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【PTA免除の儀式】固まる母親を見かね「もうやめませんか?」声をあげた父親に何が起きたか

オールアバウト / 2024年4月8日 21時15分

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入学・進級シーズンの今、PTAクラス役員決め(委員決め)のことが気になる保護者も多いのでは。みんなの前で「できない理由」を発表する「免除の儀式」を見かねて、「もうやめません?」と声を上げた、ある保護者の話を紹介します。

新学期を迎えるこの時期、毎年保護者、特に母親たちの心をざわつかせてきたのが「PTAクラス役員決め」(委員決め)というイベントです。

PTAは昔から強制加入が多く、保護者に対してよく「1クラス(または学年)から必ず○人の委員を選出する」といったノルマ・義務を課してきました。でも今は、母親も父親も関係なく忙しく、年間を通して活動する委員を引き受けられる人はそうそういません。

最近は徐々に見直しが進み、入会意思を確認するPTAや、「必ず○人」をやめて希望者のみで活動するPTA――ボランティア制、手上げ制、エントリー制、都度募集など――も増えているものの、やはりまだ「必ず○人」方式は多く見られます。

ノルマの人数を満たす希望者がいないときは、希望しない人に役があてがわれるわけですが、このとき保護者はよく「できない理由」を言わされます。事情がある人を「免除」する目的とされ、「免除の儀式(裁判)」などと呼ばれますが、実際のところよほどの事情がない限り「免除」は認められません。

それにそもそもPTAは義務ではないので、「免除」という発想自体がおかしいのです。変えるべきは「PTA=義務」という認識であり、本当は「できない理由」を他人に告げる必要もないでしょう。

いろんな事情を抱えた人がいます。「他人に言いたくない」という人もたくさんいます。取材していると「病気のことを話すのが本当につらかった」「精神疾患のことを泣きながら話した」という人にも時々出会います。だから筆者は「できない理由」を言うのをやめよう、と言ってきたのですが。

コロナ禍でPTA活動がストップした時期は、こういった「クラス役員決め」や「免除の儀式」の話をほとんど聞かなかったのですが、昨年度(2023年度)から復活させたPTAも多いようです。悲しく思っていたところ、ある保護者から「『免除の儀式』を取りやめてもらった」という報告が。おお、どうやったのでしょう? 教えてもらいました。 

「理由をここで」やりとりを見かねて、つい熱弁

2023年春、公立小学校に子どもが入学したタツヤさん(仮名・30代)は、初めて学級懇談会に出席しました。共働きですから、学校行事には出られるほうが出る約束です。なお、この小学校のPTAには入会届がなく、保護者は自動加入の扱いでした。

授業参観のあと懇談会が始まると、すぐPTAの役員さんが前に出て、委員(クラス役員)決めがスタートしました。教室にいた保護者は約20人。父親は、タツヤさんと司会の役員さんを含む4、5人で、多くは母親です。この20人から3つの委員、計5人を選ぶというのですが、PTAを初めて経験する人が多く、みんな要領を得ない様子です。

1つ目の委員はじゃんけんで決まり、2つ目の委員を決めるとき、ある保護者が活動日について質問しました。平日だと分かり、「仕事があるので難しい」というと、役員さんは「いや、要相談です」と答えたそう。同様のやりとりが繰り返され、この委員は決まらないまま次に進むことに。

学級委員を選ぶ際は「まだ委員になっていない人」が全員立たされました。1人ずつ、引き受けられるか否か、引き受けられないなら理由を言うことを求められたのです。

しかしみんな、引き受けられない理由は事前のアンケートに記入して提出しています。最初に発言を促された保護者がその旨を伝えると、役員さんは「それを、ここで言ってもらえますか」と答えたため、保護者は「えっ」とうろたえ、固まってしまいました。

「それを見て、私スイッチが入ってしまって。『ちょっと待ってもらえますか、それをここで言う必要があるんですかね』と、5分くらい熱弁してしまいました。『プライバシーの侵害にあたるんじゃないかと思いますが、どう思いますか?』って聞いたら、役員さんも『そう思います』と。

『でも理由を言わないと、周りの方が納得しない』とおっしゃるんですが、そもそもPTAはボランティアなのに『できない理由』は要らないでしょう。だから『もうやめにしませんか?』と言ったら、『分かりました』と言ってもらえました」

学級委員を引き受けたら、続いて……

こうして「免除の儀式」は回避できたのですが、とはいえその場で急に、委員の選び方や人数を変えることもできません。やはり、ここは誰かが委員をやらざるを得ない……。タツヤさんは自ら手を上げ、学級委員を引き受けることに。すると、先ほど「仕事がある」といった保護者も手を上げ、一緒に委員をやってくれることになりました。

そうした言動に思うところがあったのでしょうか。すぐ近くに座っていた保護者も口を開きました。PTAについての何の説明もなく、会員として扱われているのはなぜなのかと、疑問を呈したのです。

「同じように思っている人は何人かいるんだな、と思って少し感動しました。役員決めが始まったら、みんな急にしんとして、担任の先生も黙っているし、『これはちょっと違うよな』と思って。でも思うことを言ってみたら、意外と賛同してくれる方もいることが実感できて、面白かったです」

いい話だなぁ、と思って聞いていたら、さらに続きがありました。

最後に口を開いた保護者も残りの委員を引き受けて、委員決めは無事終了。タツヤさんは帰り際、学級委員を引き受けたもう1人の保護者から、先ほどの熱弁についてお礼を言われたということです。

その後もタツヤさんはPTAや校長、教育委員会に働きかけを続け、「入会届の整備」「個人情報の正しい取り扱い」「PTA会費と学校徴収金の切り分け」「PTAに入らない家庭の子どもに不利益がないことの周知」などに取り組んだということでした。

みんながやり過ごしてきたPTAの問題点

旧来型のPTAには、見直しが必要な点がいろいろとあります。そもそも「必ず○人」という委員の人数設定がおかしく、「できない理由」を言わせるのも問題ですが、でも長い間、それを指摘する人はわずかでした。ほとんどの人が心の中で「なんだこれ」と思いながら、PTAをやり過ごしてきたのです。

でもこのままでは状況はいつまでも変わらず、次の保護者がまたいやな思いをすることになります。

筆者が取材を始めた10年前と比べると、少しずつではありますが、PTAやそれを取り巻く空気は変わってきました。それは間違いなく、それぞれのPTAや学校で声をあげてきた保護者(役員さんも非会員も含む)や教職員の人たちの功績でしょう。タツヤさんのように、ちょっと勇気を出して発言できる人が増えてくれたらいいな、と思います。

※登場する人物が特定されないよう、性別にかかわる表記をなくし、発言内容を要旨のみに変更しました(4月10日21時40分:編集部追記)

この記事の執筆者:大塚 玲子 プロフィール
ノンフィクションライター。主なテーマは「PTAなど保護者と学校の関係」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。
(文:大塚 玲子)

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