ヤマハの鋳造技術が最新鋭マシンでますます進化! フレームやホイールの薄肉化が止まらない!!
バイクのニュース / 2022年12月23日 11時0分
ヤマハが1978年に「XS750スペシャル」などのSP仕様を発売して以来、バイクの足まわりに当たり前のように採用されているキャストホイール。キモとなるのは鋳造技術ですが、パイオニアとも言えるヤマハ発動機本社工場に潜入取材し、鋳造のプロフェッショナルに直撃インタビューしました。
■キャストホイール生みの親、だからこそ負けられない!
いまでは当たり前になったバイクのキャストホイールですが、これが登場する70年代後半までは、リムからホイールの中心にかけて何本もの細いワイヤーを張り巡らし、柔軟に衝撃を吸収するスポークホイールが主流でした。
ヤマハのスポーツヘリテージモデル「XSR900」(2022年型)には、軽量CFアルミダイキャスト製の新フレーム、ボックス構造のアルミリアアーム、そして鋳造でありながら鍛造に匹敵する強度と靭性を実現した「SPINFORGED WHEEL」を採用している
国内向けのバイクに、より剛性の高いキャストホイールを初めて標準装備したのがヤマハです。それまで認可されていなかったバイクのキャストホイールが、1978年4月1日付の「二輪自動車用軽合金ホイール技術基準(JWL)」によって日本でも認められ、先陣を切ったヤマハは「XS750スペシャル」「GX400/GX250」「RD50」の4機種にキャストホイールを履く「SP仕様」を設定します。
硬くて丈夫なキャストホイールは、アルミニウムやマグネシウムなどの合金をキャスティング(鋳造)により製造されますが、ヤマハは1978年の時点で、海外向け「RD400」(1975年10月発売)以来、すでに30万台のキャストホイール装着の実績があり、先行して開発を進めていました。
ホイールはハンドリングに多大な影響を及ぼす重要なパーツ。ヤマハは社外で製作するのではなく、独自の設計思想と鋳造技術で、卓越したステアリングフィールを生み出すホイールを自社開発し続けているのです。
■「YA-1」以来、鋳造技術を追求
そんななか着実に進化し、業界を牽引するまでに至っているのがヤマハの「鋳造技術」です。金属を熱で溶かし、砂や粘土、鉄などで作った鋳型の中に流し込み、冷やして固める鋳造は、様々な形を自由に作り出せる金属加工法で、その歴史は古く、紀元前4000年頃にメソポタミア地方で始まったとされています。
ヤマハ発動機の製品第1号「YA-1」(1955年)は、そのスリムな車体とカラーリングで「赤トンボ」の愛称で呼ばれた
銅合金(青銅)に始まり、19世紀にアルミニウムやマグネシウムなどの軽合金が発明されると、クルマや飛行機などに軽合金鋳物が用いられ、その加工技術は人類にとってなくてはならないものとなりました。
鋳造への探求と強いこだわりは、ヤマハ発動機の黎明期から始まっています。約200社ものバイクメーカーがひしめき合っていた1950年代半ば、創業者の川上源一社長が「世界に通用するバイクを造れば、十分に太刀打ちできる」と、第1号機「YAMAHA125 YA-1」を発売しました。
砂型鋳造によって造られた試作エンジン最初のシリンダーは「どびん」とまで揶揄され、外観部品も兼ね備えるバイク用にしては美しさに欠ける鉄塊でしたが、改良を重ねて高精度な鋳造に成功しています。
■「2000GT」で飛躍的進化
ヤマハは1964年末、トヨタ「2000GT」の開発協力を開始し、2リッター直列6気筒DOHCエンジンに最良のアルミ素材「AC4C」を用いるなど、ますます技術力を向上させました。
1981年には日本楽器(現在のヤマハ株式会社)に管理されていた2輪の鋳造部門を、ヤマハ発動機へ完全に移管。難易度の高い課題を設計者と膝を突き合わせて話し合い、精巧な鋳造部品を生み出し続けています。
■3つの鋳造方式とは
現在、鋳造にはさまざまな方式があり、主な3つを乾雄太さん(ヤマハ発動機 生産本部 製造技術統括部)に教えていただきました。
ヤマハ発動機の鋳造に対するこだわりや業界最先端の鋳造技術について、開発・製造に関わる技術者のみなさんから説明を聞く筆者(青木タカオ)
まず、もっともオーソドックスなのが「重力鋳造(グラビティ)」と呼ばれるもので、その名の通り重力のままに溶かした合金を型に流し込む方法です。
