これは音がいい……と静かに興奮、米国ブランドKlipschの「Nashville」を聴く
ASCII.jp / 2024年8月13日 18時0分
米Klipsch(クリプシュ)のBluetoothスピーカー「Nashville」の先行販売が、クラウドファンディングサービス「GREEN FUNDING」で始まった。募集期間は9月30日まで。製品は10月から順次出荷する。
通常3万800円のところ、先行販売価格は2万9260円(5%オフ)。先着順とはなるが、Super Early Birdとして単体2万6800円(13%オフ)、2台セット5万2360円(15%オフ)での支援もできる。
約80年の伝統を持ち、全米トップシェアを誇るブランド
オーディオファンであれば、ご存知の方も多いだろう。クリプシュは創業1946年と伝統のある米国のスピーカーブランドであり、本国でのシェアも非常に高い。ホームオーディオやホームシアターを楽しみたい人に多くのスピーカーを提供しているほか、劇場での採用例も豊富だ。
技術に注力しているブランドで、自社設計・自社生産にもこだわっている。米国内に自社工場を持つため、製品の設計から製造までを一貫して手がけられる。こういった面でもレアなブランドのひとつと言えそうだ。
Nashvilleは、そんなクリプシュの精神が詰まったBluetoothスピーカーだ。小型で購入しやすい価格の機種であり、製品は米国設計/中国生産とのことだが、その音に対する姿勢は変わらない。クリプシュだから提供できる音の世界に、手軽に入っていけるスピーカーとなっている。
もちろんクリプシュならではの技術を採用し、厳格な音響評価テストを経て開発されており、聞くとそのサウンドは素晴らしい。というよりも、この筐体からここまで充実したサウンドが出ることに驚く人の方が多いのではないだろうか?
日本での発売は未定だが、クリプシュは「Music City Series」として、Nashville以外にも「Austin」や「Detroit」など米国の都市名にちなんだBluetoothスピーカーを展開している。「ナッシュビル」はカントリーミュージックの聖地として知られるアメリカ中部の音楽都市だ。クリプシュ発祥の地であるアーカンソー州ホープにも近い。
こうしたネーミングからもクリプシュがアメリカ発のブランドであり、そのDNAをが反映したサウンドを展開することへの自負の強さが伝わってくる気がする。
また、Music City Seriesシリーズの製品は国内でも年内の発売を目指して輸入代理店のKARAFULLが取り扱っていく計画だそうだ。
360度に音を広られる対向配置のドライバー
Nashvilleは約57mm径(2.25インチ径)のデュアルプレーンドライバーを本体に搭載。低音を増強するために約96×51mm(3.78×2インチ)のパッシブラジエーターも2機搭載している。
デュアルという言葉が示すように、ユニットは2台1組で使用。前方と後方に向けた対向配置にしている。音はスピーカーを中心とした前後=360度方向に広がっていく。ドライバー開発に際しては、サイズの制約を超えた重低音再生はもちろんだが、中高音を精密に再現できる点にも注意を払ったという。
ワイヤレス接続はBluetooth 5.3に対応。コーデックの詳細は記載されていないものの、iPhoneなどとAACで接続できるようだ。半径12mと接続範囲も十分で、IP67の防水防塵仕様(1mの深さで30分の耐水)となっている。
連続再生時間は24時間(充電時間は約90分)で、余裕のある長さと言える。USB Type-C端子は充電だけでなく給電にも使え、本体バッテリーからスマートフォンへのおすそわけ充電もできる。
また、複数台のNashvilleを連携させて使用することも可能。Broadcastモードとして10台以上のKlipschスピーカーを連動して再生できるほか、2台セットでステレオペアも組める。本体にはマイクを内蔵しており、着信時は接続したスマートフォンを介して音声通話も可能だ。本体サイズは幅178×奥行き78×高さ81mmで、重量は約970gだ。
クラウドファンディング期間中は、販売元であるKARAFULLの試聴室(東京・浅草橋)や、SHIBUYA TSUTAYA、蔦屋家電 二子玉川などで展示/デモを体験できる。筆者もNashvilleを取り扱っているKARAFULLのオフィスを訪問し、実機を体験してきた。
デモを体験できる場所や期間などの詳細はGREEN FUNDINGのページなどを参照してほしい。
デザインはギターアンプのイメージ?
