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【レビュー】『室井慎次 敗れざる者』青島との約束から27年、時代が変わっても変わらない“室井さん”がそこに

シネマトゥデイ 映画情報 / 2024年10月11日 7時3分

 27年前の連続ドラマ「踊る大捜査線」(1997)からはじまり、社会現象を巻き起こした「踊るプロジェクト」が今年、12年ぶりに再始動した。柳葉敏郎演じる室井慎次が主人公で、本広克行(監督)&君塚良一(脚本)&亀山千広(プロデューサー)という黄金トリオが再集結した映画『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』だ。『敗れざる者』では、警察キャリアだった室井が志半ばで警察を辞し、故郷・秋田でひっそりと暮らしながらも、死体遺棄事件に巻き込まれる様子が描かれている。

警察を辞めても消えない、青島たちへの思い

 ほとんどのシーンがスーツ姿ではなかった。コートも脱いでいた。よれよれの白シャツにベスト、防寒着姿で料理や畑仕事をする、見たこともない“室井さん”。家族を持たなかった彼が、犯罪関係者の子どもたちを引き取って里親となっている様に、最初は驚愕した。だが、それは確かに“室井慎次”だった。

 「踊る」といえば、織田裕二演じる所轄の捜査員・青島俊作のはつらつとした笑顔を思い浮かべる人が多いかもしれないが、その対となる室井もまた、多くの人を惹きつけたキャラクターだ。シュッとしたスーツに、黒の(本人曰く「通販」の)コートをまとい、眉間にしわを寄せながら大勢の部下とともに湾岸署などに臨場した姿が印象深い。当初は警察官僚の一員として組織の歯車的行動が多かったが、青島と湾岸署の面々に大きく感化され、異色のキャリアとなった。室井は「現場の刑事が信念を曲げずに捜査ができるようにする。そう彼と約束した」ため、組織の中で奮闘を続けたのだ。青島とのその“約束”は、「踊る」シリーズ全体の根底をなす大きな軸だった。

 いまの室井の状況は、その軸が折れ、挫折してしまったように見える。自身も「守れなかった」と語っている。「踊る」が描いてきたものに共鳴していた人たちは、憤るかもしれない。だが、彼は室井慎次だ。不器用で真面目で一本気で、自らが間違っていたと思えばすぐに修正できる柔軟さを持っている男だ。彼からは、青島の思いも、彼らの上の世代に当たる和久平八郎(いかりや長介)と吉田副総監(神山繁)の思いも、決して消えてはいないように見える。

 独身で、おそらく警察キャリアだった時代はろくに家事をする時間もなかったと思われる室井。それが、古い家屋を掃除し、整理し、修繕しながら住んでいる。週に3日はカレーだと文句を言われながらも食事を用意し、レシピ本を参考に不器用なキャラ弁を作る。母親が殺された過去を持つ森貴仁(タカ/齋藤潤)や、父が犯罪者の柳町凜久(リク/前山くうが・こうが)、「踊る」史上最悪の凶悪犯・日向真奈美(小泉今日子)の娘・杏(福本莉子)ら里子たちへの誠実で真剣な対応。石津百男(小沢仁志)や長部音松(木場勝己)ら地元の人たちにつめられても、もどかしいほどに言葉が少ない。そのまっすぐさは、違うフィールドの異なる形であっても、彼が室井慎次だという証だ。そんなふうに人の生き様を描き続けられるのも、長く続くシリーズだからこそなのだろう。

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