エアによる加圧で、より速く金型に溶けた金属を押し込む「低圧鋳造(LP鋳造)」は、鋳巣(鋳物内部の空洞)がより少なく薄肉の複雑形状も作れます。いずれも中子(なかご)を使って中空形状にすることが可能です。
最新鋭のダイキャストマシンにより、大型で超薄肉のアルミ鋳造部品が瞬く間に鋳上がっていく
そして最新式となるのが「ダイキャスト」で、金型の中に溶解金属をピストンで打ち込む方式です。その速度は新幹線と同じ、時間にすると約0.05秒で、人間がまばたきする瞬間に金型に金属を充填してしまうスピーディさ。高圧での高速噴射により、より精密で薄肉、複雑構造へも対応可能となっています。
■自社開発の「CFアルミダイキャスト」技術
ヤマハは2003年型「YZF-R6」のリアアームとリアフレームに「CFアルミダイキャスト」を初採用。従来のダイキャストでは、注入条件の限界から鋳物(いもの)の中に空気や酸化物を巻込み気泡が生じ、肉厚や曲面形状の制限がありましたが、金型の真空度を向上させ、空気抵抗を低減させるなどし、薄肉かつ大物のアルミダイキャスト製品の量産を実現させました。
鋳造ラインは、GKデザイングループの「GK Kyoto」がデザインを担当し、製造の効率化のみならず「魅せて・誇れる」ダイキャストラインを完成させた
進化は留まることを知らず、本社工場に2基導入され、稼働している最新鋭のダイキャストマシン「CF+1」と「CF+2」による「新ダイキャストライン」では、さらなる進化を果たしています。工場を見学しつつ、鋳造チームの担当者にお話を聞くことができました。
ポイントは「真空」「射出力」「熱」の3つだと、森部真太さん(ヤマハ発動機 生産技術本部 生産技術部)が教えてくれます。
まず「真空」については、ピストンで溶湯を射込むとき、いかに短時間で真空に近づけるかが重要となりますが、金型の工夫や制御技術で高い真空度を実現しました。そして非常に細い管から溶湯が入っていくので、短時間で充填するために速さだけでなく、力と加速力を兼ね備える「射出力」を持たせ、真空状態を液体のうちに打ち切れる技術を確立しています。さらに、金型は高温になるので、水を巡らせてバランスよく熱マネジメントをしています。
■進化を続ける鋳造技術
こうした鋳造技術の進化によって、新型「MT-09」では車両重量を従来モデル比4kg軽量化。約3kgが鋳造部品だけで達成しました。MT-09では3.5mmから1.7mmに薄肉化したフレームと、スチール製からCFダイキャスト製としたリアフレームを合わせ、1.9kgの軽量化を達成しています。クランクケースも3.0mmから2.5mmへ(-0.35kg)、ホイールは3.0mmから2.0mm(-0.7kg)とすることで軽量化を果たしています。
「XSR900」の軽量CFアルミダイキャスト製フレーム(裏面)
鋳造でありながら、鍛造に匹敵する強度と靭性を備えるヤマハ独自の「SPINFORGED WHEEL(スピンフォージド・ホイール)」技術による軽量ホイールは、リアの慣性モーメントは11%低減。軽快かつ安定感のある走りを実現しました。
ろくろの上で回るホイールに圧延機を押し付け、組織を押し潰します。回転させつつ、鍛えられたリムをさらに薄く延ばす回転塑性加工は鍛造にも近いイメージで、最終的にはわずか2mmの肉厚となります。
最新鋭のダイキャストマシンが加わり、ヤマハの鋳造技術はさらなる飛躍を果たし、フレームをはじめとするアルミ部品の軽量化や美しさなどで、今後もさまざまなアドバンテージをもたらしていくに違いありません。
ヤマハ発動機の鋳造技術について、詳しく説明下さった皆さん。左から、生産本部 末永健太郎さん(鋳造生産準備)、生産本部 望月祐樹さん(鋳造 匠)、技術・研究本部 前田智仁さん(フレーム設計)、生産本部 大嶋崇之さん(鋳造生産準備)、生産本部 乾雄太さん(鋳造生産準備)、生産技術本部 森部真太(鋳造設備開発)
今回、工場を見学させていただき、これから登場してくるニューモデルに使われる鋳造パーツがどんなものか、見て触れるのが今からもう楽しみでしかありません。
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