事業急拡大組も仕切り直し組も ネットスーパー、顧客争奪戦の勝者は?
ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2025年1月24日 19時55分
大手ネットスーパーが体制を仕切り直し
長年にわたり試行錯誤を続けてきた小売業のネットスーパーが新展開を迎えている。
富士経済の予測によると、2025年のネットスーパーの市場規模は3710億円。2年前、23年との比較で22.0%増となるという。
コロナ禍で急拡大した需要に対応すべく、ネットスーパー運営各社はここ数年、対応エリアの拡大、品揃えの拡充などを推進してきた。イオン(千葉県/吉田昭夫社長)グループの「Green Beans(グリーンビーンズ、23年7月にサービス開始)」をはじめ新規参入も相次いだこともあり、市場は堅調に拡大していく見通しだ。
そうした中、直近はネットスーパーの体制を仕切り直す動きが相次いでいる。大きく注目されたのが、イトーヨーカ堂(東京都/山本哲也社長)のネットスーパー営業終了、そして新デリバリーサービスの開始だ。
同社は24年12月、センター出荷型と店舗出荷型で展開していた自社ネットスーパーの営業を終了を発表。以前から協業するONIGO(東京都/梅下直也代表CEO)と資本業務提携を締結し、店舗出荷型による新サービスを25年2月から開始する。
西友(東京都/大久保恒夫社長)と楽天グループ(東京都/三木谷浩史会長兼社長:以下、楽天)もネットスーパー事業を仕切り直す。両社は店舗出荷型とセンター出荷型を組み合わせた「ハイブリッド型」のネットスーパーを展開していたが、23年12月に合弁を解消。24年9月から、西友は店舗出荷型、楽天はセンター出荷型をそれぞれ単独運営するかたちで再始動している。
アクシデントに見舞われたイズミ(広島県/山西泰明社長)もネットスーパー事業を大きく方針転換した。24年2月に大規模なシステム障害が発生し、ネットスーパーも休止に追い込まれた同社。復旧後は、送料モデルから定額制へと大胆にモデルチェンジしている。
そのほかの大手ネットスーパーは自社サービスを順調に拡大中だ。
イオングループではGreen Beansの開始から1年半が経過した。現在までに対応エリアを順調に拡大中で、26年と28年にそれぞれ新センターの開設も控える。イオンリテール(千葉県/井出武美社長)ら事業会社が運営する店舗出荷型ネットスーパーも好調だという。
食品スーパー(SM)との協業による提携ネットスーパー、直営のセンター出荷型ネットスーパー「Amazonフレッシュ」と、2つのネットスーパーを展開するアマゾンジャパン(東京都/ジャスパー・チャン社長)も存在感を増している。
同社は24年6月、従来は「Amazonプライム」会員だけだったネットスーパーの利用を非プライム会員にも開放。24年9月には、リテールパートナーズ(山口県/田中康男社長)と新たに協業することを発表し、提携SMは5社に増えた。
若年層の利用意欲低下、市場に漂う停滞感
体制がおおむね整い、各社の取り組みが本格始動したかたちだが、足元では気になる兆候が見られている。
本特集恒例の消費者調査によると、生活必需品の購入先としてネットスーパーを利用する割合は21.0%と前年から2.0ポイント(pt)減少した。
また、利用者のうち、「(現在メーンで使っている)ネットスーパーを今後も使い続けたいか」という設問に「はい」と回答した人は全体の78.4%だった。高い水準ではあるものの、前回調査と比較すると、「はい」の割合は3.9pt減少。年代別にみると、30 代が9.6pt減、20代が5.8pt減と、とくに若年層で利用意欲低下の傾向がみられている。
背景にあるのは、昨今続く物価高、それに伴う節約志向の高まりだ。食品通販市場に関するレポートを発表している矢野経済研究所も、実店舗への需要流出などの理由から成長鈍化を予測しており、この先、ネットスーパー市場が一気に拡大していくという可能性は低そうだ。
急拡大が終わり、停滞感がうっすらと漂い始めたネットスーパー市場。この影響を受けそうなのが、初期投資が重く、売上を大きく確保して高い固定費分を賄うセンター出荷型のネットスーパーだ。
センター出荷型は注文件数を増やしてセンターの稼働率を上げ、黒字化をめざすモデルであるのは周知のとおり。既存顧客のリピート率向上はもちろん、「ネットスーパーをまだ利用していない層」を開拓して取り込んでいく必要があり、そのためにはGreen Beansのようなきわめて積極的なマーケティング投資が求められる。
新規顧客を次々と獲得し、「飛躍的な成長を毎年継続的に実現できるか」が成否を分けることになりそうだ。
「儲けさせてくれるお客」を各社が奪い合い!
