ル・マン24時間と鈴鹿8耐はどっちが過酷? 現地で感じた時間だけでは割り切れないEWCの魅力とは
バイクのニュース / 2023年5月9日 13時0分
2023年4月15日から4月16日に、フランスにあるブガッティ・サーキットで開催された2023FIM世界耐久ロードレース選手権(EWC)の開幕戦、ル・マン24時間耐久ロードレース。今回は、24時間という過酷なレースについてレポートします。
■ル・マン24時間は8耐と同じEWCのシリーズ戦
FIM世界耐久ロードレース選手権(EWC)2023が、4月15日から4月16日にフランスのル・マンにあるブガッティ・サーキットで開幕。現地で実際に見た、CIRCUIT BUGATTI 24HEURES MOTOS(ル・マン24時間耐久ロードレース)をレポートします。
世界耐久ロードレース選手権 開幕戦ル・マン24時間耐久ロードレースで優勝したF.C.C. TSR Honda France
EWCのル・マン24時間耐久レースが行われたのは、「ブガッティ・サーキット」。全長4.185km、5つの左コーナーと9つの右コーナーの合計14コーナーでレイアウトされ、典型的なストップ&ゴータイプのコースとしても知られるサーキットです。
ちなみに、今回現地取材をおこなったル・マン24時間耐久は、鈴鹿8耐が組み込まれているEWC(世界耐久ロードレース選手権)の開幕戦。あまりバイクレースに詳しくないという人でも、鈴鹿8耐の名前は聞いたことがあるという人も多い、人気のカテゴリです。
鈴鹿8耐は、2人から3人のライダーが交代で8時間を走り切る耐久レースなのですが、ル・マンのレース時間は、その3倍。3人(プラスでリザーブライダー1人)のライダーが交代で、24時間を走ります。
■8耐の3倍過酷という訳ではない24時間レース
鈴鹿8耐に参戦したことがある、もしくは現地観戦したことがあるという人なら、その3倍の24時間となると過酷さは想像を絶すると感じるかもしれません。
しかし実際に現地で体感したル・マン24時間耐久は、意外にも8耐をそのまま3倍したというほど過酷ではなく、開催する国や地域の環境によって「過酷さ」の方向性がキチンと考えられているんだなというのが、率直な感想でした。
2022年の鈴鹿8耐 スタートの様子
その一番の違いは、気候とコースレイアウト。
鈴鹿8耐が開催されるのは7月の終わりから8月の始めと真夏で、特に日本の夏は湿気が多く、ただ歩いているだけでも息苦しい気候。そんな中を約1時間交代で、しかもレーシングスピードで走り続けるというのは、並大抵の体力や集中力ではできません。
ライダーはツナギの背中に水を補給する為の、キャメルバックと呼ばれるパックを搭載しながら走りますが、それでも脱水症状ギリギリの状態で自身のスティントを走り切ります。
また、鈴鹿サーキットのコースレイアウトも中間部分の立体交差を挟んで右回りと左回りが入れ替わる、世界的にも珍しい8の字形のレイアウトを採用。土地の高低差や低速コーナーと高速コーナーのバランスが上手く組み合わせられているなど、難易度が高いコースとなっている為、フィジカル面でも大きな負担がかかります。
EWC 開幕戦ル・マン24時間耐久ロードレースでブガッティ・サーキットを走る大久保光選手
一方のブガッティ・サーキットはブライトコーナーが多くテクニカルな面は多々あるものの、基本的には低速コーナーで構成された、比較的走りやすいレイアウトになっています。
また、今回ル・マン24時間耐久が行われた4月上旬のル・マン地方の気候も、昼間と朝晩の気温差は大きいのですが、日中は薄い長袖や半袖でも過ごせるぐらい快適で、8耐と同じく約1時間交代で24時間を走っても、キャメルバックを使用するライダーはほとんどいません。
そのため、24時間だから単純に8耐の3倍過酷!とは言い切れず、それぞれの過酷さがバランスよく考えられているのだと、改めてオーガナイザーの企画力に驚きます。
■寒すぎて過酷なル・マン24時間耐久の夜
とは言っても、24時間耐久レース。8耐とは別の方向性で、過酷と感じるポイントは山のようにあります。
まず8耐はふたりのライダーで走ったとしても、均等に割るとひとり4スティントから5スティント。ほとんどのチームが3人で走るので、基本はひとり3スティント弱と言ったところです。
決勝レース中の夜間のピット作業の様子
しかし24時間レースとなると、均等に割っても1人8スティントちょっと。
1スティントがだいたい1時間弱なので次のスティントまで100分ぐらいは時間があるとはいえ、自身のスティントを終えて戻ってきたライダーがチームに状況を伝えたり、着替えをしたり食事を取ったりしていると、20分前には走行が出来る状態を整えるので、休息時間は40分から50分程しかありません。
