トリプトファン-キヌレニン経路の変容により誘発されるうつ病の新たな病態メカニズムを解明
Digital PR Platform / 2024年12月12日 14時44分
背景
現在の抗うつ薬はモノアミン仮説※5に基づいて開発されています。しかし、うつ病患者の約40%は治療抵抗性を示すため、うつ病に関連する新たな病態メカニズムの解明およびそのメカニズムに基づいた新たな抗うつ薬の開発が求められています。うつ病の発症メカニズムの一つとして、ストレスや炎症が重要な役割を果たすと考えられています。また、トリプトファン-キヌレニン経路の変動がうつ病などの精神神経疾患と強く関与することがこれまでの研究で示唆されていますが、ストレスがこの経路をどのように変容させるか、その変容がうつ病に関与するのかは未解明でした。本研究では、慢性ストレス負荷によるうつ病モデルマウスを用いて、トリプトファン-キヌレニン経路の関与について検討しました。
研究手法・研究成果
慢性予測不能軽度ストレスによるうつ病モデルマウス(CUMSマウス)を作成しました。このCUMSマウスでは、社会性や意欲の低下を示すうつ様行動が観察されました。また、トリプトファン-キヌレニン経路に関わる代謝物を高速液体クロマトグラフィーを用いて測定したところ、海馬※1という脳領域でキヌレン酸が増加していました。さらに、その経路に関わる代謝酵素の遺伝子発現変化をリアルタイムPCR(qPCR)を用いて測定した結果、経路内の代謝酵素の一つであるキヌレニン-3-モノオキシゲナーゼ(KMO)※3の減少が認められました。免疫染色により、この酵素が脳内の免疫細胞であるミクログリア※4に発現していることが確認され、KMOとミクログリアの発現量の減少も認められました。加えて、血液中でストレスホルモンであるコルチコステロン濃度の上昇がELISA法により明らかとなったため、野生型マウスにコルチコステロンを長期間投与したところ、社会機能と意欲の低下、そしてKMOやミクログリアの発現量の低下が認められました。また、CUMSマウスにニコチンを投与すると、社会機能と意欲の低下が改善されましたが、その改善効果はメチルリカコニチン(α7ニコチン性アセチルコリン受容体拮抗薬)により打ち消されました。さらに、ニコチンはストレスホルモンであるコルチコステロンの産生に関与するコルチコトロピン放出ホルモン(CRH)の増加も抑制しました。
今後の展開
これらの研究成果は、新たなうつ病の病態メカニズムとして、日々の慢性的なストレス曝露は脳内でキヌレン酸を増加させ、それがうつ病病態を形成している可能性を提唱しました。今後、この病態メカニズムに基づいたα7ニコチン性アセチルコリン受容体※2を標的とした新たな抗うつ薬の開発が期待されます。
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