「亡くなった娘のSNSの投稿を削除したい」という親からのメール…削除後に「大変なことをしてしまった」と思った理由とは
文春オンライン / 2024年10月7日 6時0分
『バズる「死にたい」 ネットに溢れる自殺願望の考察』(古田雄介 著)小学館新書
「故人のブログやSNSを“覗き見”し、何らかの意味を付与したり考察したりすることが仕事です。でも、そこになんの後ろめたさも感じないかと言えば、嘘になりますよね」
デジタル遺品をめぐる問題を調査し、その取り扱いや、そこからうかがえる死生観などについて執筆・講演活動をしているライターの古田雄介さん。そう静かに本音をもらした。このたび上梓した新刊『バズる「死にたい」』は、そんな古田さんの思いに呼応するべく生まれた本だ。
「2020年の秋頃のことです。自分の活動の社会的フィードバックとしてホームページに設けている〈デジタル遺品の相談窓口〉に、こんなメールが届きました。“亡くなった娘によるSNSの投稿に自殺を助長する書き込みを見かけた。今も「いいね」がついている。公序良俗に反するこれらの投稿をいち早く削除したい”。
故人のSNSの取り扱いに関する問い合わせ自体は珍しいことではないので、その文面にわずかな引っ掛かりを覚えながらも、いつものように最適解をアドバイスしたんです」
しかし2年後、あるきっかけから自身の返答は誤りではなかったかと煩悶することになったという。
「慌ててくだんのアカウントを調べると、アドバイスしたとおりに投稿は全て削除されていました。だから、具体的にどんな投稿だったのかは不明なのですが、脳裏に浮かんだのは、日々ネットに溢れる『死にたい』という言葉でした。実際、これまでの調査で、自殺した、または自殺をすると宣告して更新が止まったブログやSNSアカウントを私は複数、知っているので」
そこには自殺へと向かわざるを得なかった人々の切実な思いが凝縮されている。それなのに――。
「たとえ親であっても、故人が最後に発した声を“公序良俗に反する”という一言で断じ、削除していいのか。大変なことをしてしまったと恐ろしくなって……」
本書には、それから古田さんがとった行動が時系列そのままに記されている。すなわち、10年以上にわたって集めてきた143もの“(実際に自殺したと思われる)自殺願望を綴ったサイト”を1つずつめぐり、改めてじっくりと読み込む。そして「死にたい」という言葉は、本当に公序良俗に反するのか、真剣に向き合っていくことにしたのだ。
「慣れているとはいえ、さすがに精神的にこたえました。気持ちが引っ張られすぎたと感じた時には、積極的に体を動かすことにしているのですが、本書の執筆中は、ランニングがかなり捗りました(苦笑)」
やがて、それらのサイトに4種類の類型を見出すに至り、類型ごとに深く考察を重ねていく。さらに、「自殺に失敗した」というYouTuberや自殺中継動画を残した女子高生のスクリーンネームを「形見」として使用する学生、自殺した兄のサイトを現在も管理している遺族、そのサイトの熱心な読者などに取材。その過程も克明に綴られる。
そして古田さんは、あのメールに対しての〈理想の返信〉を導き出した。
「勿論、今さら自己満足でしかないことはわかっていますが、やれるだけのことはやったという思いです」
そのうえで、こう結んだ。
「今、自殺に関する報道やコンテンツについて、どのメディアも強く警戒するようになっています。ネット上では特に。でも、ただ表層的に“タブー”として隠せばいいのか。本書で私が出した結論が、全てに当てはまる正解ではないにしても、考えるきっかけになればと思います」
ふるたゆうすけ/1977年、愛知県生まれ。元葬儀社勤務のライター、ジャーナリスト。デジタル遺品を考える会代表。デジタル遺品や死生観に関することの調査を中心に活動。著書に『故人サイト』『ネットで故人の声を聴け』など。
(「週刊文春」編集部/週刊文春 2024年10月10日号)
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