「イシナガキクエを探しています」皆口大地と大森時生が“新時代のフェイクドキュメンタリー”に仕掛けた秘密
CREA WEB / 2024年5月7日 17時0分
ホラークリエイター大集結の新番組の裏側
4月29日の深夜24時30分にテレビ東京系で放送されるやSNSを騒がせた「TXQ FICTION」。この謎めいた番組を深夜に目撃して驚いた人も多かったはず。
そんな本作だがスタッフの顔ぶれが実に豪華。プロデューサーは「このテープもってないですか?」「祓除」などで知られるテレビ東京の大森時生さん。そして大森さんと共に制作に関わるのが、登録者数96.6万人のホラーバラエティYouTubeチャンネル「ゾゾゾ」のディレクターである皆口大地さんだ。
さらに、皆口さんとホラーYouTubeチャンネル「フェイクドキュメンタリーQ」を作り上げたJホラー界の重鎮・寺内康太郎監督に、映画「ミッシング・チャイルド・ビデオテープ」で「第2回 日本ホラー映画大賞」を受賞した近藤亮太監督まで参加しており、まさに“日本ホラー界の今”を支えるクリエイターが集結した番組となっている。
今回は謎の番組「TXQ FICTION」の仕掛け人である皆口大地さんと大森時生さんに、番組のコンセプトや制作秘話について伺った。
目指すのは“フェイクドキュメンタリーの専門番組”
――第1話「イシナガキクエを探しています」で多くの視聴者を驚かせた本作のコンセプトを伺いたいです。
皆口 端的に言うと、フィクションをノンフィクション風に見せる手法である“フェイクドキュメンタリー”をテーマにした番組ですね。自分は“フェイクドキュメンタリーといえばこれ”と今語られるシリーズを作りたいと常々思っていました。フジテレビさんの人気ドラマ「世にも奇妙な物語」は、そのタイトルを聞けば“不可思議なショートドラマ集”だと頭に浮かびます。それの“フェイクドキュメンタリー版”がやりたいと思ったんです。
――第1話「イシナガキクエを探しています」は、“視聴者参加型の人探し特番”という構成が印象的でした。
テレビ愛を込めたかった
皆口 テレビ番組でフェイクドキュメンタリーをやるとなったときに、最初に浮かんだアイデアが“テレビ番組の中でテレビ番組をやる”というものでした。というのも、フェイクドキュメンタリーは低予算でも撮れる手法ですが、このアイデアの場合はテレビ番組の潤沢な予算がなければできないものなので。
あとは自分のテレビ愛を込めたかったという側面もありますね。自分、テレビっ子なんですよ。「ゾゾゾ」はかつてゴールデンタイムでやっていたオカルト番組のオマージュですし、「フェイクドキュメンタリーQ」は深夜に人知れずやっていたホラー番組のオマージュです。
――フェイクドキュメンタリー番組で自ら“フィクション”と名乗ることは枷にもなる気がしたのですが、あえてそう名付けた理由を伺いたいです。
皆口 フィクションと現実の境目を曖昧にすることは演出の一環として目指すべきところですが、フィクションと銘打っておかないと本当のことだと勘違いする人が出るからです。
大森 これはテレビというメディアだから強調した部分でもあります。例えば、「フェイクドキュメンタリーQ」と本作では視聴者との出会い方が違います。つまり、YouTubeは利用者の検索によって能動的に作品に近づく傾向が強いですが、テレビは偶然見てしまう受動的な傾向が強いメディアです。
時間帯を考えると本作の視聴者数はだいたい30万人ほどと予想されるのですが、そのうちの大半は何も知らずに見る人でしょう。その人たちにフィクションだと銘打った上で、ウェルメイドなフェイクドキュメンタリーを届けたいと思いました。
――では「TXQ FICTION」の「TXQ」にはどんな意味合いが込められているのですか。
大森 実を言うと私が最初の企画書で仮に書いていた名前が「TXQ FICTION」だっただけです(笑)。「FICTION」の部分は文字通りフェイクドキュメンタリーを指していて、「TX」はテレビ東京の略称、「Q」は「フェイクドキュメンタリーQ」から取っています。
皆口さんが重要視するホラーの要
――ビッグネームが集結した本作ですが、制作時にクリエイター同士のこだわりがぶつかることはありましたか。
大森 終始和やかでしたよね。やりたいことの方向性が近かったのでしょう。実際に、近藤監督とは「雪山での撮影も実現させたいですね」と話しました。雪山って怪談的な文脈で見ると日常とは切り離された異空間なのですが、そんな場所で撮ったらどんな作品になるのかと盛り上がりました。
皆口 撮影現場を仕切ってくれた寺内監督の手腕も印象的でしたね。フェイクドキュメンタリーでは“演技に見えない演技”が重要なんですが、この塩梅を言語化するのは難しいんです。出演いただいたフリーアナウンサーの安東弘樹さんやお笑いコンビ・ラランドのサーヤさんはこうした作品は初めてでしたが、寺内監督は彼らの演技に具体的な指示をほんの少し足すだけでその“演技感”を取ってしまう。心霊ドキュメンタリー作品などで“生の空気”を数多く撮ってきた流石の腕前でした。
――背筋さんの小説「近畿地方のある場所について」や、雨穴さんの書籍とその映画化作品である「変な家」など、昨今は“読者による考察要素”もホラートレンドのひとつです。こうした要素は意識しましたか。
皆口 自分は天邪鬼なので世間でウケた要素は取り入れませんでした(笑)。ファンの方が熱心に考察してくれている「フェイクドキュメンタリーQ」も、実は考察要素よりも“生理的に怖い表現の追求”が念頭にあります。考察できる余白と疑問の答えも用意していますが、これはあくまでも“余白があった方が怖い”から。
もちろん、例に挙げていただいた作品も考察だけで成り立つとは思いませんが、こうした要素だけが評価されて「考察しなかったらこの作品をわかっていないよね」みたいな風潮が加速するのは違うのかなぁ、と。なので、本作はあまり構えずに怖がることができる作りになっていますよ。
文=むくろ幽介
写真=細田 忠
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