まずは外観から。前面と背面にはパンチングメタルを用いたグリルがあり、その上にKlipschの文字が筆記体であしらわれている。このロゴは創業者ポール・W・クリプシュ氏の自筆文字をモチーフにしたものだという。色といい、形といい、狙っているのはギターアンプだろうか? なるほど、見た目からもロックの再生に合いそうな雰囲気を漂わせている。
デザインは全体に重厚感を感じさせるもの。ちなみに、黒地にブロンズという色の組み合わせは、ほかのクリプシュ製品にも共通したデザインテイストだ。天面には斜めの柄が入っており、カーボンファイバーを想起させる。まとめると、コンパクトでどこでも置けるサイズであると同時に、高い質感、所有感を感じさせる本体だ。
音いいじゃないですかー
デモでは最初に単体、次にステレオペア(スピーカーの距離が近いセッティングと遠いセッティング)で再生。ソースはスマホとレコードが選択された。本体にはアナログ入力がないので、レコードの音もBluetooth経由だった。
その音質は素直に「素晴らしい」と称賛できるもの。まず印象的なのは低域の力強さと音の広がり。デモのスペースはかなり広く、相応の音量を出さないと迫力を感じられないが、その広さに負けない力強さがあり、部屋を音楽で満たしていた。
発祥の地域が関係しているのか、得意なのはカントリーミュージックやブルースなのだという。もちろんロックもいい。いずれも実にアメリカらしいジャンルである。
音の傾向としては、ピラミッドバランス的な太く腰のすわった低域、無音からスパンと気持ちよく立ち上がる打楽器、音階がとにかく明確なベース音、ピンと弾くギターの弦の明瞭さ、付帯音が少なく爽快感のあるボーカル……などが特徴的だ。
一言でまとめるなら「とにかく聞いていて気持ちがいい音」。爽快かつおおらかに音楽の魅力を引き出してくれる。
高域を欲張らないウォームなトーンバランスだが、低域から高域まで全ての帯域で抜け感はよい。音は澄み渡った空のように晴れやかで、人の声などの表現はカラッとしている。響きに堅苦しさがなく、よくほぐれて、軽快かつ天真爛漫だ。前後の空間に音が大きく広がっていくので、大型スピーカーで再生した際に感じるような、音に包み込まれるような感覚も味わえる。
このサウンドは、クリプシュの単品スピーカーにも通じるテイストでもある。ユニット構成などはまったく異なるのだが、まっすぐ飛んでくるホーンの音、高効率で細かな音も豊かに表現する表現力などを思い起こさせ、どこかで通じている感じがする。少なくとも、価格やサイズは違っても共通の思想の上に作られた製品なのだと実感できた。
充実した低音と、反応/抜けがいい中音域
カーペンターズ、MR. BIG、石川さゆりなど、用意された何曲かのデモを聞いてみた。音楽のニュアンスがよく伝わる理由は、低域の音階感がよくつかめ、打楽器やベースといったリズム帯の立ち上がりが速く、明瞭に聞こえるためだとわかった。低域がこもったり、声など中域にかぶったりすることもほぼないので、音抜けも非常に良い。
高解像度な音というと、高域がキツめなサウンドを思い浮かべる人が多いかもしれないが、そこは欲張らず刺激なくまとめる一方で、歌い手の呼吸までとらえるような鋭敏な音の変化、ニュアンスの変化に追従できる。
特に素晴らしいと感じたのは、複数の楽器がある編成で、個々の音の音色がきちんと描き分けられ、かつ、きちんと分離する点だ。例えば、「イエスタディ・ワンス・モア」を歌うカレン・カーペンターの声は付帯音が少なくカラッとした印象。低めで少しハスキーな声の質感が感じられ、解像感の高さがある。その一方で、立ち上がりの速いドラムス、広がりのあるストリングスの音なども印象的。一体型のスピーカーであるにもかかわらず、これらの音が混濁せず、明瞭に再現されるのがいい。
ステレオペアにすると、左右の広がりが出るのはもちろんだが、前後の奥行きがより深くなる印象がある。デモ環境ではスピーカーの数メートル後ろにある壁にカレンのボーカルが定位するように聞こえた。一方、ストリングスやドラムスなどの伴奏はその前方に展開される。少し面白い配置だが、ボーカルのレイヤー、伴奏のレイヤーがくっきりと分かれ、その対比が楽しめるのが印象的だ。
邦楽やブルース系などほかにも様々なジャンルの音を体験できた。トーンバランスの関係か、相性がいいのは女性ボーカルよりも男性ボーカルで、アコースティック楽器を取り入れたメリハリ感のあるサウンドに向いているというのが筆者の感想だ。
とはいえ、竹内まりやの「告白」のようなシティーポップ系の楽曲も、ベースラインのビート感、キラキラしたシンセの音、硬質で空間にスパンと立ち上がるドラムスなどが印象的で心地よかった。
また、360度スピーカーは前方にスイートスポットができる一般的なスピーカーとは異なり、発生した音がそこから周囲に広がり音声を作る。ある意味、楽器の鳴り方にも近い方式だ。石原裕次郎の「夜霧よ今夜も有難う」など、サックスは左、ストリングスは右、ボーカルは中央のように楽器を鳴らす位置がはっきりと分かれた古いタイプのステレオ音源などと思いのほか相性がいい(距離を離して置くと、それぞれの楽器がその位置から鳴っているように聞こえる)。
全体のテイストとしてはJBLなど、伝統的なアメリカのスピーカーのサウンドともシンクロする。アコースティックギターなどを絡めたロックなどとは相性抜群だが、低域が太く音場が広いので、オーケストラや映画のサウンドトラックを、スケール感あふれるサウンドで楽しみたい人にもいい選択だろう。
試しにYMOの「テクノポリス」を聞いてみたが、各音が非常に明瞭。特にベースラインの再現が非常によく、量感もある。キックの音などがしっかりとして、グルーブ感がよく出ていた。S/N感(無音と有音の対比)がいいためか、ボコーダー的な音も空間に浮き上がる。
抜け感もよく、音場の広がり、ストリング系の音色の滑らかさがあって、柔らかい音と、硬い音の対比がしっかり出る。低域の量感があり、かつ音程やビート感の再現が優れている点はダンス系の音楽の再生にもプラスに働くだろう。
最近ではBluetooth接続するソース機は広がり、スマホやパソコンだけでなく、アナログレコードプレーヤーやテレビなども広く活用されている。こうしたソースの再生先として、Nashvilleを選択してみるのも面白い。コンパクトで広いスペースに負けない広がりあるサウンドを再現できるスピーカーだと実感できるはずだ。
このようにNashvilleのサウンドクオリティーは非常に高く、迫力と心地よさの両立が楽しめるスピーカーだった。微細な音も非常によく再現(分離)するが、眉間にシワを寄せて細かい音の違いに神経を尖らせるのではなく、もっとおおらかに構えて、いい音楽を演奏された空間の雰囲気を感じつつ聞く使い方に合っていると言えそうだ。
興味を持った人はデモを体験したり、製品を手にしたりして、クリプシュらしい音の世界を体験してほしいものだ。
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