「ロシア派兵も無駄だった」餓死者が出始めた北朝鮮の食糧難
デイリーNKジャパン / 2025年1月25日 5時9分
昨年末に開催された朝鮮労働党中央委員会第8期第11回総会拡大会議で、穀物生産量が計画の107%に達したと報告された。
一方、韓国の農村振興庁は、北朝鮮の2024年の穀物生産量が478万トンで、2022年の451万トンよりは増加したものの、2023年の482万トンより4万トン減少している。(いずれも推定値)北朝鮮が1年間に必要とする穀物は659万トンで、依然181万トンが不足している。さて、実際はどうなのだろうか。
北朝鮮北部の両江道(リャンガンド)の都市部では、秋の収穫から間もないのに既に食糧が不足している。一部では餓死者も出始めていると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。
現地の情報筋は、「ポリッコゲ」(前年の収穫の蓄えが底をつく春窮期)はまだ遠いというのに、道内の食糧難の深刻な地域に住む人びとは、1日の食事を3食から2食に減らしたと伝えた。北朝鮮国内には、派兵の対価としてロシア産小麦粉の流入も一部で伝えられているが、それが助けになっている様子はうかがえない。
(参考記事:北朝鮮「骨と皮だけの女性兵士」が走った禁断の行為)
情報筋によると、両江道の人口は55万人だ。これは、公式な数字の71万9000人と比べるとかなりの乖離がある。北朝鮮では少子化の進行が深刻と言われるが、それを示す数字と言えるかもしれない。
(参考記事:「離婚したら刑務所行き」でも防げない北朝鮮の少子化)
55万人のうち、25万人が農民で、30万人が公務員やその家族だ。道内の2つの市の中心部、10の邑(ウプ、郡の中心部)、55の労働者区に住む人は12万人に達するが、そのうち邑に住む5万人の労働者が、最も深刻な食糧難に直面している。
中でも最も深刻なのは金正淑(キムジョンスク)邑だ。そこにはこんな理由がある。
「両江道の三池淵(サムジヨン)市、大紅湍(テホンダン)邑、普天(ポチョン)邑、そして金正淑邑は、革命戦績地となっていて、周囲の山がすべて特別保護林に指定されている。そのため、住民は(山を切り拓いて)トゥエギバッ(個人が耕す小規模農地)を耕作するのも困難なのだ」(情報筋)
(参考記事:野犬に襲われ無残にも…北朝鮮「21歳女性兵士」の悲劇)
三池淵は、故金正日総書記の「生まれ故郷」ということにされているため、糧穀販売所(国営米屋)に行けばなんとか食糧が購入できる。大紅湍は農業が盛んで、中でもジャガイモが全国的に有名であり、食糧事情にまだ余裕がある。
一方で、普天と金正淑は農地そのものが少なく、トゥエギバッの開墾もできないため、食糧事情が逼迫している。労働者は空腹のあまり職場に出勤できないほどだ。他の7つの邑は幾分マシだが、それでも同様に食べるものがなく、出勤できない人が多いため、新年恒例の「堆肥戦闘」(人糞を集めて畑にまく肥やしにする作業)の計画(ノルマ)が達成できない状況となっている。
(参考記事:北朝鮮、新年恒例の「人糞集め」でトラブル続出)
道内に住むある知識人は、昨年1月に労働者の平均月給が2500北朝鮮ウォン(当時のレートで約34円)から3万北朝鮮ウォン(約210円)と大幅に上げられたが、これに伴い物価が高騰したと伝えた。市場で1キロ5000北朝鮮ウォン(当時のレートで約85円)で売られていたコメは、1年で8500北朝鮮ウォン(約59.5円)まで上がった。これはまだマシな方で、物によっては2倍以上になったものもある。
なお、恵山では昨年1月5日、1ドル(約156円)が8300北朝鮮ウォンで取り引きされていたが、今年1月18日は2万1800北朝鮮ウォンだった。円ベースでむしろ値が下がっているのは、このような深刻なウォン安のせいで、それを引き起こした一因が、急激な賃上げによるインフレとの見方がある。
(参考記事:通貨価値が3分の1、物価は2倍になった北朝鮮で広がる新しい形の「貧富の差」)
名目賃金は上がっても、物価高騰により実質賃金はさほど上がっておらず、道内の工場、企業所の9割が生産ができていないため、労働者は月給を受け取れない。また、税収が得られないため、公務員も月給を受け取れない。「堆肥戦闘」には駆り出されるが、タダ働きだ。
人びとは、市場で商売してその利益で生活を成り立たせていたが、そもそも、邑の人口は大体5000人ほどで、人口20万弱の恵山の市場などと比べて儲けが少なかった。そのうえ当局が市場への締めつけを強化したことで、以前にも増して儲からなくなってしまった。
国は、恵山の糧穀販売所には食糧を供給しているが、邑の食糧販売所には1グラムのコメも供給してくれないため、たとえ現金があっても、穀物の売買が禁止されている市場で買うしかない。その現金もない「絶糧世帯」が続出し、「餓死に追い込まれる人も出ている」と情報筋は伝えた。
金正恩氏は、「地方発展20✕10政策」を打ち出し、毎年全国の20の邑に工場を建設し、10年以内に地方に住む住民の生活を改善させるとの方針を示したが、地域住民は苦言を呈した。
「邑に住む人々には食べるものがないというのに、なぜ工場が必要なのか」
道内では、3月から「ポリッコゲ」が始まるが、その前から食べるものも現金もなく、国の対策がなければ2月には餓死者が続出するだろうと、この知識人は見ている。
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