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通信品質の低下が指摘されるドコモ、大規模イベントで驚きの対策

ASCII.jp / 2024年8月29日 7時30分

2日間で5万人を集める四国最大のロックフェス「MONSTER baSH」

 NTTドコモといえば、ここ数年、ネットワーク品質の低下が指摘されている。都心部を中心に通信速度が遅い、データが流れないなどの声が相次いでいる。

 夏であれば花火大会やコミケなど人がたくさん集まる場所もユーザーが通信品質の低下を実感するところだ。 

 そんな中、NTTドコモはこの夏も地道に大規模イベントにおけるネットワーク対策を実施している。8月11〜12日に開催された「コミックマーケット104」では昨年よりも体制を強化したようで、ユーザーから改善を喜ぶ声が上がっていたようだ。

 では実際、NTTドコモではイベント時にどんな対策をしているのか。

 8月24〜25日に香川県で開催された四国最大ロックフェス「MONSTER baSH 2024」の現場を取材した。

5万人規模のロックフェス「モンバス」移動基地局車を投入

 香川県・国営讃岐まんのう公園で開催される「MONSTER baSH(愛称モンバス)」は2000年より開催され、今年で25回目を迎えた。1日2万5000人、2日間で5万人が参加する大規模なロックフェスだ。

 公園は全体的に起伏があり、大きな樹木が生えているなど、電波をまんべんなく吹くには若干、難易度の高い場所と言える。

 今回、NTTドコモでは移動基地局車を2台投入した。まず、1台目はステージを前に客席あたりを中心的にカバーするように配置された。4Gのみのアンテナだが、マルチビームに対応しているのが最大の特徴だ。

ステージ前の観客エリアをカバーする移動基地局車。マルチビームアンテナにより安定した通信が期待できる

 通常、基地局で利用されているアンテナは3や6セクタとなっており、1セクタあたり60〜120度という広い範囲でカバーしている。今回、投入されたマルチビームアンテナは1セクタあたり10〜15度ほどと狭く、電波を発射するようになっている。このため、1セクタあたりのユーザーを少なくしてトラフィックを分散することで安定した通信環境を提供できるという。

 ちなみに移動基地局車が使っている周波数帯は2GHz、1.5GHz、800MHzの3つだが、マルチビームアンテナとなっているのは2GHzの5セクタと1.5GHzの3セクタとなっている。

 このシステムはすでに四国内で開催された数十万人が参加するような花火大会でも効果を発揮しているとのこと(取材日がモンバス開催前日のため、当時の効果は確認できず)。

昨年は1台のみだったが、今年は2台の移動基地局車を投入したことで、広いエリアをカバーした

物販/飲食エリアをカバーできる位置にも移動基地局車を配置

 もう1台の移動基地局車は主に物販エリアと飲食エリアをカバーできる位置に配置された。こちらには5Gのアンテナが設置され、主に物販エリアを中心に電波が吹かれていた。

物販エリアと飲食エリアを中心に電波をふく移動基地局車。上のほうに4Gアンテナ、下には5Gアンテナが設置された

 このようなフェスでは、ここ数年、キャッシュレス化が進んでいる。店舗、観客それぞれがスマホや決済端末をネットにつないで決済を行うため、安定的で反応のいいネット環境が不可欠なのだ。そこで、NTTドコモでは物販エリアに向けては5Gの電波を吹くことで、快適なキャッシュレス決済環境の提供に努めていた。ちなみに、モンバスにはNTTドコモも協賛しており、物販エリアにはd払い専用レーンが設置されていた。

「d払い」専用レーンが設けられている。キャッシュレス決済を円滑にするためにも安定した通信が欠かせない

 通常、このような移動基地局車を出動させる場合、「どこから回線を引っ張ってくるか」が重要となっている。いきなり移動基地局車を置いても、移動基地局車自体が回線につながっていなければ、電波を飛ばしたところで、スマホもネットにはつながらない。

 災害時など、周辺に全く通信環境がない場合には、移動基地局車に衛星のアンテナを設置し、衛星と通信を行うことで通信を実現させる。この場合、空が見えていれば、どこでもエリア化できるメリットがある反面、通信速度が遅くなるという弱点がある。

 また、周辺に既存の基地局があるような場所であれば、既存の基地局から移動基地局車に電波を飛ばし、その電波を中継する形で移動基地局車の周辺をエリア化するというやり方もある。

 この場合は、周辺に既存基地局があり、見通しのいいところに移動基地局車を配置できるかがカギとなる。

公園の地下配管に来ている光回線を利用

 今回、NTTドコモが導入していたのが「光回線」だった。実は公園内の地下配管に光回線が来ており、そこから光ファイバーを会場にはわせることで、2台の移動基地局車のエリア対策を実現していた。

 正直言って、香川県の市内から1時間の距離にある大自然豊かな国立公園に光回線が届いていることに、個人的に本当に驚きを隠すことができなかった。

 おそらく、この光回線がいきいきと活躍するのは年に1回、このモンバスがあるときだけだろう。普段は静かな国立公園であるが、1年に1回、5万人が集まるフェスが開催されるということで、きちんと光回線が整備されているあたり、NTTグループの凄さを感じずにはいられなかった。

 関係者によれば公園やイベント主催者などとの長年の信頼関係もあって実現できたようだが、光回線をバックボーンに使えるという点において、イベント時のエリア対策としては相当、有利な条件が揃っているといえそうだ。

 昨今、NTT法の見直し議論が進んでいる中、「全国に敷設された光回線」についても議題に上がることがある。まさにこうした光回線はすべての国民が快適にインターネットを使えるよう積極的に活用されるべきだと感じた。

 

筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)

 スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。

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