サンゴはCO₂固定に貢献している!~骨格形成時のpH上昇機構を解明--北里大学
Digital PR Platform / 2024年12月10日 8時5分
■研究の背景
造礁サンゴは、石灰化と呼ばれるプロセスを通じて骨格を形成し、その骨格がサンゴ礁を構成します。この石灰化プロセスは、大気中や海水中のCO₂が海水中のカルシウムイオン(Ca²⁺)と反応し炭酸カルシウム(CaCO₃)として固定されるという一見するとCO₂固定反応です。しかし、従来は、海水中のpHが8 程度であることから、海水中に溶けている炭酸水素イオン(HCO₃⁻)を原料とすると仮定され、式1のような石灰化反応で説明されてきました。
Ca²⁺ + 2HCO₃⁻ → CaCO₃ + CO₂ + H₂O (式1)
そのため、石灰化過程が海水中へのCO₂放出を伴うと考えられ、サンゴの骨格形成が地球温暖化を加速する可能性が議論されてきました。しかし、現在の地表の炭素のうち、約半分は石灰岩などの炭酸塩堆積物として膨大な量のCO₂が閉じ込められており、地球のCO₂固定に大きく寄与しているとの考えもありました。このように、サンゴ礁が地球規模の炭素循環において果たす正確な役割については、不確定な部分が残されていました。生き物がCaCO₃などの鉱物を作る作用をバイオミネラリゼーションと言い、近年の機器分析技術の発展により、バイオミネラリゼーションの解明が進んでいます。
■研究内容と成果
研究グループは、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、コユビミドリイシ(造礁サンゴの一種)のサンゴ幼生の骨格形成部位である細胞外石灰化液(Extracellular Calcifying Medium: ECM)を様々な方法で観察しました。カルシウムイオン(Ca²⁺)を可視化するカルセインという蛍光試薬を用いて海水からECMへのCa輸送経路を調べたところ、サンゴ幼生は細胞間の隙間からCaをECMに取り込んでいることが明らかになりました【添付PDF_図1】。これまで細胞内からカルシウムを輸送するサンゴも知られていましたが、この種のサンゴは細胞間の隙間が大きく海水が容易にECMに入り込むことがわかりました。
また、ECMの微細なpH変化をpHイメージングという手法で可視化しました。その結果、サンゴ幼生は骨格形成時にECMのpHを0.5~1程度上昇させていることがわかりました【添付PDF_図2a】。このpH上昇の機構としてはCa²⁺輸送体の寄与が推定されていました。本研究ではCO₂を保持する生体塩基のポリアミンの寄与を推定し、ポリアミンの輸送体阻害剤と生合成阻害剤をサンゴ幼生の飼育海水に添加してECMのpH上昇への影響を調べました。その結果、ポリアミン輸送体阻害剤を添加した際に、ECMのpH上昇が有意に低下しました。つまり、サンゴは、ポリアミンという生体塩基を用いてECMのpHを上昇させていることを発見しました。このpHの上昇により、炭酸イオン(CO₃²⁻)の供給が促進され、CaCO₃がCO₂放出を伴うことなく効率的に形成されることが明らかになりました。細胞内のポリアミン量も蛍光プローブを用いて可視化することに成功しました。ポリアミン量が多い細胞がECMの周囲に集まっている様子が観察できました【添付PDF_図2b】。
上記の結果をもとに、サンゴ組織の模式図とECMにおける骨格形成反応の新仮説を提案しました。サンゴの炭酸カルシウム骨格は細胞外のECMで作られ、材料となるカルシウムは細胞の隙間を通って海水からも供給されます。サンゴのECMでの石灰化プロセスにおいて、アルカリ化は無機炭素がポリアミンと共にポリアミン輸送体を介して移動することで、pHが上昇し、石灰化を促進すると考えられます【添付PDF_図3】。
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