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「日本最大の6次産業」を標榜、第1次産業を守り、育てていきたい=神戸物産 沼田博和 社長

ダイヤモンド・チェーンストア オンライン / 2014年11月15日 3時0分

「業務スーパー」をフランチャイズ(FC)方式で展開する神戸物産(兵庫県)。「日本最大の6次産業」を標榜し農産、水産、畜産といった分野へも積極的に進出。流通の川上に遡る「製造業フランチャイザー」という独自のビジネスモデルで成長を続ける。沼田博和社長に、現在力を入れている取り組みや今後の展望について聞いた。

好調の要因は価格見直し

──今春、消費税が引き上げられました。駆け込み需要や増税後の動向について教えてください。

神戸物産 代表取締役社長
沼田博和 ぬまた・ひろかず
1980年生まれ。05年3月、京都薬科大学大学院薬学研究科修士課程修了。大正製薬総合研究所を経て、09年4月、神戸物産入社。11年1月取締役、12年2月から現職。

沼田 増税前の駆け込み需要は、想像をはるかに超えるほどの売れ行きでした。本社と同じ敷地内にある直営店舗に至っては、3月の最終週には、かなりの品薄となりました。

 その分、増税後の反動減を心配していたのですが、おかげさまで売上高は全国の大半の店で順調に推移しています。4月に入ってからは第1週目こそ対前年同期比の実績を落としましたが、2週目以降はこれまで前年実績をクリアしています。

──売上好調の要因は何だと考えていますか。

沼田 従来の低価格路線を強め、売れ筋や購買頻度の高い商品を中心に価格を下げたことが奏功したと考えています。具体的には4月から全取扱いアイテムの1割強にあたる500品目の値下げを実施しました。増税前の価格は税込み表示でしたが、増税後は本体価格をメーンに、税込み価格を併記するスタイルに切り替えました。

 たとえば、麺類や豆腐など需要の高い商品を戦略商品と位置づけて値下げを行ったほか、税込み88円均一で販売していた商品の一部を値下げして税別78円均一で大きく展開しました。「徳用ウインナー」(1000g)は以前、税込み498円でしたが、増税後は税抜き460円、税込み496.8円、「おとなの大盛りカレー 中辛」(250g×5)は税込み298円を、増税後は同275円、税込み297円といった要領で改めました。消費税率が3ポイント(pt)の引き上げとなりましたが、いずれも本体価格を3%以上値下げし、税込み価格でも安さを訴求しました。

 増税前後で客単価に大きな変化はありませんが、客数は増加しています。当初、実質値下げによって店舗段階の値入率は0.2pt減になると試算していましたが、一部商品の価格を見直したことによる粗利ミックス、さらに結果として売上高増により粗利額は大幅に拡大しました。

──「業務スーパー」は14年9月末現在で681店と、店舗網の存在感も増していますね。

沼田 2013年10月期は、連結売上高1794億9900万円(対前期比14%増)。14年10月期に入ってからも順調で、今年7月までの第3四半期の実績では売上高1598億8800万円(同24.1%増)、営業利益36億9100万円(同119.1%増)、経常利益43億7200万円(同39.2%増)となりました。最終的に売上高1986億円、店舗は685店以上で着地する見込みです。

92年から製造業を開始

──神戸物産の大きな特徴は「日本最大の6次産業」を掲げ、流通のほか製造業にも進出して、「製造業フランチャイザー」というビジネスモデルを確立している点です。

沼田 一般的に、当社は流通業と見られがちですが、第2次産業である製造業への取り組みは20年以上も前の1992年にスタートしています。創業者の沼田昭二CEO(最高経営責任者)が中国の自社工場でわさびや梅干を製造、海外の日本食レストランや小売業に卸したのが始まりです。

 その後、製造小売業としての性格をさらに強め、08年からは全国の食品メーカーを次々と買収。現在はグループ工場所有数が日本最大規模となる19社22工場となり、日配品や加工食品をはじめとするプライベートブランド(PB)を製造しています。今後もいい案件があればM&A(合併・買収)を進める方針です。