それを8回ほど繰り返すとなると、いくら8耐よりも1スティントのフィジカル面にかかる負担が少ないと言っても、かなりの体力と集中力が必要です。
さらに、8耐はナイトセッションがあるとはいえ、暗くなったらもうすぐチェッカーというような時間感覚な上に、コース上の視界はかなり暗くなりますが、気温的には快適になっていくのが通常です。
一方のル・マン24時間耐久は土曜日の15時にスタートし、チェッカーは日曜日の15時。20時頃から暗くなり始め、日が出始めるのは翌朝6時か7時頃となります。
そうなると10時間ほど暗闇の中を走り続けなくてはならない上に、前述した通りフランスの夜は極寒で、朝方には冬用ダウンを着ていても寒くてじっとしていられない程に冷え込みました。
路面温度を測るチームスタッフ
通りすがりのメカニックさんやチーム関係者の何人かと話をしたところ、その一番寒かった時間の気温は3度だったそう。そうなると、気になるのは路面温度です。
多くのモータースポーツが、冬はオフシーズンになる理由は路面温度が低すぎてタイヤがグリップしない為、危険だからです。そのため、気温3度という時期に行われるレースはあまりありません。普通の人なら、コース上に留まっていることすら難しい路面を、昼間より2秒から3秒落ちのレーシングスピードで、耐久ライダーたちは走り続けるのです。
もちろん、1台、2台と転倒車も増えていき、転倒したマシンがコース上に撒いたオイルなども見えない状況なので、その時間帯はワンミスも許されないシビアな状態。さらにパドック生活編で紹介した、魔改造マシンを持ち込んで騒ぐオーディエンスたちのいるキャンプ場から流れてくる煙なども合わさって、コース上の危険度はどんどん上がっていきました。
そんな状況下でも、路面コンディションが良かった昼間のラップタイムより数秒落ちで走れるライダー達に、私は驚きを隠せませんでしたが、何人かのライダーに聞いてみた所、「3秒落とせば安全度が全然違う」との事でした。
一般ライダーの私からすると、「危険な路面を走るのに、3秒で何が変わるねん!」としか思えませんが、恐るべしプロライダーの感覚です。
■寝ている間に全てが終わる。それも24時間レース
ここまで、色々と24時間レースの過酷さをご紹介してきましたが、現地で私が一番感じた過酷さ。
それは、「知らない間にレースが終わっている」事があるという現実でした。
夜間走行中にタイヤウォーマーで暖を取りながら仮眠を取るメカニック
8耐なら、走り終わったライダーはチームの休憩室で何となくモニターを見ながら休息を取り、次のスティントを待つというイメージで、自身のチームの現在の状況が分からないという事はありません。
しかし、24時間レースとなると、どこかで睡眠を取ることは必須です。そうしなければ、この過酷なレースを走り切る為の体力も集中力も持ちません。
自分が転んでしまったら、諦めも付くでしょう。目の前でマシントラブルが起こっても、状況が理解できれば仕方ないことだと思えます。
ただ、このレースは、必死で自分のスティントを走り切って、次のスティントに向けて眠りについたその間に、アクシデントが起きてリタイアをしているという事が起こり得るのです。
この事実が、私が一番過酷だと感じたポイントでした。
夜間走行を終えピットに戻る石塚健選手
現に、今回日本人ライダーが4チームに参戦していたのですが、その内の2チームは彼らが次のスティントに向けて寝ている間に、エンジンブローや転倒での大破でリタイアとなりました。もちろん、これも耐久レースなのですが、24時間後のチェッカーを目指して必死で走ってきたレースが、状況もわからないまま、次のスティントに向けて寝ている間に終わってしまうのです。
そのため、「私ならリタイアでも最後は見届けたい」。そんな気持ちで、リタイアを発表するチームが出てくるたびに、ちょっとセンチメンタルになってしまうレースでもあります。と言うように、様々な「過酷」を乗り越えて、チェッカーを受けたのは54チーム中34チーム。2チームが周回数不足でチェッカー扱いにはならず、17チームがリタイアという結果でした。
24時間の間に多くのチームが転倒やマシントラブルを乗り越えては復活する姿に感動し、いつの間にか出場する全チームを応援している自分がいる。それが、EWCの私的魅力。
次戦は、ベルギーにあるスパ・フランコルシャンで6月16日から18日に開催される「24H SPA EWC MOTOS」。8月4日から6日には第3戦の鈴鹿8耐もあるので、是非、観戦してみてください。
他のレースとはまた違った、多くの感動と達成感が感じられると思います。
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