』公式ホームページから確認できる。
 
  ×  ×
 DIDとはどのような病気で、どんな治療方法があるのか。元東京女子大教授で、「陽だまりクリニック美しが丘」医師の柴山雅俊さん(精神病理学)に聞いた。

 ▽バラバラになる

 トラウマやストレスなどの影響で、記憶や意識などをまとめる機能が破綻し、「私」がバラバラになる「解離性障害」の症状の一つがDIDです。解離性障害には、主に次のような症状があります。
・自分が切り離されている感覚(離人感)
・トラウマやストレスに関連した情報を思い出せない(健忘)
・知らぬ間に遠く離れたところに行く(遁走)
・1人の人間の中に、全く別の複数の人格が現れる(DID)
 DIDは人格が二つか、それ以上、区別できる状態で存在し、その間の記憶のつながりがない状態。親からの虐待、いじめや性的被害に遭ったりなど「トラウマ」によって生じます。診察の経験では、解離性障害の患者の1~2割ほどがDIDを抱えているようです。

 ▽自分を守るための手段

 力も立場も弱い子どもたちのように、予期できない他者の怒りや、虐待によって自由を奪われる人がいます。そうした人々の中には、自分の体験を他人事にして処理する人がいます。自分の中で抱えきれないので人格を切り離す。いわば自分を守るための手段です。
 虐待の場合、加害者に「所有物」のように扱われ、特に性的虐待は恥や罪悪感まで押しつけられてしまいます。被害者は「自分のせいだ」とさえ考えてしまいますが、そういう時、切り離された人格が本人の「身代わり」として苦痛を受け止めています。
 交代人格が本人や主人格に対し、「しっかりしろ」「死んでしまえ」などと迫り、迫害的になることがあります。しかし本来、彼らはトラウマの身代わりで、「守護者」でもあるので、つながることが大切です。このつながりこそ、回復のために大事なことです。

 ▽段階的な治療

 DIDは段階的な治療が重要。虐待の加害者と一緒に暮らしている状況では、回復が困難です。そこに距離を持ち込むことが必要です。まずは安全、安心の居場所を確立することです。
 第2段階は、交代人格との交流です。つらい経験を抱えてくれている人格を突き放さず、適度な距離で付き合います。
 第3段階は、交代人格との交流を進める中で、過去の経験を思い出し、自分の心の全体像を知ることです。断片化していた過去の体験がつながり、記憶がまとまりをもってよみがえってきます。
 生き抜くために体験を切り離したのですから、それらを思い出すには苦痛が伴います。そのため、「いま・ここ」が安心できる居場所であることや、過去ではなく「いま・ここ」から冷静な視点を獲得すること、信頼できる治療者からサポートを受けることが必要になってきます。
 こうして自分の中でバラバラだった自分を結びつけるうちに、徐々に現実の人たちとのつながりを形成していきます。重要なことは「いま・ここ」を基盤とした「私」の回復です。

   ×   ×
 性暴力被害者支援に詳しい上智大の齋藤梓准教授(臨床心理学)には、解離と性暴力被害について聞いた。

 ▽「痛みを感じない」

 性的虐待や身体的虐待は、解離を引き起こしやすいと言われていますが、状態や、起きるタイミングは人によって全く異なります。出来事の最中に「天井や横から自分を見ていた」「痛みを感じない」などと話す人もいます。
 解離したままの生活は困難が多く、急に現実感が戻って混乱することもあれば、暴力から逃れて、安全になった時に被害に関する記憶がよみがえる場合もあります。記憶が戻ることは苦しいことですが、一方で、自分の心の傷つきを整理するタイミングになるかもしれません。

 ▽シャッターが降りた

 子どもの時に性的虐待に遭った人が成長して別の性暴力に直面した時に、解離が起き、抵抗することが困難になる場合があります。「シャッターが降りたようで体が動かず、声も出なかった」と話した人もいます。
 幼い頃、虐待から生き延びる手段だった解離によって、自分の意思と全く関係なく、「相手に合わせるような言動をした」ととられてしまうこともあるのです。
 2023年7月、改正刑法が施行されました。不同意わいせつ罪、不同意性交罪では、「同意しない意思を形成・表明・全うするのが困難な状態」の原因となりうる行為として八つの類型を示しました。その一つに「虐待に起因する心理的反応を生じさせること、またはそれがあること」が含まれました。
 過去に虐待の被害に遭った人が、一過性の解離を起こし、再び被害に遭ってしまう実態があります。解離の概念を含め、警察・検察、裁判官など司法関係者だけでなく、教育関係者など社会で広く知られてほしいと思います。

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