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世界の「自国ファースト」カントリーリスクにアパレル業界はいかに対応すべきか

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2025年1月13日 20時55分

JannHuizenga/istock

頻発する自然災害に政治的理由から起こる自国優遇主義がビジネスをするうえで、大きな障害になっている。そうしたなかで日本のアパレル企業はいまとこれからどんなことに注意すべきかをもまとめた。

JannHuizenga/istock
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アパレル産業は99%がオフショア生産!

 アメリカ合衆国大統領に返り咲くドナルド・トランプ氏は前大統領時代と変わらず「自国ファースト」を高らかに叫び、国民の信を得ており、移民問題などを抱える欧州各国も次々と右傾化している。日本列島の上空を、核弾頭を搭載可能なミサイルが次々と撃ち込まれている中、日本人は相変わらず「アメリカ様が守ってくれるから安全」とばかりに、緊張感はない。

 さらに、トルコ・シリア地震: 2023年2月6日にトルコ南東部とシリア国境近くで発生したマグニチュード(M)7.8の大地震。アフガニスタン・パキスタン地震: 2023年3月21日にアフガニスタン北東部で発生したM6.5の地震。モロッコ地震: 2023年9月8日にモロッコ中部で発生したM6.8の地震。フィリピン豪雨: 2023年1月から各地で発生した豪雨・洪水・地すべり。カリフォルニア州豪雨: 2023年1月にアメリカ・カリフォルニア州で発生した豪雨・暴風雨・洪水。などなど、サプライチェーンを分断する自然災害が世界のあちこちで起きている。日本でも、直近で2024年1月1日の能登半島地震をはじめ、あちこちで地震や水害が起きている。

 こうした中、アパレル産業は99%がオフショア生産であるため、戦略的なサプライチェーン・マネジメントの構築を急がなければならなくなっている。

「サプライチェーン」とは何か

 本論に入る前に、サプライチェーンの言葉の定義を確認しよう。よく混同されるのは、バリューチェーンとサプライチェーンの違いだ。

 バリューチェーンとは、「価値連鎖」のことであり、そこを通れば、「価値が上がる」流れを指し示したものだ。例えば、生成りの糸を染色工場に投入し、青色に染めると、青色の糸が染色工場からでてくる。その場合、染め賃が白糸に付加されるわけだ。そして、染まった糸が編み工場にはいれば、青い糸が布となってでてくることになる。この場合、白い糸は染色工場で色という付加価値をつけ、横網されて布になるバリューチェーンを通って、付加価値をつけてゆくわけだ。

 これに対してサプライチェーンは、特にその場所を通ることで付加価値が付くか否かは関係ない。例えば、商社等が口銭(商社の利益)をグループで分けるため、子会社に仕入をさせて売上を上げるということをやっている。この場合、この子会社はサプライチェーン上に存在はしているが、何ら付加価値は付けていない。むしろ、外した方がよい。この場合、この商社の子会社は、サプライチェーン上には存在するが、バリューチェーン上には存在しないことになる。

 そして、このサプライチェーンを管理する(management)ことを「サプライチェーン・マネジメント」というわけだ。これを短縮してSCMなどというが、最後のMは「管理」という意味が含まれているから、「SCMが台風で分断された」という表現をよく目にするが、これは誤訳だ。サプライチェーンの管理が分断されたのではなく、サプライチェーンが分断されたという意味にすべきだ。あえて短縮して使いたいなら「SC(Mが付かない)が分断された」というべきだろうがSCだと他の言葉の略語が想起される。ここはよく間違えて使われているので、気をつけたい。

 

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カントリーリスクに対応せよ!

fikretow/istock
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 サプライチェーン、サプライチェーン・マネジメントの意味を理解した上で、冒頭の話に戻ろう。対応すべきカントリーリスクとしては、「自然災害によってサプライチェーンが混乱した」「分断した」などという話に加え、ある国が政治的思惑(多くはポピュリズム的に国民の支持を取り付けるためだ)から巨大企業に目をつけ、「あの会社の製品の輸入には関税をかけろ」というように、ビジネスを政治的な意味で妨害するケースがある。政治の具にされる、あるいは国際間経済戦争で槍玉にあげられる(時にはとばっちりを受ける)ケースだ。「自国ファースト」の流れが世界中に広がってきた今、こうした政治・社会情勢のリスクも高まってきている。

 また、日本のアパレル産業は、99%がオフショア生産(海外生産)なので、為替の上下で、仕入れ値が大きく変わる。特に、ドメスティックを中心にビジネスを展開している日本のアパレルは、大打撃を受ける。これに対してファーストリテイリングのような、日本で唯一といってよい、海外の方が日本の売上より大きく、また、利益も大きな企業は円安になると、海外の資産価値が大きく上昇するのだが、これはまだ特殊な事例だ。

 海外に行けば国ごとにいろいろなリスクが存在する。例えば中国は「世界の工場」とよばれ、繊維製品のみならず、あらゆる産業の下請け、OEM(委託者ブランド名製造)などを受けている。この中国は、米国との経済的な対立から、コロコロと法規制が変わり、対応するのが非常に大変になっている。

 中国 VS 米国といえば一昔前はイデオロギー(資本主義か共産主義か)だったが、今は経済対立に変化し、例えば、中国のウイグル地方で人権侵害が起きたとなると、ユニクロの製品輸入が米国で停止されたりした。このような、国ごとのリスクは千差万別だ。東南アジアは俗にいう「手が良い」(細かい作業が得意)のだが、繁忙期になると生産能力のパワーが弱いため対応できなくなるし、バングラデッシュやミャンマーなどは、非常に大きなロットの発注には対応できるが、リードタイムが非常に長く、また、細かな追加対応も難しい。このように、国ごとにさまざまなリスクが存在するわけだが、これを「カントリーリスク」という。

リスク分散で行う「プラスワンとは」

 こうした、国ごとの政治、社会情勢、ビジネス上のリスクを分散化し、中国の北と南、東南アジア、タイ・ミャンマーのように、生産国を「分散化」をすることを「チャイナプラスワン」という。この「プラスワン」は、株式投資のようなもので、一点集中から複数にすることでリスクを最小化するというものだ。非常時に取り得る戦略というよりは、非常時に備えて採る「分散化戦略」である。

「最小ロットの問題」をいかに解決するか

 このように生産国を分散化すると、一つの国への発注量は少なくなる。特に、日本のアパレルは2万社弱あると言われ、そのほとんどが売上100億円未満だ。それを、仮に4分割すると、いままで50億円(アパレル企業の調達量は売上の約半分)だった発注量が25億円に減ってしまい、取引高が大きく減少する。こうなると最悪の場合、工場からお付き合いを断られるケースも起こるだろう。この場合どうすべきか。

 答えは、「商社を使え」だ。コスト意識を高めるため、自社貿易から商社をつかった間接取引にし、商社に他のアパレルとまとめてもらってロット数を上げるのだ。特に仲の良い商社は大事にし、小さいロットでも受け入れてもらえるように、普段からのコミュニケーションは大事にしたい。

 以上が、地政学リスクの回避方法・対応策である。

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プロフィール

株式会社FRI & Company ltd..代表 Arthur D Little Japan, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナー等、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。The longreachgroup(投資ファンド)のマネジメントアドバイザを経て、最近はスタートアップ企業のIPO支援、DX戦略などアパレル産業以外に業務は拡大。会社のヴィジョンは小さな総合病院

著作:アパレル三部作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送Bizbuzz Japan」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議に出席し産業政策を提言。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言

筆者へのコンタクト
https://takukawai.com/contact/index.html

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