“日本中に憎まれたヒール”ダンプ松本が誕生した理由 白石和彌総監督が見た過酷なショービズの世界
シネマトゥデイ 映画情報 / 2024年9月22日 7時15分
「本当は、松永さんは4兄弟なんです。もっと尺があれば4人を描きたかったのですが、都合上1人減らさなければいけなかった。なので4人をミックスして3人のキャラクターを作りました」
劇中ではその3人が、何とも狡猾に女子プロレスラーに寄り添ったり離れたりしながら、ライバル関係を演出し、手のひらで転がす。「ドラマの中にもありますが、実際にダンプ松本の控室に行って“昨日長与がお前のことぶっ殺すって言ってたぞ”とか言ったりしていたらしいんですよ」
まさに女子プロレスというショービズの世界で、使い捨ての駒のように選手を扱う3兄弟は、ファンの反感をかうかもしれない。それでも白石監督は違った解釈を見せる。
「ダンプさんや長与さんと松永兄弟の話をすると、皆さん“本当にあいつらは酷かった”って言うのですが、その表情は恨んでいないどころか、結構好きだったんだろうなって思えるような笑顔なんです。“好きだったんでしょ?”と聞くと“いや違う、本当にあいつらは酷かった”って言うのですが、裏腹なんですよね。その意味では『トムとジェリー』みたいな関係性で描ければいいなと思っていました」
1980年代にはたくさんの女子プロレスラーが存在していた。そのなかでスターになるためには、白石監督いわく「ただ役割をこなしていただけではダメ」。「年間300試合ぐらいやっていたと思いますが、そのなかでどれだけ際立つことができるのか。いつも観客の想像の上をいく試合をしたからこそダンプさんも、長与さんも飛鳥さんも大スターになれたんだと思います」と語る。
そしてそんな稀代のエンターテイナーたちが、バブル経済期のほとばしるようなエネルギーに溢れていた時代に乗って、大きなムーブメントが起きた。「ある意味でクラッシュ・ギャルズが誕生したからダンプ松本が生まれた。本当はダンプさんもクラッシュ・ギャルズのようにリング上で歌を歌うようなベビーフェイスになりたかったんだと思う。でも同期に先を越されたり、父親との関係など、たくさんの劣等感や負のエネルギーが大きな塊となって、極上のヒールレスラーが誕生したのだと思います」
“ショービズ”という世界において、組織に翻弄されながらも純粋にプロレスに向き合った結果から生まれた“極悪女王”。そんな生々しい姿は、多くの人の感情をわしづかみにするだろう。(取材・文:磯部正和)
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