ネットスーパーが勝つための条件は、「儲けさせてくれるお客」をどれだけ多く自社で囲い込めるかに尽きる。
お客が時間をかけて店まで足を運び、売場を回って商品を買物カゴに入れ、自分で会計を済ませる──これがセルフサービスであるSMのモデルだ。
一方、ネットスーパーは、商品のピッキングから配送までをすべて店側、運営者側が行うため、当然そのぶんコストは高くなる。店舗と同じ売価で販売したり、「送料無料」のようなキャンペーンを安易に行ったりしていては利益を確保するのは難しい。
しかも一般的なネットスーパーは、米や飲料、酒類などの重くてかさばる商品をまとめ買いするケースが多い。それでは粗利益率の高い生鮮食品の売上高構成比は低く、利用頻度も低いままだ。いかにバスケットに占める生鮮食品の割合を上げて、粗利益額を確保しつつ、利用頻度を高めていくことが勝負を分けるカギとなる。
その点で、高頻度を実現することに主眼を置いているのが、スーパーサンシ(三重県/田中勇社長)である。「サンシモデル」は、定額制の“使い放題”とすることで、実店舗と同等の利用頻度、生鮮構成比を実現している。また、高密度の自社配送により注文1件あたりの変動費を低減。早期の黒字化を可能としている。
西友では、店舗を「OMOサービス拠点」と位置づけ、ネットスーパー単独で黒字化をめざすのではなく、実店舗とネットスーパーの併用を促し、商圏内に住むお客のウォレットシェアを高める戦略を採っている。これにより、ネットスーパーの運営するほぼ全店で黒字化を達成しているという。
このほか、頻度は高くないものの、高い独自性で支持を集めているのがオーケー(神奈川県/二宮涼太郎社長)のネットスーパーだ。同サービスは最低購入金額を1万円(税抜)に設定し、かつ配送料として注文金額の3%を徴収するモデルをとっている。
他社サービスにはないユニークな料金体系だが、商品価格は店頭売価と同じとすることで「ネット一番の安値」を実現、圧倒的なバスケット単価で存在感を増している。
このようにネットスーパー運営各社はさまざまなアプローチで、「儲けさせてくれるお客」を取り込もうとしている。
ただし、この領域にはすでに絶対的なポジションを築いているプレイヤーが存在する。「生協」だ。日本生活協同組合連合会(日本生協連)が公表している、地域生協の宅配事業供給高は2兆904億円(23年度実績)。冒頭のネットスーパー市場規模予測と比較すると、その規模の大きさがわかるだろう。
つまり、「儲けさせてくれるお客」の多くはすでに生協に押さえられており、ネットスーパー同士の競争は小さなパイの奪い合いなのである。もちろん、「生協からどう奪うか」ということも検討していくべきだろう。
急拡大フェーズが終わりを迎え、停滞の兆候が見え始めたネットスーパー市場。仕切り直し組もでてきた中で、儲かるビジネスモデルをどのように構築するか、いっそう頭をひねる展開となってきた。試行錯誤の中で、停滞感をも打破する新たなモデルは出てくるのか。各社の新たな挑戦が始まっている。
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