是枝裕和監督「阿修羅のごとく」リメイクは四姉妹の「自立」重視 現代の視聴者に向けアップデート
シネマトゥデイ 映画情報 / 2025年1月17日 7時15分
「先に『海街』を撮ったけれど、僕の中では四姉妹ものといえば『阿修羅のごとく』の方が先。『海街』もいろいろな切り方、解釈の仕方があると思うけど、僕は父親がいなくなることによって三姉妹が四姉妹になり家族になっていく物語だという風に思っている。『阿修羅』はその逆で、母親がいなくなることによって、それまで結束していたかのように見えた四姉妹が対立し、亀裂が浮き彫りになっていく。そういう意味では二作品が表と裏とも言えるのではないか」
「阿修羅のごとく」は、真面目で寡黙な父・恒太郎に長年愛人がいたことを三女の滝子が偶然知り、姉妹を招集するところから始まる。是枝監督はシナリオの面白さを、こう語る。
「父親の浮気は、池に放り込まれた小石のようなものであって、実はその下ですでに対立は起きている。それは第1話での姉妹のやり取りを見ていてもわかる。父親の浮気問題でみんながざわざわしてるけど、実は巻子はその話よりも夫の浮気の方が気になっていて、夫・鷹男に間接的に毒を吐いている。そして滝子と咲子の根深い確執があそこで浮き彫りになるし、それは決して父親の浮気が原因で起きているわけではない。その事件をきっかけにあの家族が長年抱えてきた問題がふっと見えてくるのがすごくいい。そういう描き方が面白いなと思うし、そういう描き方をしたいなとも思いました」
~以下、ネタバレを含みます~
是枝監督がリメイクするにあたり初めに考えたのが、次女・巻子のキャラクターをいかにアップデートするかということ。例えば、第1話で四姉妹が浄瑠璃「日高川入相花王」を観た帰りに実家に集まり、母・ふじ(松坂慶子)、父・恒太郎(國村隼)、巻子の夫・鷹男(本木雅弘)らと寿司を食すシーンでは、「このうちで一番怖いのは巻子じゃないの?」とふと言った綱子に鷹男は「うちだってもうすぐ20年だ。大体女房が何考えてるかくらいわかりますよ」と余裕を見せ、綱子が「甘い甘い、それじゃやられちゃうな鷹男さん、(後ろから)グサッて」とツッコミを入れる。それに対して、巻子はすかさず「あら、やるなら正面からよ」と返す。この巻子のセリフはオリジナルのもので、NHK版の巻子よりも“黙っちゃいない”人となりがのぞく。
「そのままの設定だと、おそらく巻子が一番共感しづらいキャラクターになってしまうなと思った。専業主婦で夫の帰りを悶々としながら待つ女性を、どうすれば大きく変えずに、アップデートできるのかというのは考えました。最終的には夫をやり込めて勝つ方向に着地させてみようというふうに。同様に、咲子もNHK版だと芽の出ないボクサーと同棲していて、夫に従属していく感じだけど、むしろ彼女の自己実現のために恋人を成功させるというふうに逆転して、少しずつ全員の女性像を自立させて、自己肯定感を強める方向に輪郭を変えていきました」
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