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「明日の犠牲者はこの方です。おやすみなさい」深夜、テレビ放送終了後に流れる謎の映像――怖すぎる「ネット怪談」の世界

文春オンライン / 2025年1月24日 6時0分

「明日の犠牲者はこの方です。おやすみなさい」深夜、テレビ放送終了後に流れる謎の映像――怖すぎる「ネット怪談」の世界

※写真はイメージ ©PantherMediaイメージマート

〈 「飯沼一家」「Q」「変な家」…現代ホラーの「怖さ」はどこから生まれるのか? ヒントは20年以上前の2ちゃんねるに眠っていた 〉から続く

「見たことがあるはず」の映像なのに、実際には存在しない。インターネット上には、そんな「ネット怪談」が数多く存在する。ネット怪談を民俗学の視点から紐解いた書籍『 ネット怪談の民俗学 』から一部抜粋し、こうした怪談の代表例である「NNN臨時放送」と「ヒトガタCM」と呼ばれる映像を紹介していく(全2回の2回目/ 前編 を読む)

◆◆◆

NHKの放送終了後、「受信料未払い者リスト」がテレビで流れていた?

 ファウンドフッテージは、どういう状況であったにしても見つかったもののことである。見つからないままのものを英語圏では「ロストメディア」(lost media)という。ロストメディアは単に古いから残されていないだけのものもあれば、諸々の事情があって公式には存在していないとされるものもある。

 他方で、インターネット時代に入って、個人が録画保存していたものが頻繁に掘り起こされるようになり、ロストメディアはそれだけで大きな文化的ジャンルとして成長することになった。たとえば2012年1月に設立された英語圏の代表的なまとめサイト Lost Media Wikiは数千にも及ぶロストメディアの探索状況を掲載している1。そこに超自然的な、あるいは非合理的な要素が見られるとすれば、それは容易に怪談に転化しうる。映像にまつわる不穏な過去は、映像本体がなくても成り立ちうるのだ。

 たとえば、2009年3月15日に公開されたクリーピーパスタ「キャンドル・コーヴ」(the Candle Cove)は、幼児番組の思い出を語っていた電子掲示板が舞台である。徐々にその番組(人形劇)が異常な内容であることが分かっていき、最終的に、自分たちが見ていたのは夜中の砂嵐だったという結末になっている2。これはクリーピーパスタなので創作であり、個人が最初から完成された作品を発表したものであるが、かすかに記憶に残る不気味な映像を電子掲示板で話し合うことは、2ちゃんねるでは現実に起きていたことだった。

 有名なのが「NNN臨時放送」(または「明日の犠牲者」)である。もともとは2000年11月、2ちゃんねるテレビ板の「何故か怖かったテレビ番組~第四幕目~」に投稿されたものである3。図31に引用したとおり、国家権力か、あるいは超常的な力が人間を計画的に「処理する」というディストピア的な想像を掻き立てられる投稿である。ことによっては異世界からの放送が紛れ込んだのかもしれないし、死神が映像として現れたのかもしれない。

 この番組は、ほかに見たという者がおらず、それがまた不穏さを増幅させているが、情報が限られていたため、はじめのうちは投稿のコピペが繰り返されるにとどまった。なお、怪談ではないが、NHKの放送終了後、砂嵐に続いて多くの人名が表示されることがあり、それは受信料を払っていない人の一覧だったという有名なうわさ話がある。1970年ごろから知られている4

「明日の犠牲者はこの方です。おやすみなさい」深夜、テレビ放送終了後に流れる謎の映像

 1980~90年代まで、深夜時間帯にテレビが放送休止していたころは、その時間帯に砂嵐やカラーバーではなく奇妙なものが映るという怪談が広まっており、日本でも1968年にはすでに語られていた5。テレビが映すものというよりも、テレビそれ自体の異常──「テレビを通して異界を垣間見られるかもしれないのと同じように、異界のほうも私たちのリビングルームをのぞき込んでいる6」という感覚があったのである。

 こうした超自然的メディアは、メディア論では「想像上のメディア」と呼ばれており、19世紀末から20世紀初頭にかけてすでに「科学的メディア(あるいは技術メディア)に、エイリアンや死体やその他の不気味なコミュニケーション形式が取り憑いているのではないか」というイメージがあったことが論じられている7。キャンドル・コーヴとNNN臨時放送はそうしたメディア怪談の系譜に連なるものではあるが、そこにロストメディアという曖昧さも付け加えているところが21世紀のネット怪談やネットホラーの展開を示しているように思われる。

ゴミ処理場を背景に「明日の犠牲者リスト」が流れる

 NNN臨時放送が現在まで響くインパクトを持つようになったのは、二度にわたって再現映像──逆行的オステンション──が制作されたことが大きな要因だろう。1つ目はFLASHアニメで、個人サイトに2002年10月ごろ公開された8。内容は単純で、カラーバーのあと、ゴミ埋立場の画像をバックに二十数名の人名が流れていくというものである(図32)。オリジナルはすぐに削除されたが、転載されたものが別のウェブサイトやニコニコ動画で公開され、今でも見ることができる。

