“美人で完璧”だった義母(76)が認知症に…「ここにあったお金がない」「あなたが盗んだ」嫁が目の当たりにした義母の”豹変”
文春オンライン / 2024年10月25日 6時10分
写真はイメージ ©moonmoon/イメージマート
〈 “美人で完璧”な義母(76)から突然「切符の買い方がわからない」と電話、いったい何が…? 困惑する嫁が気づいた“ある異変” 〉から続く
義母の認知症が8年前に始まり、義父も5年前に脳梗塞で倒れた。仕事と家事を抱えながら、義父母のケアに奔走する日々が始まった――。
ここでは、翻訳家でエッセイストの村井理子氏が綴った超リアルな介護奮闘記『 義父母の介護 』(新潮新書)より一部を抜粋。美人で完璧だった義母(当時76歳)が認知症によって変わっていく様子を紹介する。(全2回の2回目/ 1回目 から続く)
◆◆◆
義母が同じ服ばかり持って来る
義父が脳梗塞で搬送された総合病院からリハビリ専門病院に転院したのは、2019年9月終わりのことだった。入院していた義父のもとに、1日も欠かさず通い詰めた義母だったが、「車の運転に自信がない」といい、駅前からバスに乗って行くようになっていた。病院から次々と言い渡される手続きや、義父の介護認定を行うためのケアマネとの折衝など、義母はそのすべてを「わからない」といい、私と夫で担うようになっていた。
家から着替えを運ぶはずの義母が、「同じ服ばかり持って来る」と義父は連日怒っていた。セーターやコートや靴下ばかり持って来て、肝心の下着やタオルを持って来ないというのだ。病室のロッカーに詰め込まれた何枚ものセーターを私に見せ、義父はますます怒りを露わにした。
リハビリ病院に転院するまえにしばらく入院していた総合病院でも、同じことは起きていた。頼んだものを持ってきてくれないと義父が訴え、義母の代わりに夫や私が持って行くようになった。義母は、夜になるとわが家に電話をかけてきては、「庭を誰かが歩いている」と訴えたかと思えば、「お父さんの生命保険の証書がない。あなたが盗んだ」と夫を責めることもあった。
「ここにあったお金がない」と疑いの目を向けられ…
私に対しても、「ここにあったお金がない」「テレビのリモコンを持って行ったでしょう?」と疑いの目を向けた。この頃にはもう、私たち夫婦のなかには確信めいたものが生まれつつあった。義母は認知症なのではないか、ということだ。
当時の義母のメモにはこうある。
車のキーをどこかにかくして(保管のつもりが)出てこない。
つらい つらい つらい!
義母から夫に、「車の鍵がどこかへ行ってしまった。あなたが持って行ったでしょ」と聞く電話の回数が格段に増えた。「これはもう、まずいことになってきたよ」と言う私に、夫はまだ信じられないような表情をしていた。義母の状態は、それほどまで突然に悪化の一途を辿ったのだ。
要介護認定を申請
義父の担当ケアマネに、義母の様子がおかしいことを打ち明け、アドバイスを求めた。彼女は、それであれば地域の窓口があると教えてくれた。
私たちが地域包括支援センター(介護スタートにあたり相談に応じる地域の総合窓口)に向かったのは、義父がリハビリ病院に転院した直後、2019年9月のことだ。要介護認定の申請を行い、義母を担当するケアマネHさんがすぐに決まった。翌週には、ケアマネと私が話合いの機会を持ち、義母の現状の確認を行った。その次の週には、介護認定調査員が義母と面談し、聞き取り調査が行われた。
要介護認定とは、介護サービスがどの程度必要なのかを判断するためのものだ。市町村の窓口に申請が必要で、まずはコンピュータによる一次判定、介護認定審査会による二次判定が行われ、主治医の意見書などから総合的に判断され、決定される。要支援には1から2が、要介護には1から5までの段階がある。わが家の場合、2024年5月現在は義父が要支援1(基本的な生活はほぼ自分で行うことができる)、そして義母が要介護3(中等度の介護が必要な状態。着替え、身の回りのことは、1人ではできない。理解の著しい低下などがある)である。
義母から目が離せない
義父の入院中、義母を1人で実家に住まわせることは危険だとのケアマネの意見から、私と夫は義母をとりあえず1週間、わが家で預かることを決めた。
身の回りの荷物とともに義母を車に乗せてわが家に向かう道中、義母は「どこに行くの?」「誰の家に行くの?」とひっきりなしに聞いてきた。まるで、わが家への道のりを一切記憶していないかのような言い方だった。夫は怒った口調で「俺の家だよ!」と答えていた。
わが家に到着した義母は完全に混乱していた。
きょろきょろと辺りを見回し、不安そうだった。もちろん義母は、わが家には何百回と来たことがある。むしろ、そう頻繁に来ないで欲しいと私が訴えるほど、遠慮なしにやってきていた。それなのに、とても居心地が悪そうにし、あれだけ溺愛していた孫たちにも素っ気ない。双子で似ていることもあって、どっちがどっちかの区別もついていない。お義母さん、ここで寝て下さいねとベッドを示しても、不安そうに座ったままで横になろうとしない。私はそんな義母を見て、大いに不安になった。
義母は「失礼致しました……」と小さい声でつぶやきながら、帰り支度をし続けた。少しでも目を離すと、玄関から出て行こうとする。
この日から数日、私は義母から一切目を離すことが出来なくなった。私が仕事をしている隙を見て、義母がすっと玄関から出て行ってしまうのだ。薄着のまま家を出て、どこに向かうのかと観察していると、どんどん山道に向かって歩いて行って、大慌てで追いかけたこともあった。家の周りをぐるぐると、ただ歩いている日もあった。家の外構に背中をつけ、忍び足で歩く姿を目撃したときはショックだった。何を警戒しているのか。
私は変わってしまった義母の姿を見て、恐怖を感じるようになった。もしかしたら彼女は、私の存在すら、わかっていないかもしれない。パソコンに向かっているとき、ふと感じる義母からの視線。ドアの隙間から私のことをじっと観察し続ける義母。私はキッチンに無造作に置いてあった包丁を隠した。山道に向かう義母の手を掴んだとき振り返った彼女の目が、他人を見るそれだったからだ。
(村井 理子/Webオリジナル(外部転載))
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