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西山朋佳女流三冠はプロ編入試験第1局で勝利 意外と知らない「女流棋士」と「女性棋士」の違いとはなにか

文春オンライン / 2024年10月1日 11時0分

西山朋佳女流三冠はプロ編入試験第1局で勝利 意外と知らない「女流棋士」と「女性棋士」の違いとはなにか

東京・将棋会館で行われた西山朋佳女流三冠の編入試験第1局

 西山朋佳女流三冠の棋士編入試験が注目を集めている。棋士番号の若い四段5人と戦い、3勝を上げれば合格となり、史上初の「女性棋士」誕生となる。9月10日に行われた第1局では高橋佑二郎四段を破り、幸先のいいスタートを切った。

「女性棋士」と「女流棋士」の違い

 まず「女性棋士」と「女流棋士」の違いについて説明しておきたい。いわゆる「棋士」とは基本、奨励会を突破してプロの四段になった者を指す。それとは別に2005年に瀬川晶司当時アマがプロ入りしたことをきっかけとして、制度化された棋士編入試験(アマチュアあるいは女流棋士として参加したプロ公式戦で既定の成績を取ると受験資格が得られる)で合格して棋士になった者もいるが、いずれの制度でも過去に棋士となった女性はいない。一昨年には福間香奈女流五冠が受験資格を得てチャレンジしたが、合格には至らなかった。よって、西山が合格すると初の「女性棋士」となるのである。

 対して女流棋士は棋士とはなるための仕組みが異なる。50年前に初の女流棋士が誕生してから制度は何度か変わっているが、基本的に女流棋士になるのは棋士になるのと比較してだいぶ平易なのである。

 例えば現在、女流棋士になるには日本各地に6か所(北海道、東北、関東、東海、関西、九州)ある研修会に参加し、B1クラスまで昇級すれば女流2級として認められるが、これは棋士の養成機関である奨励会では最下級の6級とほぼ同等の実力なのだ。直近では竹内優月女流2級が奨励会試験を受け、6級で合格した。なお、現在の女性奨励会員は竹内6級だけである。

女流棋士と男性棋士との棋力差

 女流棋士制度は女性に将棋を普及することを目的として発足したこともあり、男性棋士との棋力差はなかなか埋まらなかった。1980年代に女流棋界で二強時代を築いた林葉直子さん(元女流棋士)と中井広恵女流六段は、いずれも奨励会に在籍した経験があるが、級位者止まりで退会している。

 女流棋士が初めて男性棋士が指す公式戦に参加したのは1981年の第12期新人王戦。当時の山下カズ子女流名人と蛸島彰子女流王将の参加が認められたが、いずれも敗れた。それからも女流棋士の公式戦参加は続いたが、なかなか白星を上げるには至らなかった。

 歴史が動いたのは93年12月9日。第7期竜王戦で中井広恵女流六段が池田修一七段を破った。これが公式戦において女流棋士が男性棋士を破った史上初の例である(なお、女流棋士の公式戦初勝利は、83年の第15期新人王戦で林葉さんが中井女流六段を破った星がある)。女流棋士が公式戦を指す39局目でのことだった。ちなみに対男性棋士の2勝目も翌94年8月に中井女流六段が上げている。

女流棋士の公式戦における節目の記録

 風穴があいたとはいえ、以降も女流棋士がなかなか勝てない時代が続いた。かつては男性棋士相手に2割勝てば「勝っている女流棋士」と言われたものである。

 これまで、35人の女流棋士が公式戦を指した経験があるが、女流棋士の公式戦における節目の記録を見ていきたい。史上初の公式戦対局と公式戦勝利は上記の通りなので、他の主なものをあげる(男性棋士の肩書はいずれも当時のもの)。

史上初めて現役のタイトルホルダーと公式戦を指した女流棋士:

84年4月27日の第15期新人王戦での林葉直子さん。対高橋道雄王位戦。
 

史上初めて同一期の棋戦で2勝した女流棋士:

99年の第8期銀河戦での斎田晴子女流五段。沼春雄六段と剱持松二八段を連破。なお次戦で佐伯昌優八段に敗れたが、佐伯―斎田戦は女流棋士が公式戦で師弟戦を行った史上唯一の例である。
 

史上初めて現役の順位戦A級棋士に勝った女流棋士:

03年11月3日の第53期NHK杯戦での中井広恵女流六段。対青野照市九段戦。


史上初めて永世称号有資格者と公式戦を指した女流棋士:

03年12月15日の第53期NHK杯戦での中井広恵女流六段。対中原誠永世十段戦。


史上初めてタイトル経験者に勝った女流棋士:

07年7月20日の第1回朝日杯将棋オープン戦での石橋幸緒さん(元女流棋士)。対森雞二九段戦。


史上初めて同一期の棋戦で3勝した女流棋士:

18年の第67期王座戦での福間香奈女流五冠と渡部愛女流三段。福間は浦野真彦八段、島本亮五段、長沼洋七段を連破。渡部は木下浩一七段、泉正樹八段、門倉啓太五段を連破。


史上初めて同一期の棋戦で4勝、5勝した女流棋士:

20年の第92期棋聖戦での西山朋佳女流三冠。泉正樹八段、渡辺和史四段、片上大輔七段、北島忠雄七段、森下卓九段を連破。


史上初めて公式戦の1次予選を通過し、2次予選に進出した女流棋士:

上記の第92期棋聖戦での西山朋佳女流三冠。北島七段を破って1次予選通過が決まった。


史上初めて公式戦の予選を突破し本戦入りした女流棋士:

22年の第48期棋王戦での福間香奈女流五冠、浦野真彦八段、澤田真吾七段、池永天志五段、冨田誠也四段、古森悠太五段を破って本戦入り。

奨励会三段リーグでの経験が女流棋士を強くした

 こう見ると、やはり最近の西山、福間が突出している。事実、全女流棋士の公式戦における対男性棋士勝率は2割5分を切っているが、福間は4割5分、西山に至っては5割勝っている。その理由を挙げるならば、もちろん本人の資質や努力もあるだろうが、奨励会三段リーグを戦った経験が大きいのではと思う。

 この両者以前にも奨励会在籍経験のある女流棋士はいるが、三段リーグを戦った女流棋士は現在この2人だけだ。「三段になってからが本番」と言われるくらい、奨励会は三段と二段以下に差がある。三段リーグを突破した多くの棋士が異口同音に「初めて三段リーグを戦った時は空気の違いを感じました」と語っているくらいだ。

 特に西山は三段リーグで14勝4敗の好成績を上げた経験もある。この時は次点で惜しくも四段昇段には至らなかったが、棋士になってもおかしくない実力と認められた。この実績が大きいのだろう。過去の編入試験では結果予想についてシビアな判断をする棋士も少なからずいた。だが筆者の知る限り、今回の西山についてはそのような見方はさほど聞かれなかった。

 そのような状況で行われた編入試験第1局を西山は勝った。試験当日、筆者は開始時から終局まで将棋会館に詰めていたのだが、レポートの後編では現場の雰囲気がどのようなものだったかを書いてみたい。

写真=相崎修司

〈 「緊張していない。さすがだよね」積極的な指し手で白星スタートの西山朋佳女流三冠、次の相手は「絶対勝つ」宣言 〉へ続く

(相崎 修司)

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