 5年後の2007年8月2日には、新しく作られたバージョンがYouTubeに投稿され、NNN臨時放送の人気は不動のものとなった(2024年9月現在の再生数は約262万回9)。YouTube版は、より忠実に「ゴミ処理場」を背景にして、やはり人名を表示していくものであるが(図33)、幾度となく急に驚かせるジャンプスケア的な画像や音声が挿入され、ホラー映像としての質を高めている。

 なかでも4分11秒あたりで画面いっぱいに表示される白塗り顔の加工画像は、1年後にジェフ・ザ・キラーに流用されることになるものだった(前章参照)。またYouTube版はアナログで録画されたコンテンツをデジタルな媒体に転載するという再媒介的形式をとっており、その意味で、日本では最初期のアナログホラーだということもできる。

「グロさ」も「心霊要素」もないのに、怖すぎると話題になった「謎のCM」

 同じように不気味なテレビ映像のロストメディアとして知られているのが「踏切ヒトガタ」というCMである。このCMには、NNN臨時放送とは異なって多くの人々の目撃証言がある。それにもかかわらず、はっきりと踏切ヒトガタと言えるCMが見つかっていないことが、この映像をネット怪談と呼んでもいいものにしている。ネット上で最初に報告されたのは2ちゃんねるの広告・CM板にあった「(・∀・) 怖いCM第9夜(・∀・)」というスレで、図34のとおりである10

 この投稿に対しては、自分も記憶があるという返信がすぐに複数あり、曖昧だが「白い人型」を再現した画像へのリンクも投稿された。同月9日にはこの画像から簡単なFLASHアニメが作られ(図35)11、展開としてはNNN臨時放送と同じような逆行的オステンションが進められていった。ただ、スレンダーマンのときもそうだったが、あくまで再現でしかない動画が、「再現である」という情報を脱落させて無媒介性を強めることにより、本物の不気味なCMだと見なされることもあった。

 とりわけ、踏切ヒトガタのFLASHが「グロでも心霊でもないけど怖いCM」というコンピレーション動画としてニコニコ動画にアップロードされた際は(2007年6月11日12)、キャプションをよく読まないとそれが再現であることが分かりづらく、おまけに動画冒頭に配置されていたため、実際にこの映像が流れたという勘違いを生むことになった。

 踏切ヒトガタの映像は、最初の投稿から20年経った現在もなお熱心な探索が続いているものの13、いまだに発見されていない。これまで広告・CM板などでは多くの奇妙なCMが発掘されてきたので、これほど話題になっていても映像一つ拾えないのは不思議なことである。現在では国外にまでhitogataという表記で広まっているが、手がかりはつかめていない。

 踏切ヒトガタは、大量の死を直接的に扱っているのみならず、「人間」ではなく「ヒトガタ」──丑の刻参りなどの呪詛に使われそうな形象──が映し出されているという点でも不穏である。加えて、20年にもわたる探索という大規模な共同構築によってもその不確定性を払拭できない点が、逆説的に不穏さを強めている。もちろん、ある時点で現物が発見されて不安が一気に解消することはあるかもしれない。だがそのときまでは、踏切ヒトガタは言いようのない恐怖を持続しつづけるはずである。

◇◇◇

1. The Lost Media Wiki, https://lostmediawiki.com/

2. http://www.ichorfalls.com/2009/03/15/candle-cove; 現在は “NetNostalgia Forum - Television (local)”, https://ichorfalls.chainsawsuit.com/ 。庵田 2023b: 285–286 参照

3. https://curry.5ch.net/test/read.cgi/tv/971752442/ の206

4. http://www05.u-page.so-net.ne.jp/gc4/roti-rot/u_legends/u_led/city/c_rumor_33.html ( 2000年10月23日)

5.「この信じられぬ世界からの報告」1968: 123

6. Sconce 2000: 144, cf. ibid.: 124

7. パリッカ 2023: 80; Sconce 2000: 126–127

8. http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Oak/5703/

9. 「都市伝説 ─ NNN 臨時放送─」 、 「NNN 臨時放送」

10. https://tv6.5ch.net/test/read.cgi/cm/1088596641/ の854

11. 「怖いCM」

12. 「グロでも心霊でもないけど怖いCM」

13. https://w.atwiki.jp/commercial/pages/24.html は、2024 年も更新されているまとめサイト。 「ヒトガタCM 捜索スレ4」 は、5ちゃんねるにおける探索の本拠地。「 【都市伝説?】徹底検証!謎のCM「白いヒトガタ」の正体に迫る! これまでの経緯総ざらい【不気味なCM】紲星あかり 」は2020 年4 月20 日にYouTube に投稿された考察動画。 “The Creepy "Hitogata" Japanese Commercial -Lost Media Case Files Vol 3 | blameitonjorge” は2021 年4 月25 日にYouTube に投稿された、英語圏の怪奇映像考察系YouTuber による探索の過程。

(廣田 龍平/Webオリジナル(外部転載))

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