──さらに農産、畜産、水産業といった第1次産業の分野にまで積極的に事業領域を広げています。

沼田 08年10月には北海道むかわ町に農場を取得し、農業生産法人の神戸物産エコグリーン北海道(北海道/太田雄二社長)を設立しました。畜産では10年1月に、同社の農業用地の一角を牧場として使用し、9月末時点で730頭を肥育しています。11年11月に養鶏と処理場を運営するグリーンポートリー(岡山県/沼田昭二社長)を買収。12年5月には、宮城県石巻市に31トンの底引き網漁船を購入して水産業にも進出。今年8月には新たに造船したことで、現在は2隻で操業しています。

──「6次産業」化をめざす意図は何ですか。

沼田 日本における従来型の小売業のビジネスモデルは、大きなバイイングパワーで仕入れ、商品を安く販売する手法です。当社は80年代に小さなSM(食品スーパー)を展開していたのですが、大手と同じスタイルで対抗しても勝ち目がないと判断しました。そこで規模の小さい当社でも継続的に成長できるビジネスモデルとして、製造小売業を志向するようになったのです。原材料の生産、加工、販売までを自社で手がけることにより、高品質で安全・安心な商品を提供。また他社にはない、差別化した品揃えができるのも大きな強みだと考えています。

深刻な世界の食糧事情

──ユニークなビジネスモデルで絶好調ですが、次なる目標はどこに定めていますか。

沼田 すでに着手はしていますが、第1次産業の分野にさらに深く踏み込むのが目標です。自社で農産、水産、畜産業を手がけることで初めてわかったのですが、クリアすべき課題は多いと感じています。

 具体的には、日本においては第3次産業の影響力が非常に大きいことが問題です。つまり小売店で販売できる規格を厳密に定めているため、規格外のモノの行き場がなく生産性を悪化させ、結果として第1次産業が育たない要因となっています。

──確かに曲がっていたり、色がよくなかったりする野菜は店に並びません。

沼田 そうです。品質面では問題がないのに、流通段階による規格の制限によって多くの農産や水産物でロス、ムダが生じています。水揚げされても値のつかない魚の量はかなりあります。

 人口が減少する日本では実感しにくいのですが、世界的には人口は爆発的に増加しており、食糧不足は深刻です。

 一方で、国内の第1次産業の現状に目を向けると、従事者の平均年齢は65歳以上と高齢化が顕著です。これらを総合的に見ると、日本は非常に危険な状況にあるといわざるを得ません。

 そこで、第1次産業の生産性を高め、従事者の収入を引き上げることで、第1次産業を守り、育てていきたい。最終的には当社グループで第1次、2次、3次産業が合理的に連携できるさらに新しい仕組みを構築できればと考えています。

2014.11.1 Chain Store Age

輸入品の新フォーマット

──一方、成長を続ける「業務スーパー」については課題はありますか。

沼田 FC展開をスタートし十数年間、これまで基本的な仕組みの変更なしにきたため、改善すべき点は多いと考えています。

 現在、改革の必要性をもっとも感じているのは、物流コストの削減です。従来、フランチャイジーには、まとまった数量でしか発注できない商品が一部あったのですが、この単位を小さくすることで、加盟店の在庫過多や欠品といった問題を解消したい。細かなムダの排除を重ねることで、「業務スーパー」のさらなる競争力強化につなげていければと考えています。

──「業務スーパー」以外の小売フォーマットの開発にも当たっていると聞いています。

沼田 そうです。今年4月、兵庫県神戸市に新しいフォーマットとして輸入食材店の「ガレオン」をオープンして、手応えを得ています。

 これまで神戸物産は、日常的に必要な食材を低価格で販売することに主眼を置いてきましたが、今後は「ちょっとぜいたくで珍しい」商品を提供するような、主力の「業務スーパー」とは異なるマーケットも探っていく方針です。

