クローガーのアルバートソンズ買収はなぜ失敗したのか、在米ジャーナリストが解説
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2025年2月4日 20時59分
米生鮮最大手のクロ―ガー(Kroger)が246億ドル(約3兆8600億円、1ドル=157円で計算)で同業のアルバートソンズ(Albertsons)を買収する計画が、2024年12月にご破談となった。米連邦取引委員会(FTC)による「合併は反トラスト法(独占禁止法)に違反しており、米食品スーパー間の競争が損なわれる」との主張を裁判所が認める判断を下したためだ。その後、アルバートソンズがクロ―ガーを提訴するなど混乱が続くが、両社は何を間違えたのか、米生鮮チェーン業界はどのように対応してゆくのか、米論調から読み解く。
全米4400店舗のメガチェーンの夢
クロ―ガー(本社:オハイオ州)によるアルバートソンズ(本社:アイダホ州)の買収は2022年に発表されたものだ。
東部や南部、中西部など35州に傘下ブランドを含む2750店を展開するクロ―ガーと、西部を中心とする34州で傘下のセーフウェイ(Safeway)など2200店を運営するアルバートソンズの合併は、FTCによる独禁法審査を通過するためおよそ580店を米卸売大手のC&Sホールセール・グローサーズ(C&S Wholesale Grocers、本社:ニューハンプシャー州)に売却する計画が予定どおり進んだとしても、年間売上高約2000億ドル(約31兆4000億円)、店舗数が4400近く、従業員数も70万人近い規模となる屈指の買収案件であった。
クロ―ガーは大規模な物流センター網を構築できる一方で、薬局やガソリンスタンドなど付随業務においてもスケールを追求できるチャンスであった。また、こうした大型統合が米小売業界に大きな再編の波を引き起こすことは不可避だと見られていた。
しかし、バイデン政権は当初からこの合併案件の阻止に動いていた。スケールの競争で大手よりも不利な立場にあり、「ジリ貧」を打開する必要があった中堅のアルバートソンズは、当局の反対と裁判所の判断で前進の道を阻まれたかたちだ。
ついにアルバートソンズは、「クローガーは途中で気が変わり、故意に規制当局に対して重要な合併の詳細を隠蔽し、合併を阻止するための遅延作戦を採用した」と主張し、クロ―ガーを提訴するに至った。
クロ―ガー側は、こうした主張を一蹴。「アルバートソンズの主張はまったく根拠がない」として、争う構えだ。少なくとも当面の間は和解が不可能に見えるが、そもそもなぜ、この買収は失敗したのだろうか。
政治化したインフレ、時流を読み切れず
米生鮮小売チェーンに関するニュースサイトの米グローサリー・ダイブ(Grocery Dive)のキャサリン・モラン編集委員などは、クロ―ガーのアルバートソンズ買収の失敗に関して、12月18日付の解説記事で学ぶべき教訓を分析した。
両社の合併は屈指の生鮮チェーンを誕生させる「メガディール」であり、タイミング的に最悪であったとモラン氏らは説明した。
また、余剰店の売却先として選定されたC&Sホールセール・グローサーズは卸分野で強みを持つものの、小売部門では24店舗しか運営経験がなく、いきなり580店を買い取ってもきちんと地元の買い物客の役に立つ経営ができるのか、当局から疑問視されたのである。
米コンサルティング企業アルバレス&マーサル(Alvarez & Marsal)のジョン・クリア専務は同記事で、「当該案件に関するアプローチはクロ―ガーとアルバートソンズの利益を中心に組み立てられており、消費者が置き去りにされていた」と指摘した。
事実、両社は合併計画の発表から2年が経ってようやく「合併すれば値下げを提供する」と公表したのだが、その約束に法的拘束力はなく、とくに食料品のインフレが大統領選挙の主要争点になる政治的な環境の下、不信感を持たれる結果に終わった。
クリア氏はさらに、「(毎日の食品購入という重要性から)生鮮食品店には(独禁法上の)より高い基準が求められている。また、実際以上に消費者から『スーパーマーケットは価格を吊り上げている』と思われやすいことに注意が必要だ」と語る。
たとえば、民主党の選挙専門家であるブラッド・バノン氏は政治サイトのザ・ヒル(The Hill)で、「クロ―ガーとアルバートソンズの合併は、北西部ワシントン州の消費者だけでも年間8億ドル(約1250 億円)の負担増になるはずだった。買収失敗は一般消費者にとり勝利だ」との論調を展開している。
2025年も合併案件続々の予感?
