「SNS無視できぬ情報源に」「物語性必要、リスクも」「第三者の拡散、選挙戦左右」 ネット選挙解禁11年、民意どう形成、課題
47NEWS / 2024年12月16日 9時30分
インターネット選挙が解禁されてから11年。X(旧ツイッター)やユーチューブなど、交流サイト(SNS)を活用した選挙活動への注目が急速に高まっている。既存政党の戦略や有権者の投票行動が大きく変化する中、民意はどこへ向かうのか。失職した斎藤元彦(さいとう・もとひこ)氏が再選された11月の兵庫県知事選の分析や、今後の課題を専門家に聞いた。(共同通信=石原知佳、中村岳史、大根怜)
▽資質や疑惑で盛り上がり、政策は争点にならず―岡本哲和関西大教授
インタビューに答える関西大の岡本哲和教授
兵庫県知事選後、有権者約千人にインターネット調査を行った。詳細な分析は今後だが、再選された斎藤元彦氏に投票した人のうち47%が候補者のX(旧ツイッター)を参考に投票先を決めたと回答。一方、敗れた稲村和美(いなむら・かずみ)氏に投票した人では22%にとどまった。SNSは今や無視できない情報源になった。
2013年にインターネット選挙が解禁され、SNS戦略への注目はここにきてこれまでにない高まりを見せた。疑惑告発文書問題で議会に不信任を突きつけられた末の出直し選挙。異例ずくめで耳目を集め、選挙区には無党派層が多い大都市圏も含む―。対立が過熱しやすいSNSと親和性の高い条件もそろった。
岡本哲和教授
そもそもネット選挙解禁で期待されていたのは政策などの選挙情報を十分に有権者に伝えること。ただ今回は、斎藤氏の資質の是非や、疑惑が真実か否かの二者択一の問いが提示されて盛り上がり、政策は争点にならなかった。
投票率は上がったが、似た意見ばかりに接する「エコーチェンバー」、違う意見が届かない「フィルターバブル」など負の面も目立った。ネット選挙がより浸透する米国ではこうした傾向が社会の分断を進めたとされ、日本でも顕在化する可能性は高い。
ネットは地盤のない候補者も活用しやすく、公正な選挙に役立つとされてきた。だが今後は各陣営が持ちうるリソースを集中投下する情報戦になりそうだ。ファクトチェックや多角的な情報へのアクセス確保が重要さを増す。有権者が情報を分析し判断する力がますます問われる。
× ×
おかもと・てつかず 1960年大阪府生まれ。専門は情報政治学。関西大政策創造学部教授。
▽選挙は地上戦4割、空中戦3割、SNS3割―選挙プランナーの藤川晋之助さん
インタビューに答える選挙プランナーの藤川晋之助さん
インターネット選挙が解禁されて10年以上たつが、選挙というのは地上戦5割、空中戦4割、SNS1割で、SNSを見ている人は選挙に行かないからあまり効果がないと言ってきた。しかし、2024年で変わった。今は地上戦4割、空中戦3割、SNS3割と言っている。SNSは5割の力を入れても良いぐらいだ。
東京都知事選で石丸伸二氏の知名度が上がったのはユーチューブやSNSの効果だ。選挙前にさまざまな動画を作り、その切り抜きの短い動画によって石丸氏は広く認知された。選挙戦がスタートすると、再生数が増えて広告収入があるからと街頭演説にユーチューバーが集まった。
兵庫県知事選での斎藤元彦氏は「改革に手を付けたことで既得権益層から反発を受け、テレビ・新聞などのオールドメディアから袋だたきに遭い、それに一人で立ち向かった」との物語性が受け入れられ、ネットで「バズる」展開となった。
藤川晋之助さん
来年の参院選でも多くの候補者がSNSに力を入れるだろうが、成功する人は少ないだろう。マイナスになるリスクもある。物語性がなければ存在感を出すのは難しく、支持者による他陣営への誹謗(ひぼう)中傷対策も必要だ。
石丸氏の選挙に関わったボランティアの中には、斎藤氏の陣営に加わった人もいる。そうした経験が今後ノウハウとしてまとまっていくはずだ。
ネット選挙は急速に進化しているが、公選法はそれに対応していない。質の高い動画を作るのにはお金がかかるが、そうした技術を持つ人に支払う規定がない。現状のままで良いのかを真剣に議論する時期だ。
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ふじかわ・しんのすけ 1953年大阪市生まれ。2022年に「藤川選挙戦略研究所」を設立し、都知事選で石丸氏陣営に関わった。
▽「オールドメディアとの対立構図」に注目と支持―ネットコミュニケーション研究所代表の中村佳美さん
インタビューに答えるネットコミュニケーション研究所代表の中村佳美さん
選挙でのSNSの影響は、兵庫県知事選の斎藤元彦氏と、衆院選での国民民主党の玉木雄一郎(たまき・ゆういちろう)代表で異なる。玉木氏は短時間の「切り抜き動画」を活用し、SNS上で能動的に情報を拡散させる戦略を採用した。斎藤氏はオーソドックスな活用にとどまり、本人の発信というより、支持者たちの投稿や拡散が盛り上げる原動力となった。
斎藤氏を支援する目的で立候補した政治団体代表の立花孝志(たちばな・たかし)氏は「SNS対オールドメディア」という対立構図を作り上げ、大きな注目と支持の流れを生み出した。新聞やテレビへの不信感が広がる中、有権者は「真実」をSNSに求め、立花氏をその情報源として信頼する風潮ができた。
この状況は飲食店情報サイト「食べログ」に似ている。利用者の口コミが決め手となるように、インフルエンサーや身近に感じる動画投稿者らの意見が有権者の判断に影響を及ぼした可能性がある。立花氏のケースは特殊とはいえ、影響力のある第三者と連携する戦略が選挙で有効であることを示したと言える。
中村佳美さん
SNSの活用が重要性を増す中、候補者や政党が有権者の関心を集めて拡散を狙う動きが広がるだろうが、候補者の認知度向上には寄与する一方で、政策や理念といった本来の訴求点が希薄化する懸念がある。支持者らによる対立候補への誹謗(ひぼう)中傷やデマの拡散といった課題もある。
候補者自身の発信よりも支持者らの投稿が有権者に届きやすい傾向があり、この「第三者の声」が選挙戦を大きく左右している。SNSは単なるツール以上の存在になりつつある。
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なかむら・よしみ 1992年高知県生まれ。慶応大院政策・メディア研究科修士課程修了。2022年ネットコミュニケーション研究所設立。
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