【将棋】西山朋佳女流三冠、史上初の「女性棋士」まで一歩届かず。今後、女性の棋士は誕生するのか?
オールアバウト / 2025年1月24日 17時5分
2025年1月22日に行われ、注目を集めた西山朋佳女流三冠の棋士編入試験の最終第5局。2勝2敗で迎え、勝てば3勝となり合格、負ければ不合格という大一番は、残念ながら不合格となりました。この試験の条件や内容と、今後、女性の棋士は誕生するのか解説します。(写真:毎日新聞社/アフロ)
「棋士」とは、日本将棋連盟に所属する将棋を指すプロのこと。養成機関である「奨励会」で激しい競争をくぐり抜けた、ごく一部の人間だけが棋士になることができます。
西山朋佳女流三冠は、棋士ではなく「女流棋士」。棋士と女流棋士は、なるための制度も難易度も違い、その間には実力差があります。現役棋士の約170人全員が男性で、これまで棋士になった女性は1人もいません。
2025年1月22日に行われ、注目を集めた西山朋佳女流三冠の「棋士編入試験」の第5局。2勝2敗で迎えた最終局、勝てば合格、負ければ不合格という大一番は、残念ながら不合格という結果となり、史上初の「女性の棋士」誕生とはなりませんでした。
トップ女流棋士が棋士を目指して戦った「棋士編入試験」とは
西山女流三冠は、女流棋士の8つのタイトルのうち3つを保持しているトップの女流棋士。棋士は棋士だけの棋戦、女流棋士は女流棋士だけの棋戦で対戦するのが将棋界の基本ですが、成績優秀な女流棋士は、棋士の棋戦(公式戦)にも出ることができます。その棋士の棋戦で13勝7敗という成績を残した西山女流三冠は、2024年7月に棋士編入試験の受験資格を獲得しました。
ほとんどの棋士が奨励会を勝ち抜いて棋士になっていますが、わずかな別ルートがこの棋士編入試験。アマチュアにも女流棋士にもほぼ同じ条件で門戸が開かれ、公式戦で勝率6割5分以上、10勝以上という成績をクリアしたときに受験の資格が得られるものです。
原則として26歳になるまでに棋士になれなければ、強制的に退会となる奨励会と違い、棋士編入試験には年齢制限がありません。
受験手続きをした時点で新しく棋士になった順の5人が試験官となり、対戦相手になります。試験対局は1カ月に1局と決まっており、3勝で合格、3敗で不合格。3勝か3敗したら、そこで試験は終了となります。今回の試験は2024年9月に始まり、年をまたいで5カ月間で5局が指されました。
棋士編入試験の制度ができてから、アマチュア3人と西山女流三冠含めた女流棋士2人が受験しています。
アマチュア3人はいずれも3勝1敗で合格、西山女流三冠の前にこの試験を受験した福間(試験当時は里見)香奈女流五冠は0勝3敗で不合格となっており、試験が5戦目までもつれたのは今回が初めて。最終局に勝てば合格、負ければ不合格という大変注目を集める状況でした。
奨励会時代と同じように「あと一歩」届かず。女性棋士は誕生する?
もともと西山女流三冠は、男子と同じように中学2年で奨励会に入会。奨励会は6級から始まり(奨励会6級はアマチュア四段くらいと言われます)、会員同士の対局を重ねて大きく勝ち越すなど一定の成績を収めれば、級が上がるシステムです。1級の上は初段、二段と上がり、最終の三段は半年ごとのリーグ戦に挑みます。40人ほどの三段リーグで、棋士になれるのは上位2人だけという厳しさ。現在29歳の西山女流三冠は、24歳のときに三段リーグで3位になり、棋士まであと一歩と迫ったことがあります。
今回の棋士編入試験もあと1勝というところまで迫り、結果は残念であったものの、棋士まであと一歩という力があることを改めて証明したと言えます。
さて、今後、女性の棋士は誕生するのでしょうか。
棋士になるための主要ルートである奨励会には現在、女性の会員は6級に1人しかいません。女流棋士になりたい女の子はたくさんいても、棋士になりたいという女の子はなかなかいないのです。
奨励会を勝ち抜いて棋士になるのは男女問わず難しいうえ、奨励会6級から棋士になるのに10年以上かかることも珍しくありません。奨励会を勝ち抜いて女性が棋士になる日が、近いうちに来るとは言えない状況です。
棋士に少しずつ近づく女流棋士の実力。再び「棋士編入試験」の可能性も
棋士編入試験については、2022年5月に福間女流五冠が棋戦で10勝4敗の成績をあげて受験資格を獲得し、西山女流三冠は2024年7月に資格を得ています。2年で2回、女流棋士が棋士編入試験の受験資格を満たしたことを考えると、近い将来、女流棋士が棋戦で勝利を重ね、試験の受験資格を得ることは十分に考えられます。
福間女流五冠は、試験に不合格になった直後の会見で「これが最後の挑戦だった」と今後の受験については否定的でした。西山女流三冠は、記者からの今後の試験再挑戦についての質問に「いったん整理して考えたい」と答えています。
再び棋戦で勝率6割5分以上かつ10勝以上の成績を残せば、再度受験することができるので、再挑戦はあるのかもしれません。
また、福間・西山の女流棋士ツートップ以外にも、棋戦に出て男性の棋士相手に勝ち星をあげている女流棋士は複数いて、まだ受験資格獲得には遠いものの、少しずつ棋士と女流棋士の棋力差は縮まっています。
奨励会三段を経験したことがある女流棋士は、最近まで福間女流五冠、西山女流三冠の2人だけでしたが、2024年11月には年齢制限により奨励会を三段で退会となった中七海(なか ななみ)女流三段が加わりました。
女流棋士の世界が活性化することによって実力が磨かれ、女性が棋士になる日が近づくのか、今後も注目です。
※段位、タイトル数は2025年1月22日時点
この記事の執筆者:宮田 聖子
ライター。アマチュアの将棋大会の運営を16年続けつつ、文春オンラインとマイナビ出版・将棋情報局にプロ棋士のインタビューやアマチュア将棋の記事を執筆。
(文:宮田 聖子)
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