「俳優は自分自身に呪いをかけてる」 山﨑賢人が大作の主役を任されても ムード作りを意識しすぎない理由
CREA WEB / 2024年4月20日 11時0分
『キングダム』シリーズに、『ゴールデンカムイ』と、日本映画のアクション大作には欠かせない存在となった山﨑賢人さん。4月19日からは、主演映画、安倍晴明の青春時代を描いた『陰陽師0』の公開も控えています。
そんな山﨑さんに、主演を背負う心構えや、安倍晴明への共感を聞いていくうちに、「俳優とは、自分に“呪(しゅ)”をかけるようなもの」という、興味深い話題にたどり着きました。
「事実だけを見ようとしている」というところが面白い
――山﨑さんは、陰陽師という職業の人たちや、安倍晴明というキャラクターにどのようなイメージを抱かれていましたか?
陰陽師って、目に見えないものを操ったりする“呪術”が使えていた人なんですよね。当時は、その人たちが公務員として働いていて、方角を見て国の動きなどを占っていたりとか、特に安倍晴明は「狐の子」とも言われたりしていたということは知っていました。
僕自身は、『陰陽師0』に出てくるような不思議な体験はしたことがないけれど、でも陰陽師が実在した職業だと思うと面白いし、「これって本当かな?」と思いながらも、当時のことをいろいろ想像を巡らせたりできると言う意味でも、この作品が好きです。だからこそ、陰陽師や安倍晴明が何度も映像化だったりメディア化されてきたんだと思うんです。
――今回の山﨑さんが演じる安倍晴明は、陰陽師になる前の学生時代の姿を描いた作品になっていました。これまでに描かれていなかった安倍晴明を演じる上で、どんなところを意識されましたか?
シンプルに監督の佐藤嗣麻子さんが書かれた台本に忠実に演じようと思いました。まだ陰陽師になる前の学生の晴明なので、乗り越えるべきものを、まだ乗り越えていない姿を意識しました。
晴明が「事実だけを見ようとしている」というところは、面白いなと思いました。晴明って、けっこう人に思ったことをストレートに言ってしまうキャラクターなので、性格が悪いように見えるかもしれないんですけど(笑)、性格が悪く見えすぎないように演じようと思いましたね。
特に源博雅(染谷将太)のことを「バカ!」って言うような場面もあるんですけど、晴明からすると事実を言ってるだけだと思うし(笑)、そんな博雅とのやりとりも、見ている人に「いいバディだなあ」って思ってもらえたらいいなと考えながら演じていました。
大作の主役を次々任されても、自然体で臨める理由
――主役をする上で、ムード作りはされますか?
自分の場合は、器用なほうではないので、自分を作ったりして、ムード作りをやろうとしても、うまくできないほうだし、やってると疲れちゃう人だと思うんですよ。だから、ありのままでいるようにしています。話しかけるタイミングがあったら話しかけるし……。でも、挨拶は大事なのでちゃんとしますけど、話題も思い浮かんでないのに無理して話かけたりすることは、やめるようにしています。
――そういう山﨑さんの正直な部分は、安倍晴明の「事実だけを見ようとしている」というところに繋がっているような気もしますね。
そうですね。関係あると思います。僕も、毎日いろんな人に会いますし、いろんな考え方を持ってる人がいっぱいいる中で、自分が信じるものは、「今」しかないと思っています。「今」このチームで、この場所で撮影をしていてっていう事実しかなくて、そこでやるしかないなっていう考え方を普段から大切にしているので。だから、『陰陽師0』には共感する部分がたくさんあります。
例えば、主観と客観のそのどちらも現実という博雅の言うセリフなんかも、考えると、結局は「今」という事実のことを言っていると思うんです。だから、「今」というものだけを感じて、「今」を頑張れば、いい方向に行くんじゃないかっていうメッセージを映画からも感じ取ってもらえたら嬉しいなと思います。
染谷将太と作り上げる「バディ感」
――この映画は、博雅と晴明とのバディもひとつの見どころになっていると思います。演じるにあたって、染谷さんと、どのような話をしましたか?
