是枝裕和監督「阿修羅のごとく」リメイクは四姉妹の「自立」重視 現代の視聴者に向けアップデート
シネマトゥデイ 映画情報 / 2025年1月17日 7時15分
アレンジと言えば、巻子と綱子が観る薪能の演目が「班女」から「杜若」に変えられている。これは、NHK版で向田が小津安二郎作品を意識したであろうことから取り入れたという。
「向田さんはホームドラマにセックスを持ち込みたいというコンセプトでこのドラマを書き始めていて、演出の和田勉さんとの間で話題になっていたのが小津映画だった。それでシナリオを書くにあたってずいぶん小津作品を参照しているらしい。小津映画で能が出てくるのは『晩春』(1949※父の元を離れたがらず結婚を拒絶するヒロインの物語で、男性と性的関係を持つことを嫌悪しているのが見て取れる)。紀子(原節子)が父・周吉(笠智衆)と見に行くと、そこに父の再婚相手と疑う女性がいる。そこでの紀子と女性の目線のやり取りで延々と映し出されるのが『杜若』だった。あのシーンは『晩春』から持ってきているはずで、そこから取りました。それと、滝子が実家に戻ってきたときに父親の部屋に布団を運んできて隣で寝るシーン、あれもおそらく『晩春』から来ている。そういうふうに、間接的に小津を引用したシーンがいくつかあります」
そのほか目を引くのが、実家・竹沢家や四姉妹の住まいなど、1970年代を再現した美術。とりわけ実家の家屋は物語の設定上、「縁側」「木戸」を備えていることが必須となり、この条件を満たした物件は「すさまじく大変だった」と是枝監督は振り返る。
「制作部が頑張ってくれました。(鎌倉を舞台にした)『海街』のチームを中心にしたスタッフが鎌倉を熟知していたおかげですね。竹沢家のみならず、四姉妹の家それぞれにリアリティーをもたせつつ描き分けました。昭和初期からある家。例えば巻子の家はあの時代の部長クラスが住む一戸建てで、東京からちょっと離れている。一番お金のない咲子が住む風呂なしアパートなど、四姉妹の住環境の違いは結構こだわって美術を三ツ松けいこさんと話して作っています。巻子の家にある壁かけの金魚の水槽なんかは実家にある調度と違っていて面白かったですね」
『誰も知らない』(2004)、『歩いても 歩いても』(2007)、『そして父になる』(2013)、『万引き家族』(2018)、『ベイビー・ブローカー』(2022)などで、さまざまな家族のかたちを描いてきた是枝監督が、新たな家族劇の傑作を生み出した。(取材・文:編集部 石井百合子)
参考文献:
「阿修羅のごとく」(文春文庫)向田邦子著
「向田邦子、性を問う 『阿修羅のごとく』を読む」(いそっぷ社)高橋行徳著
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