「新サラサ」は細くて軽い3色ペン! 握って驚くスリムさの秘密は“常識破り”のスプリング位置にある
オールアバウト / 2024年4月11日 21時15分
ゼブラの「サラサクリップ」は、累計10億本を超えた大ヒット商品です。その書き味や使い勝手はそのままに、よりスリムになった3色ペンが「サラサクリップ3C」です。その秘密をゼブラの開発担当者に聞いてきました。
ゼブラの「サラサクリップ3C」は、「サラサクリップ」と同じインクを使った黒、赤、青の3色ボールペンです。サラサシリーズにはすでに「サラサ3」という3色ボールペンがあり、そのリニューアル版とも言える製品になります。
その最大の違いは、軸の直径が約1mm短くなり、重さが約1g軽くなったこと。
こう書くと、ほとんど変わっていないように思われるかも知れませんが、もともとが細くて軽い製品ですから、数値自体の変化は小さいのですが、例えば、軸は約8%スリムになり、重さは約7%の軽量化に成功しています。
そう聞くと、結構大きな変化であるということが分かっていただけるのではないでしょうか。
サラサクリップ3Cがすごいのは、これまでの多色ペンに使われていたリフィル(替芯)をそのまま使いながら、このスリム化を実現していることです。
今は、細軸の多色ペンもいろいろあるのですが、多くは金属製の4Cと呼ばれる規格の細いリフィルが使われています。
しかしそうではなく、価格も安く、インク量も多い、一般的なペンで使われているリフィルで、この細さを実現したことが、このペンの決定的に新しい部分なのです。
筆記距離とスリムさを両立させるための新しい構造
「とにかく、サラサの多色ペンの軸を細くしたいというのが企画のスタートでした。とはいえ、4Cなどの細いリフィルを使えば軸径は細くはなるのですが、それだと筆記距離がかなり短くなってしまいます。また、リフィルも高価になります。
ゲルインクの宿命でもあるのですが、『インクがすぐになくなる』と言われることもあるので、現状よりインクを減らす方向には行きたくなかったんです」と、「サラサクリップ3C」の開発を担当したゼブラ株式会社研究本部の水鳥元嵩さん。
つまり、従来のリフィルを使いながら、いかに細くするかというのが、この製品の開発の課題だったということです。
そしてその裏には、2023年に発売20周年を迎え、累計10億本を売り上げたサラサという人気ブランドの中にあるものの、“多色ペン”については、あまりユーザーへ浸透していないという状況がありました。
実際、「サラサクリップ」という製品のイメージが強く、定番のゲルインクボールペンとして、すっかり定着している分、他の製品に目が届きにくくなっているというところはあるかもしれません。実際、筆者もサラサの多色ペンは使っていませんでした。
「もともとサラサの多色ペンは軸がやや太かったのですが、それでも、3本のリフィルが1本の軸の中に入っていて、それぞれのリフィルにスプリングが巻き付いていますから、それぞれのリフィルを近づけると、スプリング同士が干渉して誤動作の原因になってしまいます。
そもそも、スプリングがリフィルに巻き付いているということ自体が、細くすることを邪魔しているわけです。
ですから、これ以上細くするためには、従来の方法では無理だということは分かっていました。
それでも、いろいろな方法を検討していく中で、ついに『サイドスプリング』という方式にたどり着きました」と、もう1人の開発担当者、ゼブラ株式会社研究本部の佐野葵さん。
スプリングの位置を変えてスリム化を実現
ペンの軸を細くするために何がネックになっているか考えたとき、“スプリング”が最初に出てくるのは確かに自然な流れのように思えます。
しかし、ノック式多色ペンの構造は、もうずっと長い間変わっていません。それは、この方式のメリットが大きかったということもあったと思います。
実際、「サイドスプリング」機構もスムーズに出来上がったのではなく、別の方法を考えていて、それでは難しそうだとなったときの代案として出てきたのが、このアイデアだったのだそうです。
「結局、このアイデアが出るまでが大変でした。サイドスプリングにしようと決まってからは、比較的早く進んだと思います。細かい設計や具体的な動作などはスムーズにイメージできました。
とはいえ、実際に試作してみるまでは、動くかどうかとても不安な気持ちで作っていました。理論上、動くことは間違いないのですが、社内では、本当に動くのかという声も出てきて……そこを証明するところがスタートのような感じでしたね」と佐野さん。
サイドスプリング機構とは、3色のリフィルを中央に寄せて、スプリングはそれぞれのリフィルの横に設置したものです。
これによって、リフィル同士を中央に寄せられるだけでなく、リフィルにスプリングを巻き付ける必要がないので、スプリング自体も細いものが使えます。
実際に試作してみて、動くことは間違いなかったけれど、軸の中のスペースや、軸の中でリフィル同士が干渉しないかなど、構造部分の問題は多く、そういう細かい問題を1つずつ解決していく大変な作業だったと言います。
サイドスプリング機構を搭載してスリム化したペンは繊細なパーツの集まり
「サイドスプリング機構はスプリングがリフィルに巻き付いていないので、スプリングを軸の中で固定するためのパーツが必要となりました。なので、リフィルを軸の中で正しい位置に誘導するパーツとは別に、スプリングを誘導するためのパーツをつけています。
ちなみに、パーツが全体的に繊細なので、量産するにあたって、組み立ての方法をどうするかといったところも頭を悩ませました」と水鳥さん。
