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「意外と今までの人生も悪くないと思えてきた」“ひとり旅ビギナー”おづまりこさんが旅から学んだこと

CREA WEB / 2024年3月19日 7時0分


おづまりこ『ゆるり より道ひとり旅』

 今年1月に発売された、おづまりこさんの旅コミックエッセイ『ゆるり より道ひとり旅』(文藝春秋)。

 収録されているのは、美味しそうなお店や立ち寄りたくなるスポットがいっぱい詰まった、京阪神エリアの6つの旅。のんびりとした旅が読者の共感を呼んでいます。

 しかし意外なことに、つい1年程前までおづさんは旅が苦手だったそう。そんなおづさんが旅の本を出すにいたった舞台裏をお聞きしました。


初回の旅は大好きなパンをテーマに


おづまりこ『ゆるり より道ひとり旅』

――苦手だった「旅」を描くことにしたきっかけは何ですか。

 2019年頃に、ふと「そろそろ旅がしてみたい」と思ったんです。苦手を克服したいし、チャレンジするなら今だと思っていろいろと企画したんですが、いざ行こうとしたらコロナ禍になりどこにも行けなくなってしまって。実家に帰省すらできない日々でした。行けないと「行きたい」という思いが募るんですよね。

 旅行解禁後に、とりあえず京都に行ってみました。世界中から旅行客が集まる観光地だし、ノープランでもなんとかなる!と思ったんですけど、実際は全然楽しめなかったです。帰って来たときに、「え、なんだったんだろう……これは」って。

 振り返ってみて、私の場合は「事前にテーマを決めてから行った方が良い」ということに気づいたんです。そんな反省から生まれたのがその後の旅であり、この本です。

――ひとり旅ビギナーのおづさんが6つの小旅行を通じて、どんどん旅行エキスパートになっていく様子が面白かったです。

 まさに、旅をしながら慣れていくっていう感じでしたね。

 第1章「京都で思いっきりパンづくし」のときはまだ旅が苦手だったので、日常の延長線上を意識しました。「普段好きなものから入った方が気軽に行けるかも」と考えて、初回は「京都で美味しいパンを食べる」というテーマにしたんです。関西の実家に帰省できなかった時期にネットでお店をチェックしていたら、京阪神の行きたいお店が溜まってしまって。

 そう決めた後は移動手段を地下鉄に絞り込めたし、すんなり予定が決まっていきました。京都は学生時代に住んでいたこともあって、土地勘があったのも良かったです。

 マイリストや雑誌の情報をもとに行くお店を厳選したら、最新情報をネットで確認。出発前に行きたいお店をしっかり決めておいたので、安心して出発できました。

――出発前から旅が始まっていらっしゃるのが良いなと思いました。

 自分にとって旅行は、出発前が7割くらい。先に何をするか決めてから行った方が良いと実感したのもありますが、準備そのものが楽しいですよね。

 カバンに荷物を詰めている段階で、いつものお出かけとはちょっと違う。スーツケースを用意したり、旅行用に新しいものを買う楽しみもあるし。服もやっぱり、普段とちょっと違うものを着たり。

「京都で思いっきりパンづくし」の前は、1週間パン断ちをするところから始めました。もともとパン好きなので毎日食べていたんですが、行く前にパンを食べていない方が、より楽しみが増すかなと思って。

「旅のミッション」はたったひとつでいい


おづまりこ『ゆるり より道ひとり旅』

――苦手と言いつつ、最初の「京都で思いっきりパンづくし」の旅からちゃんと楽しんでらっしゃいましたね。

 楽しかったですね。めちゃくちゃパンを買い込みました。冷凍することが前提だったので、冷凍庫に入る量から逆算して、「この保冷バッグがいっぱいになったら終了」と決めて。

 ただ、「わたしの1ヶ月1,000円ごほうび」という連載をやっているせいか、お店に入ると不思議と1,000円以内で購入しようとするんです。私の場合は、何か制限があった方が選びやすいし、制限の中で考えることがすごく楽しいみたい。「今日食べる分、明日の分、あともう1個食べたいな」と。3個で1,000円分買ったら、このお店はコンプリート、みたいな。

 旅の枠組みの中でも、「あのお店のあれを食べよう」とか、核となる”やりたいこと”をひとつ決めています。「そこのお店に行ったらミッション完了」くらいの気持ちでいいんじゃないかと思っています。

 実際、「京都で思いっきりパンづくし」の旅のときも昼間にパンを食べたら満足して、夜はラーメンを食べていましたから。

旅の余白が余韻になり、心の余裕になる


おづまりこ『ゆるり より道ひとり旅』

――第3章「兵庫で夏の日帰り温泉旅」のときは、だいぶ旅慣れた様子でした。

 温泉は何度かひとりで行ったことがあるので、慣れていた分ハードルが低かったんです。日帰りなのも気楽でした。泊まると荷物も増えるし、お金もかかるし。あと、ホテルを選ぶのが最初の難関なんですよ。どこがいいかな、駅から近い方がいいのかなと悩んでいるうちに予約が埋まっちゃう不安があって。だから、ホテルの予約が必要ない日帰り温泉旅は、自分にとって出かけやすかった。

 反対に、昔から遊園地には「行くからには楽しまなきゃ」という謎のプレッシャーを感じてしまいます。できるだけアトラクションに乗るためには、優先順位を決めて段取らなくちゃいけない。その場の空気に飲まれてしまう感覚になるんです。郷に入っては郷に従えと思って、それはそれで楽しいのですが。

 でも温泉なら、温泉があるところに自分が行くだけ。私が行こうが行くまいが、温泉はそこにずっとある。だからプレッシャーが少ないんです。あとは好きにすればいい。

 このときはマンガの3ページ目で温泉に浸かっていますが、その時点で旅の目的を100%達成しているんです。お湯に入った瞬間に「これのために来たんだ」と思って、コンプリート。その日のミッションが終わるんですよ。それ以降は余白っていうか。

