スマホがどこでも買える今、ソフトバンクの“英断”は理にかなっている
ASCII.jp / 2024年9月5日 7時0分
ソフトバンクのAndroidスマートフォンが単体購入できなくなっている。
オンラインショップでは「機種のみ購入」というリンクにアクセスすると、選択肢はiPhoneとiPadのみであり、Androidスマートフォンはソフトバンクの回線契約がないと購入できなくなっている。
ソフトバンクによれば2024年8月1日からAndroidスマートフォンを単体購入の対象から外しているという。オンラインショップだけでなく、リアルのソフトバンクショップでも同様の対応となっているようだ。
ソフトバンク広報からは「市場環境や販売戦略上の理由から、端末単体購入ができる対象機種をiPhoneとiPadにしています」という回答を得た。
あえて「単体販売をやめる」という逆転ホームラン
そもそも端末の単体販売は、総務省が通信料金値下げを実現しようと「完全分離モデル」を強要したところから始まる。
それまでは、端末と通信料金プランがセットとなっており、端末を安価に割引して販売する一方、通信料金プランを高めにする傾向があった。通信料金プランを値下げさせるため、端末販売と通信料金プランを分離することで、端末割引をしにくくした、というわけだ。
ただ、キャリアとしては、端末の単体販売でも多額の割引を設けることで、ユーザーに端末購入しやすくするような「白ロム割」を始めた。それまで白ロム割には規制が入っていなかったが、結果、1円端末が横行するようになったため、総務省では令和5年12月に「セット購入時の白ロム割も規制の対象」にガイドラインを改定したのだった。
ソフトバンクとしては、端末を安価で売るために、単体販売も用意し、白ロム割を適用するという苦肉の策を続けていたが、この単体販売に対する「白ロム割」も規制の対象となったことで、あえて「単体販売を辞める」という逆転ホームランを打ったことになる。
キャリアにとってみれば端末の単体一括販売ではあまり旨みはなく、分割払いでユーザーを囲い込み、補償サービスを契約してもらうことで利益を稼ぐ構図だ。であれば、端末と通信料金プランのセット割引を強化する方向に舵取りをするというが当然と言えば当然だ。
キャリアにとってはセット販売のほうが安定的な経営につながる
キャリアとすれば、ハイエンドの端末をできるだけ割引して、多くのユーザーに購入して使ってもらいたいというのが本心だ。
最新の5G通信に対応し、画面が大きく、処理能力の高いスマートフォンをユーザーが所有すれば、サクサクとネットやゲームを楽しめるので、結果、ARPUが上がり、通信料金収入が上がることになる。
端末単体で購入されるのではなく、通信プランをセットで契約し、端末を分割で支払ってくれれば、ユーザーはそれだけ長期間、同じキャリアを使い続けてくれるようにもなる。キャリアにとってみれば安定的な経営につなげられるだろう。
また単体販売ではなく、セット販売であれば「このスマホを使いたいから、ソフトバンクを契約したい」という新規契約者の獲得にもなる。
特にソフトバンクではライカとのコラボモデル「LEITZ PHONEシリーズ」など、独自のラインナップを強化してきた。また、オープンマーケットに売られているスマートフォンでも「MNOではソフトバンク独占販売」といった施策を展開するなど端末の魅力を顧客獲得につなげるよう尽力してきたキャリアとも言える。
他キャリアも追随してくるのでは
かつて、スマートフォンの多くは「キャリアでのセット販売しか買えない」という状況であったが、いまではアップルを筆頭にサムスン、ソニー、シャープ、Xiaomi、OPPO、モトローラ、FCNTなど、どのメーカーのスマホもネット通販や家電量販店など、オープンマーケットで購入できるようになった。
「オープンマーケットで欲しいスマホを自由に購入し、キャリアやMVNOを自由に選び、安価な通信料金で使う」という使い方もできれば、「キャリアで安価な割引で欲しいスマートフォンを購入しつつ、そのキャリアの使い放題プランで契約する」という使い方も可能だ。
ユーザーからすれば、幅広い選択肢から自分に合った買い方、使い方が選べるようになっているだけに、もはや総務省や有識者がとやかく言う出番はないだろう。
総務省や有識者は「セット割引をする日本は特殊な市場だ」みたいな論調を醸し出すが、ドイツのT-Mobileでは、キャリアがオリジナルの安価な5Gスマートフォンを企画、販売することで、4Gから5Gへ乗り換えを促すといったことをしている。
日本でも、5Gシフトをさらに加速させるには、キャリアによる割引によって、5Gスマートフォンをさらに普及させることが不可欠なのだ。
その点において、ソフトバンクはセット販売でしかAndroidスマートフォンを売らないという英断は理にかなっているし、早晩、他キャリアも追随してくるのではないだろうか。
筆者紹介――石川 温(いしかわ つつむ)
スマホ/ケータイジャーナリスト。「日経TRENDY」の編集記者を経て、2003年にジャーナリストとして独立。ケータイ業界の動向を報じる記事を雑誌、ウェブなどに発表。『仕事の能率を上げる最強最速のスマホ&パソコン活用術』(朝日新聞)『未来IT図解 これからの5Gビジネス』(MdN)など、著書多数。
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