安倍派は大激怒、石破首相はふにゃふにゃ…自民党の“内戦”がいまいち盛り上がらない「残念な理由」とは
文春オンライン / 2024年10月15日 6時0分
石破茂首相 ©時事通信社
新聞を読んでいたら興味深いことに気づいた。石破茂首相(自民党総裁)が衆院選で自民党議員の一部を非公認とする方針を決めたことについてだ。
次の見出しの違いがわかるだろうか。
『「不記載」6人非公認へ 最大37人 比例重複認めず 衆院選 自民』(読売新聞)
『裏金43人比例重複認めず 萩生田氏ら6人非公認 首相、自民内押し切る』(毎日新聞)
読売と産経は「不記載」議員と書き、毎日・東京・朝日は「裏金」議員と書いていた(10月7日一面)。自民党派閥の政治資金規正法違反事件のことである。
不記載か、裏金か?
不記載だと事務的なうっかりミスというニュアンスがある。多くの自民議員はこれを主張しているのだろう。ところが派閥によっては伝統的な匂いもする。
「裏金」問題は単なる記載ミスではない
先月末に東京地裁で安倍派事務局長が虚偽記載の罪で有罪判決を受けた。判決では「虚偽記載の前提となるノルマ超過分の処理については、会長や幹部の判断に従わざるを得なかった」と述べられた。事務局長は公判で虚偽記載の中止を派閥幹部に進言していたことを明らかにしていた。
単なる記載ミスではなく「裏金」を貯める慣習が政治家の中にあったことを事務局長もほのめかしていたのだ(「幹部」が誰かは明らかにせず)。
公判での事務局長の姿勢について、自民党関係者は「他人に責任を押しつけるつもりはないが、自分だけですべて決めたわけじゃないことを分かってほしいという、事務局長なりのギリギリのバランスだったんだろう」(朝日新聞10月1日)と分析している。
こうした流れを振り返るとやはり「裏金」事件であり、調査はまだまだ必要ではないか? すると注目すべき発言があった。石破首相が9日の党首討論で「裏金は決めつけ。不記載だ」と断言したからである。立場が変われば発言も変わるものだ。
ほんの1年前まで石破氏は終わった人だと思われていたが、裏金事件で言動が再注目されて遂に総裁にまで昇りつめた。いわば“裏金で売れた人”なのにトップに立ったら「裏金は決めつけ。不記載だ」というのである。石破氏は過去の自分に負けている(かつての自派閥にも「不記載」問題があったことが浮上している)。
さてそんな石破首相のもう一つの決断が報じられた。
冒頭に書いた衆院選で自民党議員の一部を非公認とする方針である。これは信念に基づく政策なのか、権力闘争という政局なのか、それとも単なる選挙対策なのか? 言葉の裏に惑わされないために政局と政策を両方とも見るのは大事だ。
権力闘争になると保存したくなるような発言が多い。今回の石破vs.安倍派をめぐって新聞各紙に載ったコメントを紹介しよう。
石破首相の決定に安倍派議員から悲鳴が...
“優勝”は毎日新聞に掲載された次の言葉だ(10月7日)。
《「党を分断する史上最低の決定だ」――。石破首相の決断を受け、安倍派議員らは悲鳴交じりに激しく反発の声を上げた。》
強烈すぎる「分断」という言葉! 現在公開中の映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』は内戦の勃発により戦場と化した近未来のアメリカを舞台に描いているが、こちらは自民党の分断、内戦勃発そのもの。『シビル・ウォー』ならぬ『シゲル・ ウォー』である。
さらにこの記事では「安倍派議員はこうまくし立てた」とある。
「自民党の一致団結なんてもうない。(石破首相は)作られた世論に迎合して仲間を売るリーダーだ」
パワーワードきました。「作られた世論」「仲間を売る」。この被害者意識はすごい。
読売新聞には石破首相に理解を示す自民党内の言葉が載っていた(10月7日)。
「地元の風当たりは相当厳しいが、これで局面が変わる」
「萩生田氏らが非公認となったのは象徴的で有権者に分かりやすい」
安倍派議員「完全な切り捨て」“内戦状態”の自民党
しかし安倍派議員らは「完全な切り捨てで、選挙で勝っても石破政権を支えることはもうできない」などと猛反発しているとも。
さらに岸田内閣で閣僚を務めた安倍派議員は、
《「安倍さんが『石破だけはダメだ』という態度だったのは正しかった。若手がかわいそうで情けない」と嘆いた。》(10月8日)
やはり内戦だ。
具体例で凄かったのは福島3区に立候補予定だった菅家一郎氏である。
衆院選で「恩返しする」と約束したはずが...
朝日新聞の社会面に「石破の恩返し」が書かれていた(10月10日)。菅家氏は裏金問題で6カ月間の党役職停止処分を受けたが、総裁選が始まる前日に開いた自分の講演会に石破氏が出席していた。報道陣に非公開だった講演会で石破氏は総裁選の必勝を誓ったという。
そして、《首相となったあかつきには、衆院選で「恩返しをする」と約束。「菅家氏の選挙カーに乗り込んで選挙区を回ります」とまで語ったという。》
これを聞いて喜んだ菅家氏は石破選対に入り、1回目の投票から石破氏に票を投じた。しかし今回の処分で非公認になった。石破氏から「恩返し」があるはずが講演会での約束は1カ月経たずに反故にされたというのである(10月12日に菅家氏は出馬断念を表明)。
石破首相は前回比例復活当選だった菅家氏に「選挙区で勝つしかない、谷底から這い上がってこい」とあえて厳しい試練を与えたのかもしれない。これが「恩返し」の本当の意味だったのかもしれない。そんなわけないか。
この手の政治記事を読むと裏切りとかやるかやられるかなど仁義なき戦い的な世界が思い浮かぶものだが、石破氏の場合は逆だ。シビアというよりふにゃふにゃした読後感しかないのだ。
政治記者からすれば政局に興奮したいのにさせてくれないのが石破政権ではないか。自民党の「内戦」の実態は、安倍派が怒りまくる一方で石破氏が全般的にフラフラしているという、なんとも嚙み合わない姿が見えてくるのである。
(プチ鹿島)
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