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日本人が今求めているのは公園や広場など「穏やかな日常」だ…商業ビルで“にぎわい”を創出するのがすでに難しくなっている理由

文春オンライン / 2024年10月2日 6時0分

日本人が今求めているのは公園や広場など「穏やかな日常」だ…商業ビルで“にぎわい”を創出するのがすでに難しくなっている理由

『人口減少時代の再開発 「沈む街」と「浮かぶ街」』(NHK取材班 著)NHK出版新書

 本書は全国の再開発ラッシュの状況を取り上げ、その理由・背景と問題を指摘している。私もよく知る下町・葛飾区立石、下北沢ボーナストラック、福井駅前、さいたま市の事例も取り上げられている。

 主題はお金である。衰退する地方を再生するにはお金がいる、でも地方にはお金がない、だから中央からの補助金で再生する、すると金太郎飴のような街ができる。都心は衰退していないが老化している、建物はみな古い、お金は、あるようでない。地方以上に再開発にお金がかかるからだ。結局地方と同じように行政主導の民間活用手法により巨大ビルだらけになる。1995年アメリカでは「建築形態(form)は財務(finance)に従う」という本が出ている(Carol Willis著)。20世紀初頭の建築家ルイス・サリヴァンの言葉「建築形態(form)は機能(function)に従う」をもじった言葉だ。建築や都市が機能美の時代から、金のために形態を変える時代になったのだ。

 そういう流れの中で、本書で私の目を引いたのは岩手県紫波町(しわちょう)で「オガール」という施設を作った岡崎正信さんの言葉だ。既にEコマースが隆盛していて、モノを売ることで人を呼ぶのは難しいので、オガールではいかに消費をしない人たちを集めるかを考えたと言う。まったく同感である。失われた30年といっても日本にはモノが溢れている。たくさんのスポーツイベントがあり音楽ライブなどがある。そしてそれらもスマホで見られる。ビルの中の商業で消費を喚起し賑わいを創出すると言っても無理がある。結局全国チェーン店が入るだけだ。

 また先日筆者は、杉並区の西荻窪で開かれた大手企業によるまちづくりミーティングで基調講演をしたが、企業側と住民の間には溝があった。企業側はすでに消費喚起ではダメだと承知しつつもテナントにチェーン店を入れ、広場を作って新しい賑わいを生もうと言う。しかし住民は、西荻窪はすでに住民の活動によって西荻窪らしく賑わっているから企業の目論見は余計なお世話だと感じていた。

 ただし、普通は、自分の個性が自分でわからないように、地域住民は地域の個性をわからない。「特に何もないよ」という人が多いはずだ。だから地域の個性より消費喚起型賑わい創出によって地域に金を落とそうと目論んで、金太郎飴を作る。個性を見つけ発揮するのは難しいが、無個性に堕するのは簡単なのだ。

 多くの日本人が今求めているのは「穏やかな日常」であろう。公園や広場があって、子ども連れや高齢者らが平和に過ごせることである。本書が取り上げたボーナストラック以外にも、立川グリーンスプリングス、豊島区南池袋公園、世田谷キューズガーデンなどはとても評判が良い。そういう先進事例が本書でもっと紹介されれば、将来への希望の持てる本になっただろう。

えぬえいちけーしゅざいはん/2024年1月20日に放送の「NHKスペシャル『まちづくりの未来~人口減少時代の再開発は~』」などを制作したチーム。
 

みうらあつし/1958年生まれ。カルチャースタディーズ研究所を主宰。近刊に『ボロい東京』『再考 ファスト風土化する日本』等。

(三浦 展/週刊文春 2024年10月3日号)

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