「自分の旦那の愚痴だけは言うてもええんです」103歳の石井哲代さんが仲間とのおしゃべりを大切にする理由
CREA WEB / 2024年3月31日 11時0分
「こんなかわいいおばあちゃんになりたい!」「人生の目標にしたい」という声が広島から全国に広がり、初めての著書『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』がベストセラーとなった石井哲代さん。
続編となる新刊『103歳、名言だらけ。なーんちゃって 哲代おばあちゃんの長う生きてきたからわかること』は「哲代さんが自分の心に言い聞かせている言葉たち」をまとめた、まさに“名言だらけ”の一冊。その中から一部を抜粋してご紹介します。
分かち合える幸せ
哲代さんには半世紀もの間、大切にしてきた場所があります。地域のおばあさんたちが週1回集まる「仲よしクラブ」です。1973年に哲代さんの呼びかけで発足し、今も毎週月曜日の午前に開いています。「縁あって、この地に暮らす仲間ですけえ。一緒に笑って泣いて生きてきました」と哲代さんはこれまでの日々をかみしめます。
仲よしクラブは私が53歳のときに始めました。もう50年ですか。こんなに長く続くなんて思いもしませんでしたなあ。
この辺りはみんな農家でしょう。あのころ、草刈り機とか便利な農機具が急速に広まってね。それまで農作業で働きづめだった近所の姑たちが、一人でぼんやりと田のあぜに座ってる姿があちこちで見られるようになりました。すさまじい光景でね。「ぼけ老人の里」になってはいけんと思うてね。学校が休みの日曜日の朝に集まることにしました。
初めのころは、私よりも年上の明治生まれの女性ばかりでした。私が言い出したからには、おしゃべりだけじゃなく、みんなの心が一つになれるようなことをやりたかった。それで、誰もが夢中になれる音楽を思いついたんです。
お金をかけずに楽しめるでしょう。私も小学校で教えていることを、そのままやればいいわけ。あの時代ですから、みんな自分が演奏するなんて初めてのことです。大きな紙に楽譜を書いて、出番を順に決めてね。それはそれは一生懸命でした。とは言っても楽器はないから、フライパンやらバケツやら音が出るものを持ち寄って棒でたたくんでございます。
中には、壊れたおもちゃの木琴もありました。カタコトカタコトまともな音は出んのじゃけど、そのおばあさんは大演奏家のようなそぶりでダーッと悦に入って鳴らすんです。音が外れても気にしないの。気持ちよく演奏してくれるのが私はうれしゅうてね。あー、今でも目に浮かびます。みんなもどんどん元気になって、ほんまにうれしかったなあ。
徐々に、仲よしクラブのある日曜日の朝だけは家の人も「公認」で、みんな堂々と出かけるわけ。フォークダンスをしたこともありましたが、今はもう長いこと大正琴をやっています。
悲しみもつらさも、みんなで分かち合う
50年間変わらないのが、おしゃべりで盛り上がることですなあ。集まってお茶を飲みながら、面白い話をするんです。どんな話題かって? 悪口は絶対に駄目ですが、人を傷つけない噂話は大いにしました。そりゃあ噂話じゃないと人は寄ってきませんもの。あとは、自分の旦那の愚痴だけは言うてもええんです。私も良英さんの小さな愚痴を大きく盛って話していました。良英さんにしたら迷惑な話でしょうけど。ぷぷ。でも他の人からすれば「先生もあれくらい言うんじゃけん」って話しやすいムードをつくれたんじゃないでしょうかな。
どうにかしておとなしい人にも話題を振るんです。仲よしクラブに来たら必ずいっぺんは口を開いてもらうん。ここに来てよかったって思って帰ってほしいですから。この村(集落)に住んでいる以上は、村の人のことを知っておいてほしいし、何より誰も孤立せんようにしたかったんです。
今ではメンバーもすっかり代替わりしましたねえ。別れをたくさん経験しました。だから毎年12月には、大切な仲間をしのぶ会を開いています。その年に亡くなった人の名前を包装紙の裏に書いて、みんなでお経を読むんです。見てください。毎年書き足すから、こんなにようけ名前があるんでございます。
懐かしい名前をみんなで見つめ、一人一人の名を読み上げてみるとその人の姿が鮮やかに浮かぶんです。死んでも終わりじゃない。私らの心がちゃんと覚えとります。悲しみもつらさも、みんなで分かち合うからこそ乗り越えてこられたんかもしれんなあ。
仲よしクラブをやることで、地域に目が向くようになりました。私も仕事や家のことを必死でやっていた生活から、少し世界が広がりました。普段はばらばらに暮らしていても、仲よしクラブの日だけはみんなが集まって刺激を受け合うん。そうやって日常に変化をつけるのはええことです。自分で変えようとしないと、ひとりでに変わるなんてことはありません。みなさんも、そう思うてくれとったんかもしれんなあ。仲よしクラブは私たちにとっての遅い遅い青春、ちょっとした革命でした。
文=石井哲代、中国新聞社
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