エンジンの「爆発間隔」って、どういうコト?
バイクのニュース / 2025年1月17日 11時10分
バイクのメカニズム解説やインプレッション記事で、たまに目にする「爆発間隔」というコトバ……なんとなく文字面からイメージはするけれど……? 一体何を表しているのでしょうか。
■4ストロークエンジンは、「クランク2回転で1回爆発」が基本
メカニズム解説の中で「爆発間隔」という文言が出てくることがありますが、これは文字通りエンジンの中でガソリンと空気の混合ガスが爆発(燃焼)する間隔を表しています。そして爆発の間隔は、エンジンの気筒数や形式によって変化します。まずは基本となる4ストローク単気筒エンジンの動作を理解すると、いろいろな爆発間隔の違いが見えてきます。
4ストローク単気筒エンジンの爆発間隔。クランク2回転で1回爆発する(★=点火・爆発)
4ストロークエンジンは、ピストンが下がることでガソリンと空気の混合ガスを吸い込み(1行程)、クランクが回転する勢いでピストンが上昇して混合ガスを圧縮(2行程)、点火プラグの火花で圧縮された混合ガスが爆発してピストンを押し下げ(3行程)、クランクが回転する勢いでピストンが上昇して排気ガスを排出(4行程)します。
この動作を繰り返してエンジンが回るため、4ストロークエンジンはクランクが2回転で1回爆発することになります。
そしてクランク1回転を360°と考えると2回転だと720°なので、4ストローク単気筒エンジンは「720°の等間隔爆発」になり、これがすべての4ストロークエンジンの爆発間隔の基本形になります。
ちなみにエンジンの回転数が低いとタンタンタン……と爆発し、エンジン回転数が高いとタタタ……と連続的に爆発するので時間的には爆発間隔は短くなりますが、「720°の等間隔爆発」のリズム自体は変わりません。
■並列2気筒も等間隔爆発から始まったが……
それでは、2気筒エンジンの爆発間隔はどうなるのでしょうか? じつは様々な種類があるので、まずは並列2気筒エンジンを、順を追って見て行きましょう。
4ストローク並列2気筒「360°位相クランク」の爆発間隔
旧い英国車や、国産バイクの初期の並列2気筒エンジンに多いのが、「360°位相クランク」と呼ばれるタイプで、簡単に言うと単気筒エンジンを単純に横並びにした形式です。
ひとつのシリンダーは単気筒エンジンと同様に、クランク2回転で1回(=720°毎に1回)爆発します。そして隣のシリンダーはクランク1回転分ズレてから爆発するので、結果として「360°の等間隔爆発」になります。クランク1回転分ズレているので「360°位相クランク」と呼ぶワケです。
このエンジンは扱いやすく乗り味がマイルドなのが特徴ですが、高回転や高出力を狙うのにはいまひとつ不向きでした。現行バイクの並列2気筒で360°位相クランクを採用する車両は少なく、国産だとカワサキの「W800」および「メグロK3」のみです。
■高回転・高出力を狙った「180°位相クランク」
並列2気筒で次に登場するのが「180°位相クランク」です。これも単気筒エンジンを横並びにした構造ではありますが、片方のピストンが一番上にある時に、もう一方のピストンは一番下に下がっています。クランク1回転=360°で考えると、180°ズレた状態になるので「180°位相クランク」と呼びます。
4ストローク並列2気筒「180°位相クランク」の爆発間隔。
それぞれのシリンダーは720°に1回爆発するわけですが、クランクのズレ(位相)が180°なので、爆発間隔は「180°-540°」を繰り返す「不等間隔爆発」になります。
なんとなく前出の「360°位相クランク」の等間隔爆発の方が、エンジンがスムーズに回るようなイメージもありますが、じつは「180°位相クランク」の方が構造的にエンジンの振動を抑えたり、高回転化するのに有利です。
現在は国産メーカーの250ccクラスの2気筒エンジンを搭載するスポーツモデル、ホンダ「CBR250RR」、ヤマハ「YZF-R25」、スズキ「GSX250R」、カワサキ「Ninja250」などや、カワサキ「Z650RS」などが採用しています。
■強く曲がれる「270°位相クランク」
そして近年は、国内外問わずに中~大排気量(650~1100ccくらい)クラスで並列2気筒エンジンのモデルが増加していますが、これらの多くが「270°位相クランク」を採用しています。このエンジンは一方のピストンが最上部にある時に、もう一方のピストンはクランク回転で270°(または90°)ズレた位置にあります。
4ストローク並列2気筒「270°位相クランク」の爆発間隔
クランクのズレが270°なので、爆発間隔は「270°-450°」を繰り返す「不等間隔爆発」になります。じつはトトトト……と連続的な等間隔爆発よりも、トト・トト・トト……というリズムの不等間隔爆発のパルスの方が、後輪が路面を捉える力を高めることができます。これはグリップ力のみならず、旋回力(専門的にはトラクション)を高めるのにも役立ちます。
ちなみに、並列2気筒エンジンで最初に「270°位相クランク」を採用したのは、1995年にヤマハが発売した「TRX850」でした。
■V型2気筒は、多様な爆発間隔を選べる
このように、並列2気筒エンジンには様々な爆発間隔がありますが、これがV型2気筒になるとさらに多様化します。V型2気筒はそれぞれのピストンのコンロッドとクランクシャフトが繋がる軸(大端部と呼ぶ)を共有するタイプが多く、その場合はシリンダーの挟み角が爆発間隔に影響します。
90°V型2気筒エンジンの爆発間隔
ちなみに、ドゥカティのV型2気筒エンジンは挟み角が90°なため、かつてはそのルックスから「Lツイン」と呼ばれ、爆発間隔は「270°-450°」を繰り返す「不等間隔爆発」です。
気付いた人も多いと思いますが、この爆発間隔は並列2気筒「270°位相クランク」と同じです。
また、ハーレーダビッドソンの空冷V型2気筒エンジンは45°の挟み角で、爆発間隔は「315°-405°」を繰り返す「不等間隔爆発」になります。ドドッ、ドドッと間の開いた排気音からは凄く不等間隔で爆発しているイメージがありますが、じつはシリンダーの挟み角が狭いため、実際は、どちらかと言うと等間隔爆発に近かったりします。
■近代4気筒の爆発間隔は、複雑怪奇!?
4ストロークエンジンは単気筒の「クランク2回転で1回爆発」が基本となり、気筒数が増えると「クランク2回転=720°」の間に気筒数の数だけ爆発します。たとえば4気筒なら4回爆発し、かつての国産の並列4気筒エンジンは180°毎に爆発する「等間隔爆発」のみでした。
しかしヤマハのスーパースポーツ「YZF-R1」が、2009年モデルで「クロスプレーン」と呼ばれる独自のクランクシャフトを用いて「180°-90°-180°-270°」の「不等間隔爆発」を実現しました。
また、V型4気筒エンジン(ドゥカティやアプリリアなど)の場合は、シリンダーの挟み角やクランクの位相角度、さらに点火順序の組み合わせによって、様々な爆発間隔が存在します。
ちなみにロードスポーツの頂点であるMotoGPクラスを走るマシンは、現在すべて4気筒エンジンですが、全車が不等間隔爆発だと言われています。
爆発間隔はパワーを得たり振動を抑制するだけでなく、乗り味やコーナリング性能にも大きく影響します。そのため2気筒以上のエンジンは、今後も様々な爆発間隔が登場するのではないでしょうか。
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