さらに悪いことに、大統領選の期間を通して民主党のバイデン大統領、そしてのちに民主党候補に指名されたハリス副大統領、共和党のトランプ大統領はすべて食品価格を下げることを公約にしていた。合併による独占的地位により価格上昇が想起されるメガチェーンの誕生は、政治的にも問題化しやすかった。
一方、候補者たちは合併反対の立場を取ることで、物価高に対する国民の政治に対する怒りのはけ口として買収案件を利用できた。クロ―ガーとアルバートソンズはインフレが高進した時期に、消費者と規制当局、政治家たちに対するコミュニケーションで失敗したと言えよう。
こうして失敗に終わった業界の再編だが、2025年1月にトランプ政権が発足しても、合併案件は次々と出てくるだろうというのが、米小売業界の一致した見解だ。なぜなら、中堅や小規模チェーンはスケールにおいて大手の競争から置き去りにされており、経営が成り立たなくなってから安く買収されるよりは今、積極的に吸収合併を求める方が得策であるからだ。
米金融大手バンクオブアメリカは、クロ―ガーのスケール効率性を高く評価し、株価目標を70ドルから75ドルへと引き上げた。対するアルバートソンズは、店舗売却などで経営をスリム化して、より魅力的な買収対象になろうとすることが考えられるという。
その際には、「消費者の利益追求」という主張がより前面において採用されるのではないだろうか。
外部リンク
この記事に関連するニュース
-
こんなに理不尽なことが許されるのか…「890億円の違約金は不可避」日本製鉄が米国で悪魔扱いされるゲスな真相
プレジデントオンライン / 2025年1月16日 18時15分
-
米独禁法運用部門の司法省への一本化、共和党下院議員が法案再提出
ロイター / 2025年1月16日 8時59分
-
あんなに好条件だったのに…「日本製鉄に買収してほしい」USスチールの従業員たちがそう切望する本当の理由
プレジデントオンライン / 2025年1月10日 9時15分
-
日鉄が執るべき事態突破策/日沖 博道
INSIGHT NOW! / 2025年1月9日 7時7分
-
日本製鉄 USスチール買収への不当介入に対して複数の訴訟を提起
Digital PR Platform / 2025年1月7日 10時15分
ランキング
-
1「横浜駅に頼らない路線」神奈川県ご当地鉄道事情 代表格は「ロマンスカー」でおなじみの大手私鉄
東洋経済オンライン / 2025年2月5日 6時30分
-
2【速報】ホンダとの経営統合が破談 日産が協議“打ち切り”方針を固める ホンダからの「子会社化」提案に反発 幹部「到底受け入れられない」
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年2月5日 15時38分
-
3「一緒にやっていくのは難しい」ホンダと日産の経営統合“破談”が現実味 ホンダは日産の「子会社化」を打診も日産幹部「受け入れられない」と反発
TBS NEWS DIG Powered by JNN / 2025年2月5日 11時51分
-
4ホンダ・日産の株価急上昇、需給巡る思惑先行 破談報道でも
ロイター / 2025年2月5日 10時39分
-
5やりすぎやん、スシロー! 鶴瓶のCM“抹消”は危機管理的にアリかナシか?
ITmedia ビジネスオンライン / 2025年2月5日 6時10分
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
記事ミッション中・・・
記事にリアクションする
エラーが発生しました
ページを再読み込みして
ください