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西山朋佳女流三冠はあと一歩及ばず…試験官の柵木幹太四段は「全力でぶつかる将棋が楽しかった」

文春オンライン / 2025年2月4日 11時0分

西山朋佳女流三冠はあと一歩及ばず…試験官の柵木幹太四段は「全力でぶつかる将棋が楽しかった」

西山朋佳女流三冠

 夢の実現は惜しくもならなかった――。西山朋佳女流三冠が挑戦した棋士編入試験は第5局が1月22日に関西将棋会館で行われ、結果は試験官を務めた柵木幹太四段が勝利した。

 西山女流三冠は「五番勝負」の第1局を高橋佑二郎四段に勝ち、第2局を山川泰熙四段に、第3局を上野裕寿四段に敗戦。第4局は宮嶋健太四段に勝ち、史上初の女性棋士まであと1勝に迫ったが、最後はわずかに及ばなかった。

「務めを終えてホッとしました」

 第3局の試験官を担当した上野四段は以下のように言う。

「世間的には西山さんを応援する声が多いと思ったので、正直大変な立場だなと思いました。ただ、皆さんに注目される舞台で将棋が指せることは嬉しかったです。1勝1敗となって3局目が決着局になることはなくなったので、あまりプレッシャーを感じずに対局に臨めました」

 上野は試験官の中で唯一、棋戦優勝の実績がある。そのこともあって西山にとってはもっとも強敵となる見方が将棋ファンや関係者の中では多数を占めていた。

「編入試験に関する記事を拝見したとき、そういう風に書かれていることもあって感じてはいました。この対局に限らず棋戦優勝に相応しい活躍が求められていると思って、一局一局に向き合っています。試験官の務めを終えてホッとしました」

西山さんの大事な対局でぶつかる機会が多かった

 第3局の結果、西山は土俵際に追い込まれたが、第4局で宮嶋四段を破り踏みとどまった。棋士編入試験が最終第5局までもつれ込んだのは今回が初である。最終戦で大役を務めることになった柵木四段に話を聞いた。

「試験が決まった時、自分の出番があるかどうかは正直、五分五分だと思っていました。ただ、奨励会時代から、西山さんの大事な対局でぶつかる機会が多かったです。西山さんが次点を取ったリーグもそうですし、また西山さんの初段昇段の一局では負かされました。これまでのこともあって、回ってくるような気はしていました。その時は全力を尽くして指すと覚悟は決めていましたね。実際に決まって、来たか、という感じです」

 五番勝負の第5局は実現するかどうか、直前までわからない。ましてや大いに注目を集めることはまず間違いない一番である。

「第3局を終えた時点で、西山さんが2勝1敗なら回ってきてほしいと思っていました。自分を負かしてのプロ入りならより納得できるかと考えていたので。実際は1勝2敗だったので、どちらでもよかったです。ただ、回ってきてほしくない、という気持ちはまったくなかったです」

準備の甲斐があって、序盤はうまく指せた

 柵木は試験の第4局が指されたその日、同じく関西将棋会館で公式戦を指していた。

「終局後に宮嶋君が呆然としていました。昔から仲が良いこともあって、声をかけたのですが、どこかフワフワという感じです。夕食に誘ってみましたが、そういう気分じゃないと」

 そして、柵木の師匠である増田裕司七段は第4局の前日に宮嶋を見かける機会があったそうだ。

「いつもと違っていた、と師匠から連絡がありました。そのことでより普段通りに指せるかが大事だと認識しましたね」

 事前に第5局は柵木の先手番と決まっていた。西山は自らがもっとも得意とする三間飛車を採用。対局の流れについて柵木は以下のように言う。

「普段の私でしたね」。準備の甲斐があって、序盤はうまく指せたと振り返る。

 報道陣へ控室への入室が許可されたのは午後1時半だが、あっという間に席が埋まった。普段の対局では見かけない顔もある。わかっているつもりではあったが、改めて注目度の高さを感じた。その時点でAIの指し示す評価値はやや柵木持ちを示している。

 結果的に、評価値が西山の側に傾くことは一度もなかったのだが、柵木の見方は違っている。

「中終盤には甘いところがありました。運よく、西山さんからの攻めがなかった、という感じです」

勝負を分けた一手

 試験当日、増田七段は西山の師匠である伊藤博文七段と会う用事があったそうだ。

「しばらく雑談していました。『西山さんが勝ったら取材を受ける』と仰っていましたね。その後は1人で(日本将棋連盟モバイルの)携帯中継を見ていました。急戦で行くと見せかけての持久戦と、柵木がよく研究しているな、と。中盤で西山さんの飛車が遊んでいましたが、それほど形勢に差はないと見ていました」

 勝負を分けたのは107手目だろう。柵木が自玉近くの角取りを放置して、敵玉頭を歩でタタキ、さらに桂を打って寄せの拠点を築いた。動画視聴者からも踏み込んだ柵木の勇気をたたえる声は多く、増田七段も感心したという手順の組み合わせである。ただ柵木自身は局後の感想戦で「読み切っていたわけではなく、ただ開き直っていただけなので」と語っていた。

 後日に改めてこの手順について聞くと「自分も観戦者なら、オーッとなるかもしれませんが、他の棋士の方も公式戦なら指す着手だと思います」という返事があった。

 かくして柵木は勝利した。「柵木四段は決着局となる大一番で堂々と会心の内容の将棋を指されたことが素晴らしいと思いました」とは対局を見た上野四段の感想である。

 本局は「相手にとって大事な一局ほど全力を尽くさなければいけない」という「米長哲学」を柵木が実践した形となったが、「哲学があるからというのではなく、棋士にとって負けていい対局はありません」と断言する。

全力でぶつかりあい、楽しみながら指せた

 西山との一戦について、柵木はこうも語った。

「客観的に見て、西山さんと私の棋力はほぼ五分だと思うんです。そのような相手が全身全霊で向かってきて、こちらも全力でぶつかる。そういう将棋を指せるのが楽しいんです。将棋を楽しむ心は常に持っていたいと思いますし、実際、楽しみながら指せたと思います」

 ただ、このような勝負をもう一回指したいかと問いかけると、

「どちらかというとやりたくない側ですかね。三段リーグを指す苦しさに似ていると思います」

 再び棋士編入試験が行われて、その時に試験官を務めることになるであろう棋士へは「全力で立ち向かえば、勝っても負けても納得できる」という言葉を伝えたいという。

写真=石川啓次/文藝春秋

〈 「私なら絶対にそんなことは言えません」対局相手のプロ棋士も胸を打たれた、敗れた西山朋佳の“第一声” 〉へ続く

(相崎 修司)

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