芸能人がゴシップを持ち寄ってトーク→嘘ゴシップを語る人狼を探すバラエティ番組「ゴシップ人狼」……を舞台にしたミステリは成立するか? ミステリ評論家・若林踏が読む
文春オンライン / 2024年10月1日 6時0分
『なんで死体がスタジオに!?』森バジル(文藝春秋)
対談集『新世代ミステリ作家探訪』『新世代ミステリ作家探訪 旋風編』(光文社)などの著書を持ち、若手ミステリ作家に造詣の深い書評家・若林踏氏が、森バジル氏の『 なんで死体がスタジオに!? 』を読みます。
◆◆◆
ミステリに真正面から挑んでみましたが、どうですか?
作者が胸を張って挑戦状を叩きつける姿が目に浮かぶ。よし。その心意気、受けて立とうじゃないか。
『なんで死体がスタジオに!?』は森バジルの再デビュー2作目に当たる作品である。再デビュー、と書いたのは、森には2度の小説新人賞受賞歴があるためだ。1度目は2018年の第23回スニーカー大賞《秋》優秀賞受賞で、受賞後に『1/2―デュアル―死にすら値しない紅』という文庫作品を刊行している。2度目は第30回松本清張賞を「ノウイットオール」で受賞したことで、同作は『 ノウイットオール あなただけが知っている 』と改題のうえ2023年に刊行された。『ノウイットオール』は全5章から成る物語で、推理小説、青春小説、科学小説など、それぞれ異なるジャンルの独立した作品として楽しめる構成になっている。「どんなジャンルでも書いてみせますよ」という作者の挑戦的な姿勢が垣間見えた小説だった。
そこで再デビュー2作目の『なんで死体がスタジオに!?』である。「どんなジャンルでも」の一発目として森が選んだのは、ミステリであった。その結果はどうだったか。
結論から言ってしまうと、うん、真っ向勝負を挑んで見事に勝っている。
物語の中心にあるのは「ゴシップ人狼」というテレビ番組である。複数人のプレイヤーに“村人”や“人狼”などの役割を振り、グループの中に潜む“人狼”を推理して言い当てるパーティーゲームを「人狼ゲーム」と言うが、「ゴシップ人狼」はその芸能界版というべきルールで行われる。プレイヤーは自分が知っている芸能人のゴシップを披露するのだが、その中に嘘のゴシップを語っている人間が紛れている。その嘘つきを炙り出すのが「ゴシップ人狼」なのだ。
ある失敗から崖っぷちに立たされているバラエティ番組のプロデューサー・幸良涙花は「ゴシップ人狼」の生放送を何としても成功させて、会社からの戦力外通告を跳ね除けねばと戦々恐々としている。ところが本番を直前に控える幸良を、不測の事態が襲う。スタジオに置かれた段ボール箱の中から、人間の死体が出てきたのだ。
予想の斜め上をいく展開の連続で読ませるスリラーが本作の基調である。作者の工夫が奏功しているな、と感じたのは物語の要となる「ゴシップ人狼」が「人狼ゲーム」を下敷きとしたゲームになっていることだ。簡単に言ってしまえば「人狼ゲーム」はプレイヤー同士の証言から手がかりを得て人狼=犯人を当てる、本格謎解きミステリの構造を持った遊戯である。
そうした「人狼ゲーム」の要素を作中で描くということは、必然的に謎解き小説の要素が作品に入り込んでくるということだ。作者はこの謎解き要素と先述したスリラーの要素を結び付けることで、曲芸のような展開を生み出すことに成功している。しかも驚くほどフェアプレイだ。ここ、謎解き小説ファンにとっては重要。もちろん、それだけでは満足せず、作者は更に大胆な仕掛けを最後まで用意している。『ノウイットオール あなただけが知っている』を読んだ方は、風変わりな構成に光るものがある小説だったことを思い出してもらいたい。森バジル、油断のならない作家である。
『ノウイットオール』で「どんなジャンルでもいけますよ」と宣言し、その次の『なんで死体がスタジオに!?』ではミステリに挑んで勝利を収めている。次はどのジャンルに挑むのか。再びミステリなのか、それとも別のジャンルなのか。いや、どっちでも良いから驚くような物語をもっと書いてくれ、森バジル。
(若林 踏/文藝出版局)
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