そして、これだけのアイデアと技術を投入しても、すでにある多色ペンと同じリフィルを使う以上、細くするにも限度があります。
劇的に細くなることはないと分かっていて、それでも少しでも細くしようと考え抜いた上で出来上がったのが、「サラサクリップ3C」なのです。
たしかに、以前の「サラサ3」と比べてみると、明らかに細くなっていますし、実際に書いてみると、その違いがハッキリ分かります。
この新サラサを使ったユーザーが「細くなった!」と盛り上がっているのも当然のすごい製品なのですが、そのすごさは、握って、書いてみないと分かりにくいのがもどかしい製品ではあります。
クリップもノックボタンにすることで、より細く
今回、ノックボタンは従来の3つボタンから「2ボタン+クリップ」で3色を出すようになっています。
これも、細くするためのアイデアの1つです。ボタン(3つ)とクリップ(1つ)で4つ分のスペースを使うより、3つの方が少ないスペースになるというわけです。
「この構造のメリットを最大限に生かしたレイアウトと言えるかもしれません」と水鳥さん。しかも、サラサクリップの特徴でもある、大きく開くクリップの構造はそのままに、クリップがノックボタンも兼ねるという構造になっています。
クリップとしての使いやすさと、狭い中でのノックボタンの安定した動作を両立させる構造だけに、操作性を、従来品に劣らないようにするのも難しかったそうです。
「『サラサ3』を少し太いなと思いながら使ってくださっていた方は、その細さにすぐ気が付くと思います。以前のものも、特別太いわけではないのですが、油性の多色ペンに比べると、リフィルの太さの分、どうしても太くなります。
ただ、ゼブラはゲルインクを得意としているメーカーですから、そこは生かしたかったんです。
特に太いことに対してお申し出があったわけではないのですが、やはり、細い軸は人気もありますし、より多くの人に持ちやすいと感じてもらえるのではないかと思うんです」と水鳥さんは、サラサブランドで細い軸の3色ボールペンを出したいと思った理由を教えてくれました。
印刷ではない鮮やかな発色の天冠部分
目立たない部分ですが、天冠(キャップのトップ)のパーツにもこだわりが詰まっています。
この「サラサクリップ3C」は、通常の多色ペンとは違って、ノックボタンには色が付いていません。どのボタンが、どの色の芯を出すのかは、天冠部分の色で見分けるようになっています。
そのため、この天冠部分は黒、赤、青の3つの色が付いているのですが、これが印刷ではなく、それぞれの色のプラスチックが使われているのです。
「やはり、天冠部分は色をハッキリ出したいと思ったんです。しかし、3色あって、ベース部分もあるとなると、いくつかのパーツに分ける必要があります。1パーツで3色というのも実現できなくはないのですが、作るのは大変です。
ですから、2パーツでそれぞれ2色成形なら出来そうかなど、かなり頭を悩ませました。複雑な形になりますし、それがパチッと噛み合わなければならないしなど、地味な部分ですが、ここはぜひ見てほしいと思います」と水鳥さん。
細いだけでなく、軽さも「サラサクリップ3C」の魅力の1つです。以前のサラサ3Cとは1gの差ですが、13gと14gは持てばハッキリ分かる違いなのです。筆者は、このペンを最初に持ったとき、細さよりも軽さに驚いたくらいです。
ところが、開発担当のおふたりは、軽さについてはあまり意識していなかったのだそうです。
「単純に細くなったことによる副産物のような感じです。ただ、パーツも繊細になっているので、その分は軽くなっています」と水鳥さん。
新技術の集積を440円で入手できる幸せ
これだけのアイデアを投入して、持てば違いが分かるくらいの細くて軽い軸を実現して、しかも、とても繊細なパーツを組み上げて作られているペンが、なんと440円(税込)というのも、ゼブラ製品らしさです。
使っているこちらが、もう少し高くてもいいのではないかと思ってしまう価格設定なのですが、「まあ、従来品が385円(税込)ですし」と水鳥さんは言います。
このサイドスプリングの構造を実現するために、従来品よりも多少ノックボタンが長くなっていたり、そのために新しくパーツを開発したりと、開発にはかなりの手間がかかっているのですが、水鳥さんも佐野さんも、あまり苦労したという自覚がない話しぶりなのが印象的でした。
「どうも、ゼブラの開発チームは自分たちの苦労を苦労と思ってない感じなんですよ。この製品も開発には4年ほどかかっているのですが」とゼブラ株式会社広報の池田智雄さん。
とはいえ、出来には満足ですか?と聞くと、水鳥さんも佐野さんも「満足です」と笑っていました。
実際に手に取ってみないと、そのすごさが分かりにくい製品ではあるのですが、ゲルインクの多色ボールペンで、これだけ細くて、インクもそれなりに長持ちする製品は、ほとんどないのです。
新しい構造のペンなので、サイドスプリングの仕組みが見える透明軸も良いのですが、個人的にはスリムさが映える赤軸が気に入っています。
納富 廉邦プロフィール
文房具やガジェット、革小物など小物系を中心に、さまざまな取材・執筆をこなす。『日経トレンディ』『夕刊フジ』『ITmedia NEWS』などで連載中。グッズの使いこなしや新しい視点でのモノの遊び方、選び方を伝える。All About 男のこだわりグッズガイド。(文:納富 廉邦(ライター))
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