 いくつか旅をしてみて、「私は余白が多い旅が好きなんだな」と気づきました。ミッションコンプリート後のプラスアルファ、その余白が多ければ多いほど良い。

 旅行から帰ったとき、余白をどれだけ楽しんだかで持ち帰るものの大きさが違うんです。旅の余白が帰宅後の余韻になる。そして日常に戻って忙しい毎日が続いても、良い体験をした余韻が残っていると、それはそのまま心の余裕になるんです。

「兵庫で夏の日帰り温泉旅」は完全に余白の旅。温泉に浸かった後の足つぼマッサージも、1万冊あるセレクト読書コーナーも、全部余白です。本を読んでいた2階では、寝ている人もいるし、全員だらだらしていて。ここは何もしなくて良い場所なんだと思って気が楽でした。

意外と世界は優しかったし、自分はちゃんと楽しめる


おづまりこ『ゆるり より道ひとり旅』

――6つの旅を終えて、旅に対してのイメージはどう変わりましたか。

 1年前は「どうやら旅はいいらしいぞ」と思いつつ、苦手意識が強くて。今は「旅っていいねえ」という気持ちだけがあります。

 当時はパッケージツアーのイメージから、旅行といえば海外、飛行機。日常と全く違う場所に行って、普段と違うことをしないといけないという固定観念がありました。日数もお金もかかるし、長年取り組んできた「節約」の対極に「旅行」があって、ずっと私にはムリだと思っていて。

 でも、やってみたら意外と何でも旅になるんですよね。1泊2日で隣の町へ行って日常から少し離れるだけで、気分転換になる。自分の好きにしていいということがわかりました。最後の「京都で懐かしおもいで旅」では、それまで欠かさず買っていた自分へのお土産を買っていないばかりか、帰宅するまでそのことに気づきもしなかったんです。

 旅という目線で切り取ると、見慣れたものも違って見えてくるという発見もありました。今は関西在住なので関西近郊を巡ることが多いのですが、近くの場所でも“旅フィルタ”を通すことで見えてくるものがあります。以前住んでいた場所に行ってみるのも面白いですよね。東京を離れて1年以上経ったので、そろそろ東京へ旅行してみたいです。今行くとまた違う風に見えるかなあと。

――旅を通じて、おづさん自身はどう変化されましたか。

 ちょっと明るくなったというか、視野が広がったように思います。旅って、行こうと思ったら行けるものなんだなと。

 第5章「神戸アンティークときめき探し」では、ひとりでバーへ行くと決めたもののすごく不安があったんです。知らない土地の初めてのお店だし、嫌な気持ちになったらどうしようと。でも、行ってみたら優しい人ばかりで楽しく帰って来られました。


おづまりこ『ゆるり より道ひとり旅』

 意外と世界は優しかったし、自分はちゃんと楽しめるんだという自信がつきました。ひとりを本気で楽しむには、経験が必要なんだと思います。普段読んだり考えたりしていること、時間そのものが、全部旅に出てくる。

 ひとり旅は「ひとりですることの集大成」のような感じ。旅を重ねるにつれ自信もつくし、行きたいこと、やってみたいことが増えていきます。

自炊と一緒で旅は慣れてくると楽しい

――おづさんが考える旅の魅力って何でしょう。

 食は旅にとって大事な要素だと思います。食べたいものを食べられたときの満足感ってすごい。後から写真を見て「これ美味しかったな」と振り返りながら、匂いや味を思い出して、「またあそこに行きたい」という気持ちになれます。

 第4章「再びの大阪食いだおれ旅」で行った、かすうどん専門店には大阪グルメの要素が凝縮されていました。うどんの美味しさ、お客さんの会話やお店の雰囲気。私は音楽のライブが好きなんですが、その一瞬のその場所にしかないライブ感がありました。


おづまりこ『ゆるり より道ひとり旅』

 第2章「食の都・大阪を再発見!」で行った台湾カフェの店主さんとお話ししたときに実感しましたが、旅先で知らない人としゃべるのも楽しいですね。誰かとあんなに台湾の話をしたことがなかったので、忘れられない思い出になりました。心がちょっと温かくなって、旅をしたなって。旅好きの人たちが「現地の人との交流が楽しい」と言っていたのはこういうことだったのか、と初めてその言葉の意味を理解しました。


おづまりこ『ゆるり より道ひとり旅』

 そうやって旅をしていると自分を振り返る時間もあって、意外と今までの人生も悪くないと思えて来たんです。自分のことがわかっていないと「ひとり旅が楽しい」なんて思えないだろうし、ひとり旅を楽しめるところまで来た達成感のようなものがあります。

 この本を見て「ひとり旅をしてみよう」と思ってプランを立てる方がいても、たぶんそれぞれ違う旅になるはずで。その人の歩んで来た道によって、全く違うものを見ようとすると思うんです。

――読者に向けて、最後に一言お願いします。

 今回の本の感想を見ていると、これまでよりも幅広い層の方に手に取っていただいているのかなと感じています。10代の方や男性もいらっしゃるようで。いろいろな方に楽しんでもらえたら嬉しいです。

「あまり旅しないので楽しめるかなーと思っていましたが、読んでみたら、こんな旅があるんだ!とときめいた」というメッセージをいただいたときは、私と同じような人がいたんだなと共感しました。

 この本の旅を通じて、私自身が「旅っていいな」と気づくことができました。行けば行くほどちょっとずつ楽しくなるから、旅は慣れですね。慣れてくると楽しい。自炊と一緒です。

文=松山あれい

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