【特集】台風被害・養老渓谷の旅館 １年ぶりに営業再開

　２０２３年９月８日の台風１３号に伴う記録的な大雨で、浸水被害を受けた養老渓谷の旅館が２０２４年９月７日、１年ぶりに営業を再開しました。

　　「廃業」か「再建」かで揺れながらも再開までこぎつけた、その道のりを取材しました。

　千葉県市原市と大多喜町にまたがり、房総随一の観光スポットとして知られる、養老渓谷。

　養老渓谷の市原市側に位置する旅館「喜代元」では、９月５日、部屋の清掃や料理の仕込みが進められ、“１年ぶり”に客を迎え入れる準備に追われていました。

　この旅館では、２０２３年９月の台風１３号に伴う記録的な大雨で、目の前を流れる養老川が氾濫し、調理場や宴会場がある１階が1.５メートル以上の高さまで水に浸かる被害を受けました。

　チバテレが初めて取材に訪れたのは、被災から４日後。

　県内からおよそ２０人のボランティアが集まり、水に浸かった食器や故障した調理器具を撤去したり、駐車場にたまった泥をかき出したりするなどの復旧作業が行われていました。

　旅館を経営する秋葉保雄さんは、やむなく年内の宿泊予約をすべてキャンセル対応したとして、悲痛な思いを口にしていました。

旅館「喜代元」秋葉保雄 代表
「冷静になって考えると、自然相手の商売なので、いま復興して、すぐ台風で被害にあわない保証もない。商売も安定した継続が不可能だなって判断すると、縮小や やめる判断も常に頭の中にある。県や国が、（大雨が）これだけ続いたのだから、“道路を高く水が浸からないように、周りのリスクを軽減するようなことをやります”と言ってくれれば、前向きに背中を押してもらえるような気持ちになる」

　２０２３年１０月、被災から１か月が経ってもなお、災害の爪痕が残っていました。

　庭や床下には泥が残り、館内の改装は手付かずのまま。

　それでも秋葉さんの心境には変化が見られました。

旅館「喜代元」秋葉保雄 代表
「（川の水が）来るはずではないのに急に来られてしまったので、自分の中では“廃業”を考える部分がすごく多かった。泥のかき出しとか大勢のボランティアが来てくれてあっという間に表が片付いた、みなさんから温かい支援をもらって“廃業はできないな”と思って、廃業から前向きに考えを直して、“もう一度やろうかな”という気持ちに変わった」

「廃業」から「再建」への決意を固めてから半年後。

　新緑が映える養老渓谷では、多くのレジャー客でにぎわいをみせた一方、旅館では、復旧作業が進められていました。

　床のかさ上げや、壁紙を張り替えるなど、１階部分の全面的なリニューアル工事です。

旅館「喜代元」秋葉保雄 代表
「（復旧の度合いは）まだ６割か７割くらい。川の形状が変わらないと安心して営業できない、県も工事を動き出してくれることになったので、とりあえず ほっとしている」

　こうして迎えた、２０２４年９月のリニューアルオープン。

　館内は、ヒノキをふんだんに使い、温かい雰囲気で宿泊客を包みます。

　故障した冷蔵庫や調理器具は新たに買い揃えられ、畳がはがれ、床板まであらわになった宴会場はご覧の通り。

　名物の「黒湯」で知られる温泉は、浴槽や洗い場のタイルも新調されました。

　再開初日の９月７日、旅館には早速、復活を待ちわびた客の姿が。

宿泊客は―
「リニューアルオープンしたら また泊まりたいと思っていたので予約した。すごく嬉しい、また泊まることができて。すごく大変だったと思うが（再開できて）よかった」

「すごいきれい。この辺りは昔からの旅館が多いと思っていたので、こんなきれいな旅館とは思わなかった」

　秋葉さんに再開までの道のりを振り返ってもらいました。

旅館「喜代元」秋葉保雄 代表
「２０２３年９月８日に水害に遭ってから、ちょうど１年になる。１年もかかったのかという見方と、１年でここまできたのか ここまで直せたのかという思いが両方ある。冷静になって考えれば “１年でここまでできたんだ” と、自分自身を褒めるわけではないが納得させている気持ちが強い」

　養老渓谷観光協会の会長も務める秋葉さんは、まずは１１月の紅葉シーズンに向けて、地域をあげて盛り上げたいと話します。

旅館「喜代元」秋葉保雄 代表
「ハイキングコースも水害で開通していない部分もあって、完璧な形でお客様を迎え入れる形にはなっていないが、養老渓谷の中の飲食店や旅館は元気に営業している、訪れるお客様に満足していただけるように、養老渓谷観光協会・会員を含めて頑張っていきたい」