石破茂でも野田佳彦でもない…幽霊のように現れて消えた「大連立構想」の意外な「言い出しっぺ」とは
文春オンライン / 2025年1月14日 6時0分
©時事通信社
今回はニュースの探検をしてみたい。ニュースで聞く言葉の中にはそもそもどこから出てきたんだろうと思うことはないだろうか? 最近なら「大連立」。自民党と野党第1党の立憲民主党の連立のことだ。
実は大連立を含む政界再編の言葉は、昨秋の石破首相誕生直後から目にしていた。次の時事通信の記事を見てほしい。
『石破政権は維持できるか、衆院選後は政界再編も? 山崎拓氏が明かす自民総裁選の政治ドラマ【解説委員室から】』(2024年10月18日)
これは自民党の元副総裁・山崎拓氏が福岡の講演で語った内容を記事にしたものだ。
もともと石破茂氏を支援していた山崎拓氏は昨年5月7日、自分の主催する集まりに石破氏を招き、秋の総裁選に出馬すべきだと勧めたという。そのあと紆余曲折ありつつも、石破氏は5度目の挑戦で総裁の座を手にした。
このままでは超短命政権に
ただ石破氏の党内基盤は弱い。もし衆院選で自民党が単独過半数を割った場合、石破政権は超短命となるかもしれない。
《それじゃあまりにも残念だ。もし、万一そんな事態になり、石破内閣続投のためには何が必要かと言われれば、政界再編以外にないと思っている。》と山崎拓氏は講演で喋った。
自民党は予想通り敗北した。しかし石破退陣論は起きずに今に至る。つまり少数与党という状況だからこそ、新聞や雑誌で「大連立」という政局記事がちょいちょい出た理由もわかる。この手の噂や憶測は刺激的だからだろう。
ところがである。年が明けた1月1日、石破首相自らが「大連立」に言及したのだ。
石破首相が「大連立」に言及した背景
『石破茂首相、大連立の「選択肢はあるだろう」 ラジオ番組で発言』(毎日新聞1月1日)
《石破茂首相は1日に放送された文化放送の番組で、第2党の立憲民主党を含む大連立について問われ、「選択肢はあるだろう」と述べた。一方で「何のためにというのがない大連立は、一歩間違うと大政翼賛会になってしまうので、気をつけなければいけない」とも述べた。》
番組はジャーナリストの後藤謙次氏との対談形式で、12月24日に収録されたものだ。なんだか幽霊が明るい場所へ急に飛び出してきた感じだ。
私もラジオを聴いたが石破首相は「(維新共同代表)前原さん、(立憲代表)野田さんは、中道政治を目指す意味では相通じるものがある。長い友人であるし、人として信頼できる。裏切られたことが一度もない。そういう信頼関係がある」と語っていた。ラブコールと呼んでもいいレベルだ。
大連立発言を引き出したジャーナリストは...
この石破発言について立憲・野田氏は《少数与党に陥っているから苦し紛れの発言、抱きついてきたいのかなと思う》と語った(朝日新聞デジタル1月6日)。確かに一方的に言われたなら迷惑な話だ。
石破首相は昨年暮れには、年明けの通常国会で新年度予算案が否決された場合、衆議院を解散することも「あり得る」と語っている。党内基盤が弱いという立場から、逆に各所に対してブラフをかましまくり、けん制しまくりなのだろうか。
一方で私は、石破首相も意識するほどの「大連立」がなぜ出てきたのかという、そもそもを知りたくなった。なのでラジオ番組で大連立発言を引き出したジャーナリストの後藤謙次氏に話を聞いてみた。
ーー昨秋ぐらいから新聞や雑誌で大連立記事を目にするようになったのですが、実際に永田町の現場でも10月頃から流れていたのですか?
「一切ありませんでした。大連立の話が出てきたのは先月の12月7日が初めてです。その日に石破さんが亀井静香さんと会食したのですが、その際に亀井さんが石破さんに『お前が生き残るためには大連立しかない』と言ったというのです。その情報をつかんでいたので私は今回ラジオ番組で石破首相にぶつけてみたのです」
ーー亀井静香さんの影響で大連立案を意識していたと。そのタイミングでラジオ収録で聞かれたから「選択肢はあるだろう」と言ってしまったと。でも亀井さんは石破さんになぜ影響力があるのですか。
「これは調べてもらえば記事もたくさん出てきますが、亀井さんは山崎拓さんの主催する会に参加している人なんです。山崎拓さんは石破推しですから『お前が生き残るためには大連立しかない』というのは元々ヤマタクさんが言っている案なのでは」
石破推しの“ドン”の存在
あー、ここでつながった! 冒頭に昨秋から政界再編に関する記事を見かけるようになったと書いたが、あれもヤマタク発信だった。要は石破推しのヤマタクとその周辺が弱小の石破政権維持のために「発破をかけていた」のが今回の大連立騒動というニュースの源だったのかもしれない。
一方で後藤謙次氏には次の質問をしてみた。
ーー今の政治状況は過去で言うと似てる政権はありますか?
「あえて言うなら小渕恵三政権の初期ですかね(1998年~)。政権基盤が弱かった小渕政権は公明党との連立を模索しました。しかし公明党側は世間体もあり『いきなり連立というわけにはいかない。座布団を一枚入れて欲しい』と返事をしたのです。そこで自民党は小沢一郎氏の自由党と自自連立をした。そうして公明党が参加しやすい状況をつくって『自自公』連立になりました。小沢氏が離れたあとも自公連立は今も続いています」
「理想で言うなら国民民主か維新」
ーーというと石破氏にとって当時の公明党のような存在は?
「理想で言うなら国民民主か維新なのでしょう。立憲との大連立を言ったのも両党へのけん制の意味もあったと思います。しかし『103万円の壁』(国民民主)や『教育無償化』(維新)の政策論議でどこまで折り合えるかは不明です」
いかがだろうか。政策論争が注目されている国会だが、一方で政局も両にらみになっているようだ。政策が優先だろうと思うが、人間がやっていることだからどちらも見ておかないとわからないこともある。夏には参院選もあるので野党も石破首相の思惑に簡単に付き合うようには思えない。これらを頭に入れて政策論争をあらためて追っていきたい。
それにしても「大連立」の正体を調べてみたら、幽霊だと思ってドキドキしていたものが枯れ尾花だったみたいなオチでした。
(プチ鹿島)
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