マイナ保険証への移行、識者に聞く 対応に不安も、在るべき姿は?
47NEWS / 2025年1月14日 9時0分
現行の健康保険証の新規発行が2024年12月2日で停止された。マイナ保険証への移行で情報共有が容易になる利点もあるが、医療関係者や患者の不安は根強い。病歴などセンシティブな内容は十分保護されるのか。在るべき情報社会の姿について、専門家に意見を聞いた。(共同通信デジタル弱者問題取材班)
▽課題多い一本化、人権問題 日本視覚障害者団体連合会長の竹下義樹さん
竹下義樹さん
マイナ保険証で本人確認する場合、カード読み取り機で顔認証や暗証番号入力が必要だが、視覚障害者はいずれも難しい。顔認証では枠内に顔を入れることができないし、たとえ認証できたとしても音で合図がないので分からない。
現行の健康保険証が廃止され、医療を受けにくくなるなどの不利益があるなら人権問題だ。課題を多く抱えたままなので、マイナンバーカードと保険証の一本化に踏み切らず、考え直してほしい。国は一度決めた方針を変更し、自分たちの間違いを認めることを恐れているのではないか。
政府は目視での本人確認を容認しているが、初めから使えない人たちを「例外」に追いやっており、適切ではない。読み取り機には音声ガイド機能が付いておらず、障害者の困り事に対応する「合理的配慮」も不十分。機器の開発段階で障害者の声を聞くべきだったのではないか。
誰でも安心して病院にかかれる国民皆保険制度の崩壊はあってはならない。今後も諦めず、視覚障害者の懸念を政府に訴え続ける。
竹下義樹さん
本来デジタル化は、高齢者や障害者にとっても便利なものであるべきだ。省力化などを目的に導入が進むスーパーのセルフレジや、駅の券売機などは音声出力が十分ではなく、現状では視覚障害者が利用しづらい。
誰もが使えるよう意識した「ユニバーサルデザイン」は全ての人にとって有益だ。「障害者のために」と思っていたものが、実はお年寄りやデジタルに不慣れな人のためでもあると気付けるはず。一部の人を置いてきぼりにしたままの社会進歩はあり得ない。政府は障害者も含めた形での「誰一人取り残されないデジタル化」を目指してほしい。
× × ×
たけした・よしき 1951年生まれ。石川県出身。中学3年で失明。2012年から日本盲人会連合(現日本視覚障害者団体連合)会長。京都弁護士会に所属。
▽費用対効果疑問、利便低い IT企業サイボウズ社長の青野慶久さん
IT企業サイボウズ社長の青野慶久さん
経営者なので、健康保険証の廃止とマイナ保険証への一本化に関して、費用対効果が気になっている。どれくらいお金がかかって、どれくらい国民の利便性が上がったのか。自治体や病院の職員は楽になったのか。一方、効果と言えば、薬剤情報が共有できるとか、国民目線では見えない。出費の方が多いように思える。
現行保険証だと不正がしやすいとの主張もあるが、今どのくらい不正が起きているのか、国民に伝わっていない。マイナ保険証の高価な読み取り機は各地の病院に置かれつつあるが、一体いくらかかるのか。
2枚持っているカードが1枚になるのは良いかもしれないが、それに対して国民はいくら払えるのか。高齢者から新生児、カード管理できない人まで全員発行して、しかも5年おきに更新する。どう考えてもコストが高い。合理的に考えればやってはいけないことをやっている。
もっと安くて、セキュリティー的にも安全で便利な方法があるのに、それを採用しない。その理由って何なんだろう。
青野慶久さん
マイナ保険証のカードなど不要で、スマートフォンのアプリで十分だ。健康保険証も運転免許証も全て入れられる。そもそも不正に健康保険証を使う人がいるなら、顔写真付きにしたら良い。身分証が必要なら、免許証がない人に「無免許証」を発行するという手もある。
究極的には、個人認証はマイナ保険証のようなカードではなく、顔や指紋、声、網膜などいくつかの組み合わせでやるべきだ。高齢者や障害者まで誰も取り残さず、より確かな認証ができる。
× × ×
あおの・よしひさ 1971年生まれ、愛媛県出身。IT企業サイボウズ社長。大阪大卒、1994年に松下電工(現パナソニックホールディングス)入社、1997年に松山市でサイボウズを設立した。
▽監視社会への危機感持って アジア太平洋資料センター共同代表の内田聖子さん
NPO法人アジア太平洋資料センター共同代表の内田聖子さん
デジタル技術の発展が監視社会につながってはならない。近年、企業による自治体のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援が活発だが、自治体が保有する住民の個人情報を営利目的で使えるようになり、企業だけがもうかる仕組みになっていないか。
政府や自治体は、徹底的な情報開示で透明性を高め、民主主義に寄与する形でのデジタル化を進めてほしい。情報を受け取る国民のリテラシー(知識や判断力)向上も欠かせない。スペイン・バルセロナ市では市民がまちづくりなどで市政に参加できるデジタルプラットフォームの活用が進んでいる。
例えば、「GAFA」と呼ばれる米巨大IT企業は、検索やインターネット販売などを通じて世界中の個人情報を収集し、一人一人に異なる広告を見せるビジネスモデルで多額の利益を上げてきた。利用者を監視する、こうしたターゲティング(追跡型)広告に対し、欧州連合(EU)はデジタルサービス法などで規制を強めたが、日本は不十分なままだ。
人々のプライバシーを侵しながら成り立つビジネスは長続きしないと信じたい。国民の個人情報がIT企業の「食い物」にされてしまう構造を変えていくべきだ。
内田聖子さん
マイナ保険証を巡っては、別人の情報がひも付けられるといった技術的なミスが続発した。医療機関の理解も十分でなく、利用率も低迷している。期限ありきで健康保険証を廃止すれば、さらに大きなトラブルを招きかねない。企業と異なり、行政は全ての人をカバーする必要があるが、高齢者や障害者が困らないよう、対策を徹底できていない。
× × ×
うちだ・しょうこ 1970年生まれ。大分県出身。NPO法人「アジア太平洋資料センター」(PARC)共同代表。著書に「デジタル・デモクラシー」など。
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