染谷くんも、取り繕ったりとか、嘘の感情でコミュニケーションをとったりする人じゃないので、自然体な形でふたりでいられたことが、映画の中の関係性にも自然ににじみ出てたんじゃないかなと思います。やっぱり、ひとりだけ頑張っても、から回っちゃうと思うし、バディ感ってふたりで生み出すものだと思うので。
実際には、映画の撮影に入るまでにも、乗馬の練習とかで、染谷くんとは一緒にいる時間がたくさんあって、その時間を経て現場に入りました。だから、その空気感は映画に出ていると思いますね。
ほかにも嗣麻子さんが事前にワークショップみたいな感じで、晴明と博雅の役を入れ替えて演じてみようということも提案してくれたり、そういう準備期間がたくさんあったし、自然になんてことない話をいっぱいして過ごしたことも、よかったと思います。
――晴明と博雅の良い空気感が、色濃くにじみ出ていたと思える場面というのはありましたか?
晴明と博雅のふたりでお酒を飲んでいる場面なんかは、染谷くんと過ごした時間とか空気感がすごく自然に出ているんじゃないかと思いました。普段は、染谷くんのほうが割と落ち着いていて、僕はまあいつもこんな感じなんですけど(笑)、でも対照的というのでもなくて、違うところは違うけれど、向いている方向とか、やっぱり一番には「空気感」っていうのは、似た感じなのかなって思います。
俳優業とは自分で自分に“呪”をかけること
――『ゴジラ-1.0』で米アカデミー賞でも評価された白組によるVFX(ビジュアルエフェクツ=視覚効果)も素晴らしい作品ですが、実際に山﨑さんが出来上がった映画を見て、どのような感想を抱かれましたか?
素直にすごいなと思いました。現場では想像でしかなかったものが、あれだけリアルな表現になっていて。やっぱり、自分から龍が出たりするシーンを見ると、テンション上がりました(笑)。「水の龍出したわ!」って。すごい嬉しかったです。
――VFXの効果を使った映画では、いないものを想像しながら演じることが多いと思います。現場では、どのような感覚なのでしょうか?
晴明が“呪(しゅ)”をかけているように、自分自身にも“呪”をかけている感じですかね。嗣麻子さんと染谷くんと3人で、そういう話もしました。「俳優業って、自分で自分に“呪”かけてるよね」とか、「そもそもみんな“呪”かかってんじゃん」とか、「集団で“呪”にかかって作品作ってるから、みんなで同じものが見えてるんだよね」みたいなやりとりをしていて、そういう話ができること自体が面白かったです。
だって考えたらそうですよね。自分から龍が出てるって信じて演じるわけだし、怪我してるシーンだったら本当に痛いと思ったりすることもあるし、悲しくないのに悲しいって自分で思って演じるわけだし、今ここにある水も日本酒だって思ったら日本酒に感じるかもしれないし。『陰陽師0』自体が、そういう話なんですよね。
――演じていて「龍」が見える瞬間があったりとか?
それはねえ……、残念ながら龍は見えなかったんですよね(笑)。
山﨑賢人(やまさき・けんと)
1994年生まれ。東京都出身。近年の主な主演作品として映画『羊と鋼の森』(2018)、映画『キングダム』シリーズ(19〜23)、映画『劇場』(20)、Netflixドラマ「今際の国のアリス」シリーズ(20、22)、映画『夏への扉−キミのいる未来へ−』(21)、TBSドラマ日曜劇場「アトムの童」(22)、映画『ゴールデンカムイ』(24)などがある。今後、映画『キングダム 大将軍の帰還』の公開が控え、Netflixドラマ「今際の国のアリス」シーズン3の制作も決定している。
[衣装クレジット]
ジャケット 462,000円、シャツ 341,000円、パンツ 231,000円、ブーツ 209,000円、ベルト 97,900円/以上サンローラン バイ アンソニー・ヴァカレロ(サンローラン クライアントサービス 0120-95-2746)
ウォッチ 4,356,000円/ウブロ(LVMHウォッチ・ジュエリー ジャパン株式会社 ウブロ 03-5635-7055)
文=西森路代
写真=平松市聖
ヘアメイク=髙橋幸一(Nestation)
スタイリスト=伊藤省吾(sitor)
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