 「ガレオン」の1号店の売場面積は25坪で、ここに欧州や米国、アジアなどから自社で輸入した食品を中心に品揃えしています。フランスの菓子や、イタリアのパスタ、アジアの缶詰など約800~900品目を扱っており、中心価格帯は250円です。将来的にはFC展開も視野に、このフォーマットをサポートする輸入小売部門も新設しました。

──どのような商品が売れますか。

沼田 最も売れているのは、オランダの伝統的なお菓子「ストロープワッフル」です。イタリアのワインやホールトマト缶も売れ筋です。自社工場で焙煎した豆を使った、93円(税込100.44円)の「淹れたてコーヒー」も人気があります。

 実は「ガレオン」は、もともと「業務スーパー」を補完するフォーマットという位置づけでした。「業務スーパー」でも輸入品は扱っていますが、原則として大袋が多く、初めての人が試すにはハードルが高い。そこで試食販売を実施するなど、商品を知ってもらう場として開発したのが「ガレオン」なのです。

 しかし実際に開店してみると、「業務スーパー」とはまったく異なる層の顧客に支持されていることがわかりました。現在、2号店に向け、ノウハウを積み上げているところです。

──新たな商品の導入や商品開発のヒントはどのように得ているのですか。

沼田 海外で開かれている商品展示会に継続的に参加し、商品政策に生かしています。「世界の本物直輸入」をコンセプトにした商品も、5年ほど前にある展示会を訪れている時に着想したものです。

 このほか、現在取り組んでいるものにハラールフードがあります。イスラムの律法に適合した食品で、特殊なものが多いのですが、一定の需要があるマーケットとして継続して取り組んでいます。

 現状、トップダウンによる商品開発が9割以上です。ただ今後は、自社の食品工場からの提案などボトムアップ式による商品も増やし、よりバランスのよい商品構成を実現できればと考えています。

米国のSMを定期的に視察

──独自の品揃え、店づくりが特徴の「業務スーパー」ですが、参考にするSMチェーンはありますか。

沼田 沼田CEOとともに定期的に渡米、各地のSMチェーンを視察してエッセンスを取り入れています。感心するのは、どの企業の店舗も非常に独創的な店づくりをしている点です。たとえ、目を閉じて店の中に入ったとしても、店内を一望すればどのSMチェーンの売場であるかがすぐにわかります。自社の店をいかに特徴づけるかについて、徹底的に研究しているのだと思います。

 これに対し、日本のSM企業はどの企業の店かを見分けるのは難しく、同質化競争を繰り広げているという印象です。また米国のSM企業に比べると、利益率は低水準であるといえます。当社としては、米国のSM企業のような、徹底的に差別化をねらった店づくり、品揃えを実践していきたい。実際、「業務スーパー」にしかない商品が多いので、来店していただいているのだと自負しています。

──加盟店のリクルート状況も順調のようですね。

沼田 FC展開を始めた当初は、個人の加盟店が多かったのですが、近年は企業フランチャイジーが複数店舗を展開するケースも増えています。さらに昨年あたりからは、新しい企業の加盟が目立ち、新たな展開に期待しているところです。

──ロイヤルティは仕入れ金額の1%など、一般的なFCの条件に比べ、低い水準であるのも「業務スーパー」の魅力になっています。

沼田 当社はロイヤルティではなく、メーカーとして商品供給を主な収益源と考えているためです。加盟後の自由度の高さも当社FCの特徴です。当社が提供、もしくは販売するのは商品のほか、売場運営のノウハウ、独自の什器などです。本部では取り扱いのない生鮮品などは、原則、加盟店におまかせする方針で、各店とも販売方法を工夫しているようです。

──自由度の高さが各店の工夫につながるという、好循環を生んでいます。

沼田 当社では今後も、他社にはない独自商品の開発に力を入れるほか、「6次産業」企業として、今日、お話ししたような新たなビジネスも探っていく考えです。

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>ニューヨークに和食レストランの1号店を出店 「業務スーパー」のフランチャイズ(FC)展開も計画

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