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記憶が薄れゆく認知症の母へ。50歳の娘が届けた感謝の手紙 #15

ananweb / 2019年12月20日 19時40分

記憶が薄れゆく認知症の母へ。50歳の娘が届けた感謝の手紙 #15

一年の締めくくりに「ありがとう」の気持ちを綴るクリスマスカードや新年に向けた年賀状。感謝の気持ちを感じることで健康と幸福度が上がることは、科学研究で明かされています。また感謝の心を表すことでさらに関係性が強くなるということも。50歳の誕生日から毎週1通、合計50通の「感謝の手紙」を贈るという計画をスタートした作家は、認知症を患う母親を最初の受取人にします。彼女の心温まるストーリーとともに感謝の手紙の書き方、届け方をあなたへの「感謝の手紙」としてお伝えします。
取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani

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クリスマスカードや年賀状書きのラストスパートを迎えられているころでしょうか。一年の締めくくりに「ありがとう」の気持ちを込めて送るこの手紙にも、あなたを幸せにするカギがあります。

幸福学のエキスパート、ソニア・リュボミアスキー博士によると、私たちの幸せを決める要因として、幸せを感じられる遺伝的な力である遺伝要因は5割。どんな仕事をしているか、パートナーがいるかいないか、美人かそうでないかという環境要因は1割。それに対して「どう行動するか」という行動要因は4割を占めるといいます。

また、感謝の気持ちを感じることは、健康と幸福度を高めると考えられています。そしてその感謝の気持ちを表すことは、さらにお互いの関係性を強くします(1)。けれども感謝を表すことはどこか形式的で、表面的に終わりがちでもあります。そこでこのエクササイズで「書く」力の助けを借りて、相手に対する感謝の心をより深く感じる行動をとってみましょう。

受け取り手には、とても感謝しているけれど、今まで特に深い感謝を表したことがない人を思い出してみてください。それは親かもしれないし、親戚やパートナー、子ども、友達、先生、または同僚や隣人かもしれません。しばらく連絡を取っていないけれど、お世話になった恩師などもいいでしょう。

そして「感謝の手紙」を書くときには、以下のステップを踏んでください。

■ 幸せになる「感謝の手紙」の書き方。

・相手に直接話しかけているように書く。(例:親愛なる◯◯さんへ)
・文章の完璧さを求めて不安にならない。大切なのは感謝の心を伝えること。
・相手があなたにしてくれたこと、なぜあなたが感謝をしているか、どのようにその行為があなたの人生に影響を与えたのかを具体的に説明する。
・あなたの現在の暮らしぶり、そして相手が心を砕いてくれたことをあなたが今どのようによく思い出すのかを説明する。

なかなかハードルが高いけれど、さらに力強い効果があるのはその手紙を直接相手に届けることです。以下のステップで行います。

■ 心がぐっと近づく「感謝の手紙」の届け方。

・「特別なことをシェアしたいので会いたい」とアポを取る。この時点ではそれがなんなのかを明かさない。
・相手に会ったときに感謝していること、そしてそれを表す手紙を読みたいと伝える。また読み終わるまでは遮らないようにお願いする。
・手紙を読んでいるあいだは、自分と相手のリアクションに注意する。
・手紙を読んだ後に、お互いの気持ちを語り合う。
・去るときに、手紙を渡すことを忘れないこと。

作家のナンシー・デイヴィス・コーは50歳の誕生日に「サンキュー計画」を立てました(2)。それは毎週1通、計50通のこの「感謝の手紙」を書くというものです。現在の彼女に至る道程で、ナンシーを助け、形作り、インスパイアしてきた人々がその手紙の受取人です。そして50通の手紙は、『サンキュー計画(The Thank You Project)』という本になりました。

最初の手紙の受取人は、ナンシーのお母さんでした。彼女は計画の5年前に認知症と診断され、月を重ねるごとにものがわからなくなっていました。そこでナンシーは「善は急げ」と彼女に1通目の感謝の手紙を書きます。そこには「感謝の手紙」の書き方に習って、二人のエピソードが具体的に書かれています。以下は手紙の内容をかいつまんだものです。

■ ナンシーが贈る、母への「ありがとう」の気持ち。

ナンシーが22歳のとき、彼女は外国であるドイツで仕事を見つけます。その知らせを母親に電話で知らせたとき、彼女は「素晴らしい! ちょっと待ってね。かけ直すから」と言って一度電話が切られます。そんなふうに途中で電話が中断されることは初めてで、今までありませんでした。遠い外国で就職して離れて暮らすことになる娘。母親として温かく祝福するために、「寂しい」「心配」などといった複雑な気持ちをしっかりと受け止め、娘の門出を一緒に祝う力を総動員する必要があったのでしょう。若く経験が浅い22歳のナンシーでも、それは理解できました。そして彼女の母親は約束どおり数分後にちゃんと電話をかけてきて、一緒に喜んでくれました。

ナンシーは感謝の手紙を以下のように結びます。

今私は50歳。親になって自分の子どもが遠く離れた大学へ行くことに少々ビビっています。母親として、あなたはどうやってこういったことをやりこなしてきたんでしょう。とても優雅に。

私も実際に感謝の手紙を書いてみると、受け取った相手の顔を思い浮かべて温かな気持ちになれました。またソニア博士によると感謝の気持ちを綴ることで、自分は人の優しさや思いやり、寛容さを受け取ることができる、愛されるに価する存在なのだということが再認識でき、幸せになれるのだそうです。

年末年始、帰省される方もいらっしゃるでしょう。この機会にあなたとあなたの大切な人を幸せにする、感謝の手紙を書いて届けてみてはいかがでしょうか。一緒に暮らすパートナーに贈ってみてもいいでしょう。私もちょっと冒険ですが、今まで心配をかけてきた親にやってみたいと思っています。

そしてこれは、私からあなたへの「感謝の手紙」です。いつも読んでくださって、本当にありがとう。

■ 土居彩

編集者、翻訳者。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にて、畏怖の念について研究するダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、13世紀の道元禅師を初めて英訳し欧米に伝えた禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)を翻訳中。恩人たちに支えられ続けながら、会社を辞めて渡米奮闘したドタバタな当時の様子を綴ったananweb連載『会社を辞めて、こうなった』も。

参考
(1) Seligman, M. E., Steen, T. A., Park, N., & Peterson, C. (2005). Positive psychology progress: empirical validation of interventions. American Psychologist, 60(5), 410.
(2)Thank You Project

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