石破さんとトランプ次期大統領は信頼関係を築けるのか? 首相持論の受け止めは【ワシントン報告㉓首脳外交】
47NEWS / 2024年12月27日 9時0分
日米のリーダーが時期を近くして代わることになった。ワシントンは2025年1月に始まるトランプ次期政権の政策や高官人事に対する関心一色で、2024年10月に就任した石破茂首相の注目度は低い。石破氏はトランプ氏と個人的な信頼関係を築けるのかどうか、2人の相性に不安を抱かせる要素は多い。石破氏の日米安全保障条約をより対等な関係に改正すべきだという持論の実現は難しいだろう。(共同通信ワシントン支局長 堀越豊裕)
▽石破氏持論に米国の反応は
実動訓練「レゾリュート・ドラゴン」の開始式に臨む陸上自衛隊(奥)と米海兵隊の隊員ら=2024年7月28日、熊本市の陸自健軍駐屯地
石破氏は2024年9月の自民党総裁選前、米国の保守系シンクタンク、ハドソン研究所に安保条約の改定などを唱える構想「日本の外交政策の将来」を寄稿した。「アメリカは日本『防衛』の義務を負い、日本はアメリカに『基地提供』の義務を負うのが現在の日米安保条約の仕組みとなっているが、この『非対称双務条約』を改める機は熟した」と訴え、北大西洋条約機構(NATO)のアジア版創設や地位協定の改定を掲げた。
この主張を後押しする空気は米国内にまるでない。寄稿を受けたハドソン研究所でさえ、ケネス・ワインスタイン日本部長があるインタビューで、地位協定の改定に関し「米国とより対等な関係になり、日本が防衛を自ら行うとなれば、いずれかの時点で改正も意味があるだろうが、そこにはまだ至っていない」と語っている。ワインスタイン氏は駐日大使の候補にも挙がったことがある。
地元の鳥取県八頭町を訪れ、支援者らと握手を交わす石破首相=2024年12月1日
日米関係の強化自体は米国側も歓迎だが、日米安保の根本的な改正となると話は違う。戦力不保持や交戦権否定を定めた日本の憲法も考えたとき、現在の非対称の関係を変えるのは容易でない。
同盟関係にある日本の首相の発言は米側にとっても重い。ただどこまで真剣に受け止めるかは、首相の政権基盤の強弱にもよる。石破氏が就任した際、「長期的に政権を続けるのは苦労するのではないかと専門家は見ている」(ニューヨーク・タイムズ紙)という評価が広がっている中では、首相の持論に肩入れする機運は盛り上がらない。
▽「米英同盟」と「日米同盟」の差
(左から)カナダのトルドー首相、米国のドナルド・トランプ次期大統領、イギリスのキア・スターマー首相
石破氏は2024年11月の南米訪問に合わせてトランプ氏との会談を模索したが、実現しなかった。トランプ氏陣営に「法律上の制約で、どの国とも会談しない」(石破氏)と説明されたようだが、8年前の2016年には安倍晋三首相と会っている。石破氏との会談を断った後の2024年11月末には米国と関税問題を抱えるカナダのトルドー首相がフロリダ州のトランプ氏の私邸を訪れ、夕食会と合わせ3時間にわたり会談した。石破氏との会談は現時点で優先度が低いと判断された結果と言える。
大統領選の期間中も一部の首脳とは会っている。その1人が9月のスターマー英首相で、女性のピアス駐米大使の人脈が奏功したとされる。社交的で知られるワシントンの有名人だ。
スターマー氏の労働党は大統領選でハリス副大統領を応援する動きがあり、トランプ氏との関係は良くない。それでも会談に導いたことで、英メディアもピアス氏を「外交官の中の外交官」(ニュースサイトのインディペンデント)と持ち上げた。
石破氏は寄稿で「米英同盟並みに日米同盟を引き上げることが私の使命だ」と締めくくったが、彼我の差は大きい。
▽識者が言う「不幸中の幸い」
トランプ前大統領(左)と安倍元首相=2019年6月、大阪市
日本にとって米国は外交の基軸である。小泉純一郎―ブッシュ、安倍晋三―トランプといった過去の関係を見ても、長期政権を率いる上で米大統領との良好な関係は欠かせない。
米国との同盟関係や米軍が駐留する点で韓国は日本と立場が似ている。尹錫悦大統領は訪米時、バイデン大統領から国賓として迎えられるなど、個人的に関係が良かった。在韓米軍の見直しなどに触れたこともあるトランプ氏とはどうか。ワシントンの韓国人記者は「強権的な指導者を好むトランプ氏の性格から見れば、うまく行くのはないか」と楽観的だったが、その後に起きた「非常戒厳」宣言で尹氏の政権基盤自体が揺れている。
石破氏とトランプ氏との関係について、米シンクタンク、スティムソンセンターの辰巳由紀・日本部長は「2人のキャラクターを考えると関係構築は難しいかもしれない」と予測する。今回、石破氏とトランプ氏の会談は実現しなかったが、そのことについて辰巳部長はこう見ている。「最初の会談に全てがかかっている。今回もし失敗していたら取り返しがつかず、その点で不幸中の幸いだったとも言える」
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